第23話 どんだけスライムだっちゅ~の 4
★視点★ スライムのペロくん
「ぼ、ぼ、ぼ、ボクが、殺人鬼?」
衝撃の宣告に、立ち眩みがする。吐き気がする。心臓がバクバク鳴っている。
「ペロくん。落ち着け。君じゃない。3代前の君だ。その殺人鬼は、20人目の少年を殺害した後、警察に捕まり、死刑になった」
そうか、毎晩ボクが見る悪夢、あれは……
「3代前の君への罰は、死刑という極刑で済んだように思われた。でも、しょせん死刑なんて、君の肉体に対する罰にすぎなかったということさ」
「……エフさん、ボク、だんだん分かってきたよ。つまり、ボクの魂の罰は、まだ終わっていない」
「その通り。君の魂に対する罰は、君が死んでから始まった。
僕のフェリーマンタブレットの情報によれば、あちらの世界を震撼させた殺人鬼だった君は、モンスター界で最弱と言わるスライムに転生してしまった。さらには、通常であれば、転生と同時に、前世の記憶の一切を喪失するものだが、君は、前世で犯した罪の、その罰として、殺人鬼の記憶の断片を残したまま生まれ変わった」
「そうか。だから、ボク、毎晩同じ悪夢を見るんだ。あれは、3代前の記憶だったんだ」
「君の罰は、それだけじゃ済まない。君は『スライムに転生し、7歳まで成長をしたら、ある日勇者に切り殺される』という生涯を、ずっと繰り返している。君が勇者に切り殺されるのは、今回で3度目だ」
「なんだって!」
「君は、魂の罰として、来世も、来来世も、同じ母から産まれ、同じこの世界で7歳まで成長をして、同じ日、同じ時刻に、同じ勇者に切り殺される運命なのだ。従って、僕とペロ君がこの河原でこうして出逢うのも、これで3度目だ。まあ、当然ながら、僕には以前の記憶はないけどね」
そうか。だから、出逢ったことのないエフさんが、ボクの悪夢に出てきていたわけだ。あの場面も、前世のボクの記憶なんだ。
「ペロくん、君は今、逃れることのできない無限ループの中にいるのだよ。これこそが、神様が君の魂に与えた罰だ」
言葉が無かった。
しばらく、キラキラと輝く、美しい三途の川の水面を無言で眺めていた。
川のせせらぎに耳を傾けていたら、殺人鬼だった頃のボクの記憶が、克明に脳裏に蘇って来た。
同時に、さっき自分が勇者に殺されるまでの恐ろしい記憶も蘇る。
やがて、ふたつの記憶交じり合い、殺人鬼のボクが、スライムのボクを、喜々として虐殺する映像となった。
逃げ惑うボクをボクが追う。同時に、ボクはボクに追い詰められる。ボクはナイフで切りつける。同時に、ボクはナイフで切られる。ボクは悶え苦しむ。ボクは薄ら笑いを浮かべる。
ああ、気が狂いそう。
まだあどけない少年たちを、ボクは、快楽を目的に20人も殺した。少年たちが苦痛に顔をゆがめて死んで行く姿を見ると、ボクは、たまらなく気分が良かった。ボクが殺した少年たちも、刃物で切られる時は、今日ボクが勇者に切りられた時と同じくらい怖かったのだろうな。今日のボクと同じぐらい、痛かったのだろうな。被害者の少年たちにも、ボクと同じように、お母さんがいたのだろうな。愛する我が子を殺されたお母さんは、きっとものすごく悲しかっただろうな。ごめんなさい。許してください。20人の少年たち、本当にごめんなさい。どうかこのとおり、許してください。
ボクは、河原の石に顔を擦り付けてむせび泣き、20人の少年たちに対し、まるで形になっていない不格好な土下座をした。
すると、エフさんが、ゆっくりと歩み寄り、哀れむように、こう言った。
「スライムのペロくん。三度目の正直だよ。ファイナルジャッジです。君は、三途の川を渡りますか?」
「エフさん、ボク、あの渡し舟に乗って三途の川を渡る。スライムに転生し、7歳になったら勇者に殺され、またここに戻ってくる。ボクは、魂の罪を償い続ける」
決断をした瞬間、なんとなく自分の体が、ふわりと軽くなった気がした。
「よし、偉いぞ、ペロくん。ほら、君が最終決断をした途端に、君の名前がタブレットの死亡者リストにアップされたよ。あとはあの渡船場の列に並んで、あの世へ渡って行くだけさ」
エフさんが、賽の河原を、渡船場に向かって歩き始める。ボクは、エフさんの後ろをピョコピョコと飛び跳ねて付いて行く。
「ねえ、エフさん、ボクは、永遠に許されないのかな」
「そんなことはないさ。君の魂は、いつの日か許される」
「エフさんは、その時が、いつなのか知っているの?」
「ん~、まあ、そうなだあ。タブレットに情報として出ていたからなあ」
「あと何回? あと何回、ボクはスライムに転生するの?」
エフさんは、ボクの質問に答えるのをためらっていたが、やがて足を止め、しゃがんでボクの頭を撫でながら、どこか開き直ったように、でもとても優しい口調で、こう言った。
「17回だよ」
エフさんの手に、ボクの体の粘液がベットリと付着する。エフさんは、それをズボンのお尻で拭いた。
……あと17回? あれ、昨日までの悪夢より、数がひとつ減ったな。ボクは無い首を傾げて考えた。
「そうか。これまでに3回、あと17回。合わせて20回。なるほど、ボクが殺した少年の数だ。あはは」
滑稽な運命なり。自分で自分の因果を笑ってしまった。
「エフさん、お世話になりました。次に逢うのは7年後だね」
渡船場に着き、ボクは死者の列の最後尾に並ぶ。
「ペロくん、また逢おう。7年後の今日まで息災で」
「バイバイね」
ボクが、無い手を振ってお別れを告げると、エフさんは颯爽とマントをひるがえし、
「さようなら! それでは、よき転生を!」
そう言い残し、河原の果てに消えて行った。
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