第15話 耳は重要
その後も、シャルはベッドでくつろいでいる。
「ロイは役に立たないね。登場した瞬間に退場とは。これでは、二人目の契約者には不足だな。代理の役割さえこなせないとは。……使えないな」
高位の精霊貴族らしい傲慢発言をしている側で、教科書とノートを開く。
遠くから精霊感謝祭の音楽と放送が、かすかに聞こえてくる。
みんなが楽しんでいる時に、なんで私は授業の復習してるんだろう。
しかも、狭い部屋で背の高い精霊と二人で。
仲良くカップルで、出店めぐりをしているクラスメイトをうらやましく思う。
ううん、そんなことより、勉強、勉強。
「ごめんね、僕がもっと低位の精霊だったら、一緒に出掛けられたのに」
全然、悪いと思ってない口調で言われる。
ふと、疑問に思ったことを尋ねた。
「貴族の階級って、見ただけで分かるものなの?」
「うん。すぐ分かるよ」
シャルの説明によると、
男爵は獣の耳としっぽをもつ若い男性の姿をした精霊だそうだ。しっぽは服に隠れたりするが、獣耳は絶対に必要だとか。
そして、男爵が力を増やし、子爵になると、なんと、子供の姿になるらしい。獣耳としっぽ付きの子供。かわいいしかない。そっか、メリアンさんの契約精霊のジャック君は子爵なんだ。
「じゃあ、伯爵は?」
「中年男性の姿だね。獣耳つきの。そして、侯爵以上は生まれながらに貴族で、外見は人と変わらないよ」
にこにこ言ったシャルは、つまり、侯爵以上。我が君とか呼ばれてたし。いや、これ以上は考えない、考えない。
つまり、獣耳のついてない侯爵以上の精霊貴族は、本当に少数で、出現したら警戒レベルらしい。同じ貴族でも、男爵はまだ数が多いので、ロイが代理に選ばれたそうだ。
「じゃあ、シャルも耳をつけて変装したらいいんじゃない?」
ハロウィンを思い出して、軽い気持ちで言ったとたん後悔した。
精霊は金色の目を大きく見開いた。
そして、
「はっ、ははっ、あははははっ。ははは」
大笑いした。
壊れた。そう表現してもいいほど、いつも悠然と構えている高貴な精霊が、涙をにじませて、大口を開けて笑っている。
動揺していると、精霊は涙を拭いて、笑い終えた。
「耳。そう、耳か。はは、面白いな」
頭の上で、指で空中に呪文を書くと、
!!
金色の髪の上に長くて真っ黒な耳が2本出現した。
!バニーガール耳!
「似合うかな」
ウサギ耳をつけたイケメンがベッドから誘う姿は、なまめかしくて、官能的で、ぞくっとする。
「しっぽもつけたけど見る?」
ズボンのベルトを解こうとするのを、慌てて手をつかんで止めさせる。
「!……」
手をつかんだまま、何か言おうとしても言葉にならない。
金色の髪の上の黒い耳がぴょこんと揺れた。
「うーん。大きい耳は邪魔だなぁ」
シャルは自由な方の手を空中で動かし、うさ耳が消えた。
「どんな耳がいい?狼?熊?それとも狐?」
選ばせてあげるよとシャルは面白そうに笑う。
「ごめんなさい。耳はいいです。いらないです」
軽はずみに、余計なことを言った自分を後悔した。
本当、ごめん。もう勘弁して、この、存在だけで18禁精霊。
「うーん。困ったな。耳以外だと、……そうか、ツノがあった。
鹿の精霊は耳の代わりに立派なツノをつけるよな」
シャルは頭にツノをはやした。節分の時に見た鬼のツノみたい。金色で、サイズはとても小さい。髪に隠れるぐらいの三角のツノ。
「これぐらいのサイズだと目立たないし、邪魔にならないからいいね。今ある帽子も使えるし、ツノを出し忘れても、髪に隠れてたよって、ごまかせるね」
小さな鬼のツノを生やした精霊は、自分のアイデアにたいそうご機嫌になった。
ちなみに、なんの動物のツノかと聞くと、
「うん? なんだろう? こんな小さいツノの動物いたかなぁ。ああ、そうだ、この前倒したドラゴン、ツノ生えてたな。素材に持って帰ったんだっけ。でも、もっと大きかったような……。うん、突然変異のドラゴンってことにしよう」
…………そんな適当な設定でいいのですか?
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