第38話 できること

 サークルメンバーで組んだパーティは最悪だった。

 協調性のないブルレッドさんとスノウさんは、分かれ道で勝手に反対方向へ行こうとするし、二人の精霊はキュウキュウ、ピイピイずっと二人だけの世界に入ってる。ちょっと、仲良すぎじゃない?

 でも、一番困るのがシャル。


「ごめんね。僕がいるとモンスターに出会わないね」


 そう、シャルの気配を感じたモンスターは全速力で逃げたり、隠れたりするのだ。しかも、アライグマ精霊はイザベラでなくシャルの護衛につこうとして、イザベラに怒られていた。

 もう、めんどくさい。

 結局、パーティは解散し、自由行動になった。


「カナデ、後はとどめを射すだけだよ」


 フロアにいるボスモンスターをシャルが虫の息にして、私がとどめを刺す。

 っていうズルをしながらの、私のレベル上げ中です。

 満身創痍の大蛇みたいなモンスターは、高枝切りバサミでチョンとつつくと、ジュっと消え去ってキラキラした宝石の付いた剣を落とした。


 やった、またレアドロップアイテム!

 いくらで売れるかな。


 そうやって、敵が襲ってこないダンジョンをすたすた歩いて、フロアボスをやっつけてを繰り返して1日が終了。

 イザベラたちもそれぞれ、なんだか楽しく別行動できたみたい。宿屋の食堂でみんなでご機嫌で晩御飯を食べた。


 そこで、知った衝撃の事実。

 プロフィールカードのレベルは、元の世界からの召喚時の年齢と同じだそうだ。私がレベル18、ブルレッドは17、イザベラとスノウは16。つまり、私が一番年上だった。

 ただ、この世界での寿命は精霊の魔力に影響されるから、年の取り方は聖女次第でレベルとは関係なくなるそうだ。ここに来てからのレベルは、年齢は関係なく経験値を稼いだら上がるみたい。今日けっこうレベル上げたから、この調子だとすぐにおばあちゃんになるのかと思ったよ。よかった。


 宿屋に泊まるイザベラたちに引き留められたけど、シャルの転移魔法で寮に戻ることにした。だって、やっぱり自分の部屋の方がくつろげるじゃない。お風呂だって、ゆっくり入りたいし。

 一番協調性がないのはやっぱり私かも。


「今日はありがとう」


 寮の部屋に戻ってすぐにシャワーを浴びて、お気に入りのスエットワンピースに着替えた。

 ソファーで待っていたシャルの隣に座って、手を取る。

 ゆっくり、聖力を流す。

 シャルはいつものようにとろけるような笑顔で、私を見た。


「楽しかったね。明日も行こう」


「シャルは忙しくない? 仕事は大丈夫?」


「うん、僕じゃなきゃダメな仕事はないよ。」


 シャルは私に膝を寄せて、つないでないほうの手の指を私の髪に絡めた。

 されるままにしていると、シャルはなにも言わずに指で髪をすいた。サラサラという音がする。

 時々、シャルの指先が耳に、そして頬にあたる。くすぐったい。


 シャルの金色の瞳があまりにも近くにあって、その視線の熱さに耐えきれなくなって、目を閉じた。

 くすっと小さく笑った気配がして、私の唇に温かいものが触れた。暖かくて、優しくて、すぐに離れたけど、また、触れてくる。

 何度も繰り返されるそれを、私は、シャルの背中に腕をまわして受け入れた。


 シャルが好き。


 精霊だし、やんごとない身分だし、美形すぎるけど。

 私にはもったいないような、精霊だけど。


 でも、離れたくない。ずっと、そばにいたい。

 この時間が永遠に続けばいいのに。


 そのために、私は何ができるだろうか。

 

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