1年生編

第7話 遅れて来た新入生

 今日から聖女学校に入学。

 聖女の制服に着替えた。真っ白なワンピースの上から白いフード付きのローブを羽織る。


 期待と不安でいっぱいになりながら、寮の部屋を出た。

 私の住む一般寮を出て、しばらく行くと3級以上の聖女が住む大きくてきれいな上級寮がある。そして、その先にある校舎は、前の世界の大学のキャンパスのように、講堂といくつもの建物で分かれている。運動場まである。至れり尽くせり。


 こんなに異世界人に税金を使って、国民の不満はないのかなって余計な心配をしてしまう。


 学生課で手続きを済ませて、1年生の教室へ向かった。支給された教本は読み込んだけれど、分からないことだらけ。同期で最初に聖女になったイザベラを基準に、授業が進められているので、7か月ほど遅れている計算になる。

 授業についていけるかな? イザベラが、あまり賢くなければいいな。


 1年の教室に入ると私の同期生がこっちを見た。同期は全部で25人。入学したのは私が最後。不安そうに見回したけど、皆、目をそらす。劣等生の厄介者認定されてる?

 へこみそう。

 席は自由のようなので、教壇の目の間の、やる気アピール席に座った。


 近づいてきたのは派手な髪色の集団。

 イザベラたちだ。

 同期のイザベラは上昇志向の強い肉食女子。

 なぜか、私を目の敵にしている。聖力がイザベラより高いと知られたのかな。いちいち絡んできて、めんどくさい。


 イザベラは座る私を見下ろして、左手を開いて見せつけてきた。

 5本の指に指輪が3つはまっている。

 どの指輪も、ごてごてした装飾が施されている。特に、そのうちの一本はメロン味の飴玉みたいな大きな緑色の宝石がついている。……重そう。


「わたくし、準貴族の精霊と契約しましたのよ」


 イザベラは偉そうに言った後、私の左手をつかんで指輪を見た。

 私の左手の薬指には、シンプルな細い銀色の指輪がある。


「まあ!」


 イザベラは大げさに驚いて、大声をあげた。


「支給品の指輪ですわ! なんてお気の毒なの!」


「支給品の指輪しかもらえないなんて、相手はきっと下級精霊よ」


「初めての契約精霊でしょ。薬指にはめる指輪は、奮発するものだわ」


「指輪一つ用意できないなんて、相当貧しい精霊ね。私だったらお断りよ」


「劣等生だもの。かわいそうに。相手を選べなかったのね」


 イザベラの大声に反応して、ざわざわと教室中から悪口が聞こえてきた。


 イザベラは満足そうに笑って、私の手を取った。


「かわいそうなカナデさん。わたくしが助けてあげなきゃね。先輩としてなんでも教えてあげるわ。遠慮せずに聞いてね」


 結構です。心の中で断って、握られた手を抜こうとがんばる。

 イザベラは馬鹿力でぎゅうっと手を握りしめて、大げさに悲しい顔を作った。


「ああ、でも、ごめんなさい。わたくし上級寮に入ることになったから、あなたの寮でのお世話はできないわ」


 教室中に聞こえる大声で言った。


「それって、もしかして」


 イザベラの隣りにいたクラスメイトの発言に、


「ええ、そうなの。わたくし3級になる手続き中よ」


 イザベラは満面の笑みで答えた。

 わっと歓声で湧く教室。


 入学1日目でピラミッドの頂点と最底辺が決定したのだった。

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