第4話 まずはお友達から……無理です

「契約したらいいじゃないの」


寮母のググルさんがあきれたように言う。

すみません。今日も洗濯魔道具に魔力いただきました。

ぐるぐる回る魔道洗濯機を見ながら、昨日のことをググルさんに相談していた。


 スマホが恋しくなる名前のググルさんは、この世界の人間。召喚者寮の寮母さんだ。厳しいけど、頼りになる異世界のお母さん的な存在。


「貴族なんて、めったにお目にかかれるもんじゃない。これを逃すなんてバカだよ。あんたも一気に3級、いや2級市民になるのだって夢じゃなくなるよ」


洗濯物をたたみながら、お説教される。


「うーん。でも、私、前の世界では本当に一般庶民で、っていうか、一般よりもずっと苦しい生活をしていたような」


あれ、どうだっけ?


 まあ、そんな平凡な一般人が、いきなり高貴な方とお近づきになるなんて、……正直しんどい。

 絶対、貴族の中の貴族な感じだよね。我が君とか呼ばれてたし。高位貴族恐ろしいよ。いくら私の聖力が高かったとしても、これは無理でしょ。絶対、関わりたくない。


「だって、私には扱いきれないですよー。なんか、胸やけしそうで。庶民が急に高級食材を食べたら、おなかを壊しそうでしょ。やっぱり、適材適所っていうか、高望みせずに、食べなれたものを食べるのがいいですよね」


 やれやれ、とググルさんが肩をすくめた。


 ちなみにこの世界は人間にも階級があるそうで、1級から5級市民がいる。ググルさんは4級の一般庶民だそうだ。

 私? 契約もできない見習い聖女はランク外です。悲しい。

高ランクの精霊と契約したらランクアップするみたい。


「食べ物に例えられるなんて、なんだか、そそられるね。僕を食べてくれるのかな」


 くすっと後ろで美声が響いた。

 嫌な予感。振り向くと、ものすごく美形な金色精霊がいた。


「ここは女子寮デスヨ」


 不法侵入をとがめると、心外だと肩をすくめる。


「契約精霊はいいんだよ」


「契約してないし」


 ふと、強い魔力圧でググルさんが気を失っていないか心配になる。

 大丈夫かな? 顔色は悪いけど、ちゃんと座ってる?


「魔力は調整したんだけど、まだちょっと強かったかな?」


 ごめんね。と、金色の精霊は何かを指先で空中に描いた。

 冷たい空気が少し緩んだ気がした。


「契約しようよ」


 そして、誘惑するように、私をにっこり見つめてくる。


 美貌にくらくらしながらも、負けずに首をふった。


「大切にするよ。お姫様みたいに、どろどろに甘やかしてあげる」


「う……無理」


 涙目で首をふる。


「欲しいものはなんでも手に入れてあげるよ。ほら、何が欲しいか言ってごらん」


「うぅ、……間に合ってます」



「お二人とも、こんな洗濯室でする話でもないだろう、庭でも見てきたらどうだい?」


 疲れたようなググルさんに追い出された。


「庭。いいね」


 にっこり笑った精霊に、なぜか不安を感じていると、腰を抱き寄せられ、精霊の広い胸に顔をうずめてしまう。ちょっといい匂い。ウッディ系のさわやかな香り。好きなコロン。


「な……!」


 ぐらっと空気が揺れて、一瞬で、私は知らない場所にいた。


「ここ、どこ?」


 灰色の石の床。狭い通路の壁には古ぼけたランプがかかっている。くねくね曲がった先の見えない、いくつにも分かれた道。


「庭……かな? アストラ・ダンジョンだね」


 !!!NOー!!!

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