第5話 初めてのデート
アストラ・ダンジョン。
何層にも分かれる広いダンジョン。
未だ攻略できていない階層があるため、一攫千金を夢見る5級市民に人気のダンジョンだ。
「放して〜、もう、帰りたいー」
誘拐されるかのように、担がれて連れてこられたので、精霊の背中を涙目でたたく。
「せっかく来たんだから、ダンジョンの庭園を見に行こうよ。68層にある庭園は不死蝶の舞うきれいな花が咲くよ」
精霊は機嫌よさそうに、肩に私を荷物みたいに担ぎ上げて、すたすた歩いた。やだ、もう、助けて。
金色の精霊が現れたとたん、モンスターはぴしゃっと逃げ惑う。逃げ遅れたスライムが、体を震わせながら、壁にぺっとりへばりついているのが見えた。
私も、逃げたい。
「確か、ここにワープゾーンが……っと、あったね」
壁に手を置いて、爆音とともに壁を破壊した。
ワープ……?物理的破壊では……。
ガラガラと壁を廃墟のようにしながら歩く精霊は、終始ご機嫌だ。
「もう、降ろして。気持ち悪い」
私の顔色が悪いのに気がついた精霊は、しまったって顔をした。
「失礼。こっちがいいね」
下ろしてくれた。と、思ったらまた、抱え直されて、
! お姫様抱っこ!!
恥ずかしすぎて、暴れる私に、何がうれしいのか、精霊はにこにこ笑みを深める。
「カナデはかわいいね」
形のいい唇が近づいてきたと思ったら、髪にキスされた!!
カナデ ノ HP ハ 1 ニ ナリマシタ。
そして、精霊は固まっている私を抱いたまま、猛スピードで目的地までワープ? した。
「うわっ。すごい、きれい」
放射線状に伸びる石畳の横にはいくつもの花壇があって、色とりどりの花が咲いている。向こうにあるのは薔薇のアーチ。ここまで薔薇の香りが漂ってくる。ダンジョンの中にいるのに天井には青空が見える不思議な空間だ。
ようやく下ろしてもらって、少しふらついたのを支えてもらった。
もう、まぶしい。
悔しいけど、まばゆい。
花にも負けない、美貌の精霊の、金色の笑顔。
そのまま、手をつながれる。恋人つなぎ。
なんだか、いたたまれない。
精霊は嬉しそうに、つないだ手を子供みたいに振って歩いた。
向かった先は、中央にある大きな木。
枯れ木の周りで、色鮮やかな蝶が歌いながら舞い踊っていた。
明るい曲調に耳を澄ますと、聞こえてくるのは青春と恋のアイドルソング。
手のひらサイズの大きな蝶は、なんと、体は蝶で頭部がヒト!
観客に気が付くと、ひらひら羽を広げて寄ってきた。
「我が君」「会いたかった」「うれしい」「我が君」
いっせいに、かわいい声でしゃべりだす。
この子たちも精霊なんだ。美少女顔の蝶の精霊、って、言葉がしゃべれる?
ひらひら飛ぶ蝶の鱗粉をさけて、金色の精霊とつないだ手を外して、一歩下がる。振りほどいた手を気にすることなく、精霊は体中に蝶をまとわりつかせながら、優しく微笑んでいた。
なぜか、少し、イラッとしてしまった。
「庭園の散歩は、私じゃなくて、このかわいい女の子たちとしたら?」
口に出してから、しまったって思う。
なにそれ、まるでヤキモチやいてるみたいじゃない。そんなつもりじゃない。あわてて取り消そうとしたけど、振り向いた金色の精霊は冷たい目をした。
「精霊に女はいない」
…………。聖女召喚が女性だけなのは、つまりはそういうこと?
美少女アイドルみたいな蝶は抗議するようにピイピイ鳴いた。
「この木はね、魔力を吸って花を咲かせるんだ」
そう言って、美貌の精霊は枯れ木の幹に手を置いた。
幹の中から、金色の茎が出てきて、ぐんぐん伸びて、金色の蕾をつける。蕾はどんどん大きくなり、ゆっくり開花して、金色のひまわりみたいな巨大な花を咲かせた。真ん中には金貨のような種がぎっしり詰まっている。
精霊は、それをつかんで、ぼきっと根元からもぎ取った。
そして、私の前に、長い足を曲げてひざまずく。
「カナデ。僕の運命、僕の太陽、僕と契約して」
黄金の瞳に見つめられて、差し出された一輪の花を両手で受け取った。ずっしりとした重さに、膝が曲がる。金の延べ棒みたいな太い茎の先に、大きな24金の花。
「……前向きに検討します」
答えてしまったのは、純金に目がくらんだからじゃない、はず?
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