第37話 規則ですから

 自分のことを、協調性のない集団行動に向かない人間だと思っている。でも、上には上がいる。私以上にマイペースなのが、この3人。


 イザベラ・サークルメンバーは、ギルドの受付と喧嘩をしていた。


「だから、元の世界では名のしれた狩人だったんだって。そりゃあ、異世界で勝手が違うけど、ワイバーンだって狩ったことがあるんだから」


「あたしだって、元の世界では白の神の懐刀として名の知れた神官だったのよ」


「このわたくしが、冒険者レベルEですって。元の世界の学園では常に優等生でしたのよ。まあそれは、今もですけど」


 3人は冒険者証に書かれた「冒険ランクE」が不満らしい。


「規則ですので。冒険者登録した方は皆、Eランクから始めます。ノルマを達成したらすぐにDに上がれますから。規則ですので」


 このクレーマーを止めてくれよ、という視線を受付嬢にむけられたけど、知らないふりをする。精霊は精霊で、仲良くキュウキュウ、ピイピイ雑談してるし、シャルはただ、にこにこしている。


「カナデが友達と仲良くしているのを見るのって楽しいね」

 

 って言われたけど、友達じゃないから。



「規則です!」


 で、譲らない受付にあきらめたのか、サークルメンバーはおとなしく、ノルマの健康草を探しに行くことになった。

 場所は近くにある普通の山。

 ダンジョンじゃない。

 Eランクはモンスターのいない安全なところでの採取任務がほとんどらしい。

 本当に、普通の山。


「ちょっと、あなたたちも、ちゃんと探しなさいよ!」


 イザベラが草まみれになりながら、わめいている。

 腰まで生い茂る草山を見て、私は立ちすくんでいた。だって、この中に入って草を見分けて探すの? 本気?

 足元で小さなトカゲがにょろっと逃げた。


 健康草の買い取り額は一株10エエン。エエンはこの世界のお金の単位で、だいたい円と一緒。やる気でないなぁ。


「植物を見分けるのは苦手で」


「服が汚れるのはいやよ」


 他の二人はもっとやる気ないようで、格闘術の練習とかを勝手に始めた。精霊のウサギとカンガルーは、キュウキュウ、ピイピイ雑談をしている。仲いいね。


 そして、シャルは、アライグマ精霊が素早く整地し、どこからか取り出した簡易テントの中で、ロッキングチェアに座ってくつろいでいる。こっちを見て、にこにこして手を振った。その側で、アライグマは周りを警戒するように立ち、すっかり、騎士の仕事モードだ。


「もうっ、まじめに探しなさい! 今日中に一人50株は必要なのですからね!」


 イザベラだけが、髪の毛に枯草をつけて張り切っている。でも、そもそも。


「冒険者になる必要ってある?」


 もともと、この強化合宿はアライグマ精霊を強化するため。それと、来年の精霊運動会でリベンジするため。冒険者にならなくてもいいよね。

 そう告げると、


「そ、そんなこと分かってましてよ。これは、サークルの結束を高めるためと、そう、ただのウォーミングアップですわよ!」 


 と、イザベラはごまかした。でも、薬草採取に来ていた、冒険者の子供たちに


「一株100エエンで引き取りますわ。あとで、この宿屋に持ってらっしゃい」


 と声をかけて、健康草集めをあきらめてないみたい。冒険者ランクEが許せないらしく、1人でズルして、ランクアップするようだ。



 そして、遠回りしたけど、やっと、目標のアストラ・ダンジョンへやってきた。

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