第22話 どんだけスライムだっちゅ~の 3


★視点★ スライムのペロくん


「いや、あのね、ペロくんね、そう簡単に君に来世を教えるわけにはいかないんだなあ、これが」  


 エフさんが、しどろもどろになっている。 


「先輩、ケチくさっ! 来世ぐらい教えてあげたらいいじゃないですか。せっかく便利なアプリがあるんだし」


 アイちゃんが、大袈裟に呆れてみせる。


「いやいや、死者やワンダラーに、前世や来世を教えるのは禁物だって、あちらの上司に忠告をされたんだ。必ずファイナルジャッジが難航するぞって」


「禁物とは『できるだけしないほうがよい』とう忠告であって、『するな!』という禁止命令ではないでしょうが!」


「えーん! えーん! 知りたいよおお! ボク、三途の川を渡る前に、自分が何に生まれ変わるのか知りたいよおお!」


 二人の言い争いを聞いていたボクは、ここぞとばかりに大声で泣き始めた。

 渡船場で列を成す死者たちや、それを取り仕切る社員たちが、幼いモンスターの泣き声に気が付き、何ごとかとこちらを見ている。エフさんは、たじたじだ。


「分かったよ、分かったってば。教えるよ、ただし、ヒントだけだからね、ヒントだけ」


 しめしめ、泣き喚くボクに根負けして、エフさんが、しぶしぶタブレットのトップ画面の青いアイコンをタップして、ボクの来世の検索を始めたぞ。


「……。」

「どうしたの、エフさん? ボクの来世、分かった?」

「……うん、分かった」

「じゃあ、教えてよ。なんだか、とても言いにくそうだね」

「いや、そんなことはないけど……じゃあ、ヒントだけね、ヒントだけ。え~っと、ペロくん、君の来世はね、限りなく透明に近いブルーの、ドロドロとした粘液状の――」


「げっ! ペロくん、来世もスライムじゃん!」


 アイちゃんが、またエフさんのタブレットの画面を横から勝手に覗き込んで、ボクに告げた。


「こらー! アイちゃーん! だから、勝手に覗くなって! それから、たやすくワンダラーに告げちゃ駄目だってばー!」


 エフさんが、慌てアイちゃんの口を塞いだ。


「うわ~最悪! 来世どころか、その次も、その次も、ずっとスライムに転生するってさ! 可哀そう~!」


 エフさんの手を振り払って、アイちゃんが続けざまに告げる。


「こらー! だから言うなってー!」


「う、嘘でしょう? またスライムかよ!」


 愕然として、言葉を続ける。


「しかも、次も、その次もずっとスライムってどういうこと? 決めたぞ! ボク、絶対に三途の川を渡らない! そんなつまらない転生なら、願い下げだ!」


 ボクは、その場から逃げ出した。


「あ、逃げた!」

「アイちゃん、捕まえて!」

 慌てて二人が僕を捕まえようよするが、ボクはそれをピョコリピョコリとかわしつつ、あたりを逃げ回り、やがて河原の大きな岩の下に身を隠した。

「ほら~、アイちゃ~ん。言わんこっちゃない。奥に逃げ込んじゃったじゃなの。どうするつもりよだよ」

「大丈夫です。私に任せて下さい。え~っと、あ、あんなところに、ちょうど手頃な草が」

 外から二人の話し声がする。ボクは、息を殺して岩の下にじっと身を潜めている。すると、おや? 外で何かが動いている。ボクはその何かに目を凝らす。よく見ると、どうやら、穂の部分が小動物の体毛のよにホワホワした野草を、アイちゃんが、こちらに見せつけるようにチョコチョコと動かしている。

……変だな。何だこの気持ち。むっちゃ、アレに触りたい。めっちゃ、アレに飛びつきたい。おもっきり、アレでじゃれまわりたい。


 ぴょ~ん。


 結局衝動を抑えきれなかったボクは、岩の下から飛び出して野草の穂に飛びき、そこをアイちゃんに確保されてしまった。


「ネコかよっ!」


 エフさんが会心の突っ込みを入れた。


「兎にも角にも、もう怒った! 僕は怒りましたよ! アイちゃんがいると話がややこしくなる! 君は、いったん支店に戻ていなさい!」


 エフさんが、アイちゃんを叱りつける。調子に乗り過ぎたアイちゃんが、しゅんとして、建物の中に戻って行く。


「それにしても変だな。いくらなんでも、これだけ同じ生物に転生するかね。よし。念のため、ペロくんの前世も調べてみよう」


 ボクをロープで縛って大きな石に括り付けると、エフさんは、タブレットの赤いアイコンをタップして、今度は、ボクの前世の検索を始めた。


「よし、情報ゲット。……げげげ。ペロくん、この期に及んで隠しても仕方がないから、はっきり言うね。君は、前世も、前々世もスライムだ」


「どんだけスライムだっちゅ〜の!」


「……おや? しかし、その前は、あちらの世界の人間だったようだね。あれ? この人物って……」

 それからエフさんは、しばらくの間、熱心にタブレットを操作して、何ごとかを調べていたが、

「……なるほど。そう言う事か」

 やがて、五分ほど検索を続けていたエフさんが、陰鬱な面持ちでそう言った。


「エフさん、何? 何がわかったの?」


「ペロくん、落ち着いて聞いてね。3代前の君は、あちらの世界で、少年ばかりを狙っては、残虐の限りを尽くして殺す、殺人鬼だったんだ」

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