第4話

 お昼の病棟の離れにある、鐘楼からのかーん、かーん、という音色に人々はただなんとなく、あるいは楽しく、あるいはお寿司が食べたいなと思いながら食堂兼ホールへ向かう。

今日のお昼はカレーうどんだ。ホールの張り紙にその日一週間の献立が載っており。なんと全部暗記するものもいれば、ノートに鉛筆で全部書いて、好きな時にそのノートを見返し、楽しみにしたり、がっかりするものもいる。

 ユキユはここの食事がおいしいと、もう五年思っている。中には余ったものを卵とじにしただけではという、不思議なカニカマとひじきの煮物の卵とじがあったり。具なしのラーメン。スープは熱々のが後から来て、素ラーメンのような日まである。

(まだ来ないな……)

 食事をとる時の席は皆決められている。ユキユは窓から離れた、ホールの真ん中の四人がけ机へ。自分に懐いてくる、桜人のアリアから名前をもらった若人たちと、仲良く、しかし静かに食事する。

 ゲームもなく、携帯電話も取り上げられ、あるいは元から必要なしと持っていない。そんな中でこの子達はどう大人になるだろう。

 風を操るというもの。手から火が出るというもの。生きているだけで他人の生気を吸うとおもいこんでいるもの、氷を操るというもの。人の心が読めるんだというもの。

 特に会話禁止ではないが、喋らない。

 喋ってしまえば、それはこの病棟。フリースクール、マリアの幽霊の出る桜の木、そして離れの鐘楼と。執務室にいる、アリアという名前の二十歳の桜人のまとめ役の話にしかならないのだから。

 学校はもっと、部活も、先生の話も、外出先での出来事も話すのに。

 ここでは、みなの殻は薄くとも、破れるということはない。

 どこかで救急車の音が鳴る。

 神経質な子が何人か焦り、職員から頓服薬を水と共にもらっている。

 あの、冷たい雨の少年も、なにかに濡れて服が冷たく張り付き、体の輪郭を浮き上がらせ、ずっと人生が寒いかも知れない。

「……おいしいな」

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