第26話 精霊運動会

 今日はいよいよ精霊運動会。


「よお」


 片手をあげて教室に入ってきた代理精霊のロイは、ジャージの上下を着て来た。黄色いヒョウ柄ジャージ。 

 いつもいろんなヒョウ柄の服を着てくるけど、どこに売っているんだろう。ヒョウ柄専門店?


「俺様の前を走る奴は誰もいない。早さではだれにも負けない」


 なんて、かっこよくやる気を見せているけど、精霊は参加しませんよ。応援だけですよ。

 でも、私もちょっとやる気になって、クラスカラーのピンク色のハチマキをぎゅっと締めた。揺れたポニーテールの毛先がロイに当たった。ごめんね。


 ちなみに、クラスメイトは私の契約精霊をヒョウ精霊のロイだと思っているみたい。みんなチラチラとこっちを気にしてる。全身ヒョウ柄とはいえ、ロイはかなりかっこいい顔をしてるから。

 シャルのことは、秘密だって言われてるから、訂正はしない。騙しているようで少し心苦しいけど、仕方ないから。


 イザベラのパートナーは、今日はリスの精霊だ。イザベラとお揃いの紫色のジャージを着ている。頭の部分がシマリス。何か食べてるのかな。頬袋が膨らんでて、すごくかわいい。イザベラはにこにこして、リスの頭をなでていた。リスの精霊と仲いいんだね。あんなふうに優しい笑顔もできるんだ。


 ブルレッドさんとスノウさんはリレーのバトンを渡しあって、真剣にパスの練習をしている。隣で、カンガルーの精霊と白うさぎの精霊がキュウキュウ、ピイピイと談笑していた。


 なんか、いいな。


 いつもはマウント取りまくってるクラスが、一致団結して運動会に臨んでる。その横で動物の頭をした精霊がほのぼのとしている。


 こういうの、いいね。ずっと、こんなふうがいいね。


 なんて思っているうちに、先生がやってきた。そろそろ運動場に行く時間かな。今日はがんばろう。


 なぜか、バトラール先生はピカピカの銀色の鎧を着ている。


「いいだろう、これ。ミスリルの鎧だ。本物だぞ。30年ローンで手に入れてな。ダンジョンに行く時は、これじゃないとな」


 え? ダンジョン……?


「ああ、言ってなかったか? スカーラ・ダンジョンだ。ここは各階ごとにワープゾーンがあってな、運動会にはうってつけだ」


 ! なんですと?


 クラス全員が一斉に先生に非難の目を向けた。


 先に言えよ!!


 先生が謝罪しながら説明したことによると、運動会は毎年、スカーラ・ダンジョンという100階建てのダンジョンで行われるそうだ。


 そのうち、2年生が使うのは初心者向けの1階から9階まで。1階から3階までは、指定されたアイテムをモンスターを倒して取ってくる借り物競争。4階から8階までは5人で各階をバトンリレーして速さを競うリレー。

 9階で行われる障害物競争は……。これに選ばれなくてよかったよ。クモやアリジゴク等の巣を作る虫のモンスターが、うじゃうじゃいる中を走り抜ける。

 ひぃー。私には無理。虫、苦手。


「ダンジョンは久しぶりだな。時速100キロで獲物を狩るぜ」


 と、張り切るロイを連れて、ワープ室へ向かった。

 だからっ、精霊は応援するだけだってば。 

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