第82話 衝撃波
082 衝撃波
永田派構成員に激震が走った。
全ての口座から残預金が全て消失し、廃止されたのである。
いかに、電子マネーが普及しているといっても、口座がなければ、クレジットカードは存在できず、クレジットカードが存在しなければ電子マネーは存立できない。
そもそも、電子マネーの類は最もたやすくハッキングされていたが。
しかも、それが家族全員の分ともなるとその衝撃は凄まじいものがある。
頭が真っ白になり対応できない。
やっと、真っ白から意識が戻り、銀行に行けば、通常の手続きで、廃止されたといわれる始末である。現在の銀行はとにかく口座を作りたがらない。手続きが必要で口座の維持管理にも手数料がかかる。しかも、低金利なので、貸す相手がいないなどの理由から、昔は笑顔で対応してくれていたが、窓口は塩対応であった。
どうやってもおかしいだろう!
しかし、行員にそんなことは分かるはずもない。
銀行の問い合わせセンターに問い合わせが行われる。
『直ちに、回答はできない。』
『調査に時間を要する。』そのような回答ばかりであり、返金されるかどうかは今のところ不明である。
しかし、その巨大な波が、仲間うちを襲ったと知った時、彼らは、恐怖を感じた。
自分たちの仲間が狙い撃ちされている。
永田派の構成員と思しきものばかりが同様の被害を受けている。
永田派に恐怖の戦慄が走る。
ある者は、消費者金融に行った、すぐにでも現金が必要だったのだ。
「審査に通りませんでした」
「そんな馬鹿なことが有るか、俺は、自衛隊で永年働いてきたのだ、しかも、借金などはないんだぞ、借りたことすらないのに、おかしいだろう、調べ直せ!」
「そうおっしゃられても」
消費者金融のデータベースでは、金融各社がブラックリストを共有している。
そして、彼は、そのブラックリストに搭載されていたのである。
消費者金融の窓口はデータに基づいて塩対応をしてくる。
永田派構成員から派閥の事務長たる上野のもとに、緊急事態発生で助けてほしいという電話が集中して掛かってくる。
だが、その上野自身も口座を喪失していた。呆然自失とはこのことだった。
「閣下、悲鳴の電話ばかりです、私もどうしたらよいのかわかりません」
「私にどうしろというのだ」
「警察に動いてもらうべきです、これは犯罪です、口座をジャックされたのです」
「各人が警察に訴えろ」
「していますよ、それだけではなく、閣下からも、警察庁なりに働きかけをお願いします」
「前の件でダメになっただろう」
「それでも、お願いしてください」
「お前がしろ」
「閣下、責任転嫁されるのですか、明らかに、奴らの攻撃なのです、閣下が奴を陥れようとした結果なのですよ」
「黙れ!もうすぐ奴の足取りがわかるはずだ、それまで我慢しろ」
「できるわけないでしょ、今日の飯代もないんですよ、しかも嫁や子供の分まで!」
結局、永田は自分の隠しもっていた資金を配給する羽目になった。
しかし、派閥は大きくなったため配る金額も大きくなった。
そのために、彼の隠し資金の大半が露と消えた。
口座喪失事件は、その後内部調査が進むと、ハッキングされたのではないかという疑いが持ち上がった。口座廃止届がほとんど無かったのである。
一部の口座では、行員のミスが原因であった等の解明が進んだ。
しかし、かなりの時間がかかったのも事実であった。
中には、適正な処理が行われたという銀行も現れ、全てが元に戻ることもなかった。
多くの構成員はこの派閥の未来が危ういものであることを感じ取った。
・・・・・・・・
月面撮影で、件の『何だこりゃ』映像を撮影してしまった天文家は、近ごろ、流れ星が急増したことに疑問を感じていた。
何故かはわからない。
しかし、感じていたのである。
故に、余計に夜の空を見張っていた。
またも流れ星が落ちていく。
これらの大部分は、廃棄された宇宙ゴミである。衛星打ち上げ時のロケットや、打ち上げられた衛星でも、使用期間が過ぎるとゴミになるのだ。
それらのスペースデブリが何らかの理由で落ちてくるのである。
その事象は、その道のプロも気づいていた。
北米航空宇宙防空司令部(NORAD)でもそれを感知していた。
一部のスペースデブリが、なぜか、動き始めていたのである。
それは廃棄衛星である。しかし、軌道を変更し始めていた。
何故そんなことが可能なのだ。
何らかの故障により捨てられてそのまま放置された衛星が今になって動き始めるなど、正気の沙汰ではない。
ロシアか中国の策謀が疑われ始めていた。
しかし、それにしても、衛星の軌道がなぜ日本上空を通過するように集まってきているのか。
沖縄への奇襲攻撃とそれに付随する侵略行為か。
それらの可能性のレポートが、上層部に上がっていくのだった。
・・・・・・・
ロシア国ハバロフスク州 チェーニ・メドベーチェ 男35歳。
ロシア大使館に照合を掛けられたが、確かに本物であると確認された。
「しかし、似すぎている」
しかも、流暢な日本語を話していた、というか日本人のように話していたらしい。
「それにしても、なぜこれだけ似ているのに離したのだ」
永田は警視庁に怒りを覚えた。
「上野、手配写真はどうなっている」
「・・・・」
無言で手渡してくる。
最新版の手配写真である。
そこには、似てはいるような似ていない顔が載っていた。
「なんだこれは!」
明らかに、おかしくなっていた。
そして、知る。警視庁のシステムすらハッキングされていることを。
見当たり捜査員は、初めに配られた写真で顔を覚えていたが、後に更新されたものは、別人だった。確認して、手放したのである。
だが、たとえ彼が、任意同行をもとめようとしても、「それはやめてほしい」と言われれば、そのまま、任意同行を諦めたことは間違いない。
彼の言葉には、不思議な魅力が備わっているからだ。
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