第8話 サークル活動はお断り
入学から1ヶ月たった。
一般寮の部屋は、ベッドと学習机と小さいロッカーを置いたらいっぱいになるぐらいの広さ。部屋の広さは、生徒のランクによって変わるそうだ。3級市民の上級寮になるとバス・トイレ付きだとか。私は今のところ、最下層の5級市民。地下にある部屋を使っている。窓がなくても、全然平気。
ただ、学食のメニューまで変わるのは、やりすぎじゃないでしょうか、とググルさんに愚痴をこぼした。
ググルさんは召喚者寮の仕事がない間は、学生寮の方で管理人として働いてる。寮の会計事務をしたり、聖女に届く手紙やプレゼントも管理するそうだ。
「あんたの精霊とは、まだ会えてないのかい?」
ググルさんが帳簿を書きながら聞いた。
「うん、なんか忙しいみたい」
契約式以来、精霊シャルは姿を見せなくなった。
学校生活は奨学金が出るとはいえ、ほんのわずかなお金しかもらえない。それを金銭面で補助するのも契約精霊の役割だとか。でも、シャルからは何も届かない。手紙すらない。こっちからの連絡手段も分からない。
もう、あのダンジョンでもらった純金の花を売っちゃおうかな。
貧しさに耐えかねて、そんなことを思う。
バイトでもできたらなぁ。でも、私の魔力量じゃどこも雇ってもらえないし。
思考は、ぐるぐるめぐり。
ググルさんの帳簿を横目で見る。数字には自信があるから、計算の仕事とかないかな。あ、そこの合計金額、まちがってますよ。
ググルさんを手伝うと、お礼に娘さんの着なくなった服をいくつかもらった。すごく助かる。
本当に大感謝。
聖女学校での授業は座学がほとんど。
聖女っていったら、けが人を癒やしたり、結界を張ったりするイメージでしょ。でも、そんなことは、1年生では教えてもらえない。ただ、法律とか一般常識とか生活の基礎知識とかを教本を読み込んで暗記する。それだけ。実践授業は、進級テストに合格して、2年生になってからだそうだ。
暗記かぁ。まあ、がんばって時間をかけたら、どうにかなるかな。
ただ、休み時間は、ちょっとしんどい。
クラスメイトの聖女はみんな、私が契約の遅い劣等生って知ってるから、遠巻きにしている。ランクの低い聖女とわざわざ親しくなる必要もないしね。みんな異世界から来てるから、自分のことで精いっぱいだよね。
精霊貴族のシャルと契約したことは秘密にしている。貴族の中でも高位な存在で、普通じゃないから、知られると面倒になりそうだから。わざわざ自分から言わなくてもいいかなって思ってしまった。でも、お見合いパーティで居合わせた者には、箝口令が敷かれているのか、誰もそのことを話題にしない。学園の教師も何も聞いてこない。
そして、イザベラのせいで、私の契約精霊は下級精霊だと思われている。
「あら、カナデさん。まだ、レベル1の教本を使ってるの?」
嫌味ったらしくイザベラが取り巻きをつれてやってきた。
次の授業の予習をしてるのに、邪魔しないでほしい。
「良かったら、私が使ったノートを貸してさしあげましょうか。ああ、でも半年以上も前のことだから、どこに置いたか忘れてしまいましたわ。最近、部屋を引っ越した時に、荷物にまぎれてしまったかもしれませんわね。ごめんなさい」
聞かれてもいないことで、マウントを取ってくる。
「大丈夫です。わたし、頭いいから、すぐに追いつきます。」
教科書から目を離さずに、淡々とした態度をとる。
「せっかくのイザベラさんの好意を」
「礼儀知らずね」
「イザベラさんはお優しいわ。こんな劣等生にまで親切にするなんて」
取り巻きの赤青白の髪色の3人が応援とばかりに、やかましく騒ぐ。
「みんな、わたくしのためにありがとう。うれしいわ」
イザベラは胸の前で手を組んで、大げさに感謝した。
そこ、お礼を言うところ?
無視して、教本を読むことにする。次の授業は、レベル1の教本を終えないとついていくのが難しい。皆はもう、レベル3にとりかかっている。遅れを取り戻さなきゃ。
バンッと教本の上に手が置かれた。
邪魔された。イザベラの手の下から、教本を引っ張ろうとすると、バンッともう一方の手も置かれる。
どうあっても、邪魔したいみたいね。
「カナデさんは、どこのサークルに入ったの?」
イザベラが意地悪そうに尋ねた。
聖女学校では学校生活の充実のため、ほとんどの生徒がサークルに所属している。
一緒に勉強したり、休日に遊びに行ったり、楽しく活動するのだ。でも、実際は、ランク争いをする女だけのサークル。どろどろした女の闘いが繰り広げられる。関わりたくない。
「あら、イザベラ様。それは意地悪な質問よ」
くすくす笑いながら、赤い髪のクラスメイトが言った。
「こんな下級精霊としか契約できない劣等聖女。どこのサークルにも入れてもらえないわよ」
「かわいそー」
「でも、雑用係とかで、お情けで入部できるんじゃない?」
「無理よ。カナデさんの魔力量じゃ雑用もできないわ。ふふふ」
くすくす。
意地悪く笑う取り巻き3人の横で、イザベラは赤い唇の両端を上げた。
「皆さんに重大発表があるの」
イザベラは腰に手をあてて、教室中に聞こえるように声をはりあげた。
「わたくし、3級になったでしょ。それで、独立して自分でサークルを立ち上げようと思いますの」
「まあ」
「素晴らしいですわ」
「ぜひ、わたくしも参加させてください」
周りの賛辞に気をよくしたようにイザベラはうなずく。
「もちろんよ。わたくしは、この寛大な心で、サークルに入部できないお気の毒なカナデさんも、誘って差し上げようと思ってるのよ」
どや顔で告げるイザベラに、お断りしますと心の中でつぶやいた。
面倒なことになった。
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