第85話 決戦Ⅱ その2

085 決戦Ⅱ その2


無敵の勇者の剣も、その夕陽のような刀と激しく撃ち合えば、削れてもくる。

始めの1本目でもかなり無理をしていたのである。

魔刃は、鋼鉄をも切り裂く。

今、『九十九里浜』の剣は、燃えている。

剣技は、すでに影野の方が圧倒している。


そもそも勇者とは、理外の存在である。

故に、普通の人間では、相手ができない。

基本能力だけで簡単にかつことができる。

故に、技術を磨く必要などないのだ。


影野の剣先が蛇のように、勇者の剣に絡みついて、隙を見てとびかかってくるような動きをする。

永田は、なんとかそれを躱している。

そして、その鎬を削る戦いの果てに、勇者の剣が音を立てて折れる。

勇者の剣も自己再生能力をもっているが、折れたことはないし、おられた経験もなかった。


永田は、剣の柄を投げつけて、飛び退る。

「今すぐやれ!」インカムへ永田が絶叫する。

遠くから、ヘリと戦車が現れる。

万一の場合の準備である。

戦闘ヘリAH-1Sが2機、山の向こうから現れる。

20mm機関砲の照準が合わされる。銃身が急速に回り始める。


このような状況は予測されていた。

しかし、まさかの戦闘ヘリである。

影野は軽功を使い、素早やく場所を移動する。

10式戦車が、4両1個小隊で現れる。

砲塔が影野の方向に回されていく。


国民の税金の結晶をこのような私事に使うなどとは、言語同断!


右へ左へと激しく逃げながら、悪態をつく影野。


20mm機関砲が火を噴く。

ガトリングガンが唸り、空薬きょうが空中に排出されていく。


絶対防衛圏サンクチュアリ!」半透明のシールドが発生し、影野を守る。

弾丸が絶対防衛圏ではじかれていく。


別の一機も照準を合わせて射撃を開始する。


10式戦車の徹甲弾が発射される。

移動しながらも相当の命中率を誇る射撃。

しかし、徹甲弾は、絶対防衛圏サンクチュアリがはじく、角度を変えて空に向かって飛んでいく。

こちらもまさに人外の力か!

しかし、その人外も機械化師団の力にどうしようもなさそうだった。

防いでも、攻撃手段がない。


2機のヘリが影野の周りながら機銃を浴びせる。

4台の戦車は、徹甲弾を発射する。

防戦一方の影野、一体どうするのか!


だが、忘れ去られていた者たちがいた。

PSの3人である。

対物ライフルの狙撃が、戦闘ヘリのパイロットの側頭部を撃ち抜いた。

ヘリが、揺らめいて、地上に激突して爆発炎上する。


戦車搭乗員はあっけにとられた。

爆発により、虚を突かれたのである。


だが、だからといって、人間一人にどうこうできるものでもない。

獲物を求めて、砲塔を回す。


しかし、人間一人ではなにもできなくても、異世界渡りの勇者であれば、できることがあった。

レールガンメガ粒子砲』魔法陣が次々と展開されていく。

弾芯は劣化ウランである。

音速の7倍で発射される砲弾は、衝撃波で辺り一面をなぎ倒しながら火の玉となって飛ぶ。

10式戦車の装甲などたやすく侵徹し、室内を高温で焼き尽くす。

直撃した一台の砲塔が爆発して吹き飛ぶ。車内の砲弾が簡単に誘爆したのである。

そして、次々と魔法陣が展開されていく。

三つの『レールガンメガ粒子砲』を同時に操作している。

複雑奇怪な魔法陣を同時に3つも制御するなど、到底人間業ではないが、それらが勇者たるものの、理外の化け物の証というものである。


10式戦車がさく裂し完全にただの鉄クズへとなり下がる。


永田は遠くからそれを見ていた。

「バケモノめ!」

勇者の剣の再生はまだ終わっていない。


勇者光線波動砲!」永田も人のことを言えないバケモノであった。

光線が影野を撃つ。しかし、それはあらぬ方向へと曲げられる。

絶対防衛圏がまたしてもそれらを防いだのである。


影野のレールガンが、永田に向かう。

勇者光線とレールガンがぶつかりあう。

大爆発が起こる。


「さすがに、エネルギー切れか」勇者永田は、この地球でもエネルギーを充てんできるが、それには、時間が掛かる。地球帰還からずっとためていたエネルギーが今尽きようとしていた。

地球の魔素は薄いので、それを漉し取るようにしてためていくことができるのだが、時間がかかるのだ。

だが、それは影野も同じはずだった。

自分が苦しいときは、敵もまた苦しいのだ。

ここで踏ん張れば!さすがに勇者、その心の在り方こそが勇者なのだ。


しかし、永田は目を疑う。

先ほどよりもはるかに巨大なエネルギーを感知する。

「そんな馬鹿な!」


超レールガンハイパーメガ粒子砲

大地の指輪のお蔭で、エネルギーを富士山の火山活動から得ることが可能になったのである。魔法陣の積層は、50mに及ぶ。光の砲身を形づくる。今や膨大なエネルギーが発射されようとしていた。


「聖なる女神の盾よ!」永田が叫んだ瞬間に、エネルギーが直撃した。

彼の右肩をかすめた砲弾は、はるか彼方に飛び去った。

それだけで、右肩が跡形もなくなっていた。

爆風で、耳が引きちぎられた。


「アッガガガ!」あまりの衝撃に声も出ない。

だが、さすが勇者、出血が止まり、皮ができ始める。


その様は、すでに人間を辞めている生物だった。


ゴゴゴゴゴ~

遥か彼方で爆発が起こったのか、音と衝撃波が伝わってくる。


「さて、永田閣下、最後のときが近づいて来たようですな」


「黙れ!影野!」先ほど破れた鼓膜が再生し、音が聞こえるようになった永田が叫ぶ。


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