第36話 初めての冒険

 黒いフード付きのロングローブ、縁には金色の糸で刺繍がしてある。顔をすっぽり隠すようにシャルにフードをかぶってもらったけど、

 うん、美形オーラが漏れ出てきてる。どう見ても一般人には見えないや。なんで? 足が長いから? 姿勢がいいから?

 自分の姿も鏡で見てみた。

 ぶかぶかの白いローブを来た、童顔の女の子。黒い大きな目が鏡を見つめてる。うん、全然ちがう。


「カナデと色違いでおそろいだね」


 楽しそうに、金色の精霊は後ろから抱き付いてきた。首を反らしてあおぎ見ると、金色の瞳が覗き込んでくる。今日も、キラキラ甘いハチミツみたいなまなざし。ちょっと、くらっとして、足に力が入らなくなってしまった。

 シャルがすぐにささえてくれる。

 いけない。しっかりしなきゃ。

 何しろ、今日は冒険者デビューの日なのだ!

 イザベラ・サークルの強化合宿で、ダンジョンのある街へ1週間もおでかけ。初めはいやいやだったけど、買い物して準備を進めると、なんかだんだんワクワクしてきた。


 だって、ギルドで冒険者登録するんだよ。

 小説とかゲームの主人公になったみたい。


 学校の外泊許可証ももらった。契約精霊を連れて行ったらいいんだって。ただし、制服のローブ着用とのこと。実はこのローブは防汚処理魔法だけでなく、現在地推測魔法までかかっているとか。あと、防御魔法も。ただの身分証明以外にも使える付与のついた高級品でした。


「そんなのがなくても、カナデに渡した契約指輪の付与の方が優れているよ」


 って、シャルは自慢げに言ってたけどね。


 集合場所のアストロ・ギルドに着いたのは、私とシャルが最後だった。ギルドの前で目立っているのが、白いマントを羽織った白ウサギ精霊と青いつなぎを着たカンガルー精霊。それと、赤い騎士服のアライグマ精霊。このギルドは聖女学校の生徒がよく利用するので、精霊の街歩きに慣れてて、周囲の人はあまり気にしてないようだけど。  


「遅くてよ。カナデさん。あら?」


 肩までの紫色の髪をカチューシャでまとめたイザベラは近づいてくると、上から下までジロジロとシャルを見た。

 フードを被っているけどキラキラ眩しいもんね。


「まあ、では彼がカナデさんの本当の契約精霊ですの?」


 ん? ああ、ロイが契約精霊じゃないって分かってたんだ。


「騙してたみたいで、ごめん」


 謝ると、イザベラは首を振った


「私を侮らないでちょうだい。あのヒョウ精霊が契約精霊じゃないことぐらいお見通しだったわよ。なぜだか知りたい?」


 イザベラは腰に手を当てて、威張って言った。


「うん。どうして分かったの?」


「指輪よ。契約指輪はペアリングなのに、ヒョウ精霊の指輪は支給品と違って、ヒョウ柄だったのよ!」


 私の観察力はすごいでしょと自慢げにイザベラは高笑いした。


 ヒョウ柄の指輪。気が付かなかったけど、多分ロイは、代理をしてくれた時、わざわざ支給品の指輪と似たのをつけてくれたんだね。でも、つけた瞬間に、ヒョウ柄の指輪になったんだ。ヒョウ柄の呪いのせいで。

 イザベラほんとに観察力あるね。


「カナデさんの精霊のあなた! ご自分は仕立ての良いローブをお召しになってらっしゃるけれど、金銭的に余裕があるのでしたら、カナデさんに支給品の指輪を送るなんて恥ずかしいことはおやめになってくださらない?」


 うわ、ちょっと見直したのに、イザベラがシャルに指を突きつけて、お説教を始めた。


「そういった女性を軽く見た行動は、紳士としてあるまじきことですわ。どんなに貧しい精霊でも、身を削ってでも聖女に手作りの指輪を渡す。それが精霊の矜持ではございませんこと?」


 やめて、イザベラ。この指輪、めちゃくちゃ高級品だから。っていうか、シャルは純金をいっぱい出せるお金持ちだから。


「女性に恥ずかしい思いをさせるなんて、精霊の風上にも置けませんことよ。反省して、きちんとした指輪をお送りなさいませ」


 もう、やめてー。だれか、止めて。

 きょろきょろ見回したけど、頼みの綱のブルレッドさんとスノウさんは、持ってきた装備を見せ合いっこして盛り上がってるし、二人の精霊はキュウキュウ、ピイピイ談笑している。

 イザベラの精霊のアライグマは……震えながら平伏していた。


「あら、オスカーあなた何をしてますの?」


 シャルへお説教をしていたイザベラが、様子のおかしいアライグマに気がついた。


「……!」


 震える精霊が口を開く前に、シャルがその前に立った。


「やあ、僕はドラゴンの亜種の男爵精霊だよ。君は精霊騎士団に所属してるのかな? その赤い服は近衛第三部隊だね。男爵精霊の僕でも知ってるよ。」


 シャルは男爵精霊の所を強調して言った。


「君は礼儀正しいね。でも、男爵精霊に正式敬礼をする必要は全くないよ。僕はしがない男爵だからね」


「!……」


 震えるアライグマは、さらに低く地面に伏せた。


「まあ、オスカー。そんなに怯えることなくてよ。この方はオーギュスト様とは違って、甲斐性なしだけど暴力は振るわないと思うわ。カナデさんと契約するくらいだから、きっとおおらかな方よ」


 どういう意味ですかね。イザベラ、怖いもの知らずだな。

 でも、シャルは怒るでもなく始終楽しそうに、にこにこしている。


 いろいろ、不安はあるけど、このメンバーでパーティを組んで1週間冒険者になるのだ。

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