第21話 どんだけスライムだっちゅ~の 2
★視点★ スライムのペロくん
どんな人物かは、もう忘れてしまったけれど、とある人に道案内をされ、ボクは、石造りの簡素な建物の前に辿り着いた。
「あ! 悪夢の人だ!」
お、驚いたあ~。こんなことってある? 毎晩見る悪夢に出てくるシルクハットにマントのお兄ちゃんが、ボクの目の前に現れたのだ。
「アイちゃん、この子がワンダラー?」
悪夢の人が言う。
「はい。この河原に迷い込んでしまったみたいです。死亡者リストには、アップされていない命です。ウフフ。ていうか、小さくて、ちょーかわいいんですけど」
その隣にいる、アイちゃんと呼ばれる女の子が、ボクを見て微笑んでいる。
「ボクの名前はペロ! よろしく!」
この人たちは、さっきの勇者みたいに、ボクに危害を加える人たちではなさそうだ。ボクは、元気よく自己紹介をした。
「え~っと、ペロくん、お兄ちゃんに教えて。歳はいくつ? 君の存在意義は何?」
「歳は、7歳! 存在意義って言われてもよく分からないけど、とりあえず、僕はスライム!」
「了解だよ。名前はペロ。歳は7歳。存在意義は、スライムっと」
悪夢の人は、そう言いながら、首からぶら下げた四角い機械をいじり始めた。
「おっと、申し遅れました。僕は、この三途の川の渡し守で、
「同じくファイナルジャッジヘルパーのアイで~す。ちなみに、私は、まだ見習いですけどね。よろちくね~、ボクちゃ~ん」
エフさんとアイちゃんは、揃ってペコリと頭を下げた。
「よ~し、そうこうしている間に、情報ヒット。僕のフェリーマンタブレットの情報によれば、ペロくん、君は、つい先ほど、草原の岩場の陰に隠れていた勇者に、突然、剣で八つ裂きにされた」
「うん、いきなりだったから、すごくびっくりしたよ」
「突然のこと過ぎて、君は、まだ自分が死んだということを、理解出来ていないようだね。だから弊社のフェリーマンタブレットの死亡者リストに名前がアップされていない」
「え、ボク、死んじゃったの?」
「ここは、現世とあの世の境目、賽の河原。君は今、生と死の境目を彷徨っている状態だ。まあ、ペロくんの殺され方を見る限り、残念だけど、肉体が蘇生する見込みは万に一つも無いけどね」
「……ボク、これからどうしたらいいの?」
「大丈夫だよ。何も怖がらなくていい。何も心配しなくていい。君は、これから、お兄ちゃんがする質問に答えて、あとは、あの三途の川の渡し舟に乗るだけさ。
生きとし生ける者は、みんな、いつかは死を受け入れねばならない。ペロくんも、あの渡船場に浮かぶ渡し舟に乗って、みんなと一緒に、あの世へ渡るんだよ」
すると、エフさんは、マントをひるがえしてキザなポーズを決め、ボクにこう叫んだ。
「スライムのペロくん! ファイナルジャッシです! 君は、三途の川を渡りますか?」
「キャー! すごーい! カッコいいー! さすがはプロのファイナルジャッジヘルパー! 仕事がはやーい!」
ボクがまだ返事をしていないというのに、エフさんの隣にいたアイちゃんが歓声を上げる。
……でも、そうだよな。お母さんにもう会えないのは寂しいけれど、死んでしまったものは、仕方がないもんな。エフさんの言う通り、大人しく三途の川を渡ろうかな。
「エフさん、ボク、決めたよ! ボクは、三途の川を――」
エフさんに、最終決断を伝えようとした、その時だった。
「あれ~? て言うか~、先輩のタブレットのトップ画面にある、その赤いアイコンと、青いアイコン。それっていったい何ですか~? 私のフェリーマンタブレットにそんなのないけど~?」
アイちゃんが首を伸ばし、エフさんの機械を横から覗き込んだ。
「こらこら、ひとのタブレットの画面をこっそり覗くんじゃないよ。これはね、僕がこちらに転勤する際に、僕の上司が特別にダウンロードしてくれたアプリケーションソフトなの。
この赤いアイコンをタップすると、ワンダラーの前世を調べることが出来る。その隣にある、青いアイコンをタップすると、ワンダラーの来世を調べることが出来るんだ」
「えーー! すごーい! ちょーうらやますぃー! ねえ、先輩、タブレット、ちょっと貸して! それ、私に、ちょころびっと貸して!」
「駄目に決まっているだろうが! 離せ、小娘! 僕のタブレットに指一本触れるな!」
……ボクをほったらかしにして、なにやら、二人でじゃれ合っているぞ。
……ふ~ん、エフさんって、死者の前世や来世が分かっちゃうんだあ……。知りたいな。ボクはこの三途の川を渡った後、何に生まれ変わるのだろう? ああ、ものすごく知りたくなってきた。
「んもう、ケチ!」
「ケチとか、そういう問題じゃないっ! ご、ゴメンね~、ペロくん。最終決断の途中だったね~。では、もう一度聞くね。スライムのペロくん! ファイナルジャッジです! 君は、三途の川を渡りますか?」
アイちゃんを振り払ったエフさんが、気を取り直して、再度決め台詞を叫ぶ。
「……来世しだいかな」
ボクは、エフさんとアイちゃんを、軽く睨み据える。
「ら、ら、ら、来世しだい?」
二人が声を揃えて問い、ピキっと凍り付いた。
「うん。ボクは、自分が次に何に生まれ変わるのか知りたい。そして、その来世しだいで、大人しく三途の川を渡るつもりさ」
そう言って、ボクは、悪戯っぽく笑った。
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