第79話 トラップ

079 トラップ


「貴様本当に、反省しているのか?」

「勿論です、師父」

扉の向こうで土下座をしている北畠。

「貴様には、もう一度契約をしてもらうことになる」

「わかりました、私の至誠の心が不徳の至りで通じぬこと、お詫びします」と北畠。

嘘を言わせれば、俺よりも上手い男なのだ。


扉のロックが外れる。

「師父、ありがとうございます」

「まあ、貴様も不肖だが弟子であることは変わりないからな、疲れたであろう。申し訳なかったな」

「とんでもございません」


「師父これからどうしたら」

「それは心配ない。お前達の家族をまずは保護するから、お前達からのなんらかの家族相手に伝わる情報が必要だ。」

「どういう意味でしょうか」

「お前達以外が、会いに行って信用できるようなものが必要だ」

「しかし、我々はもはや犯罪者です。家族を巻き込みたくはありませんが」

「そうだな、しかし、奴は違う。お前達がこちらに付いたとわかれば、人質にとるくらいはするだろう、それは避ける必要がある。それが終われば、自由にすればよい」

「まさか!」

「何が、まさかだ、こんな普通の人間が存在も知らぬ監獄にわざわざ入れているのだ、永田と決着をつけるのは当たり前だ」


だが、その言葉に反応した男がいた。

片手を、突き出して影野の背中につける。

「砕身掌!」その叫びと、北畠の手首が飛んだのはほぼ同時だった。


「師父!」と北畠以外の弟子。

「ギャアア~」と手首を飛ばされた北畠。

廊下に、血と絶叫が響きわたる。

上杉の剛拳が、北畠の側頭部を砕かんと唸る。

その剛拳を影野がはっしと受け止める。

「この裏切り者に鉄槌を下さねばなりません」

「落ち着け」


北畠の血で辺り一面が真っ赤に染まる。

「ヒール」

影野の治癒魔術が、出血を止める。

「大丈夫なのですか」

「問題ない、砕身掌は発されていない、それにな、我が護法神功の前には、北畠の砕身掌など威力を発揮することはできん」また別の方法で自分の心臓を守っているのである。


「それにして、北畠の手首を切り飛ばしたのは?」

「さあな、儂には、何か糸のようなものが見えたが、アイナさん?」

「はい、不穏な雰囲気を感じ取りましたので、防御しました。殺しましょうか」

「いや、問題ない。とりあえず連れていく」

「しかし、北畠の奴め、なんという恩知らずな」

「あれは、暗示だ。なんらかのワードで発動するのだろう。おそらく奴の名前がキーワードだろう」勇者も負けじとトラップを仕掛けていたのである、ということにしておく。

本当は、北畠が本心から殺そうとしていたのかもしれない。


「さすが勇者というところですか」

「その通りだ、さあ、早く出所祝いをしようではないか、弟子たちよ」

「ビールのめるんですか」

「当たり前だろう、好きなだけ飲ましてやる」

「やったあ!」


彼ら全員(弟子たち)は警務官の服装を着ていた。

途中の人々から略奪されたものへと変装していた。

そして、北畠は、段ボール箱に入れられていた。


そして何事もなく、出ていく。

止める人間もいたが、影野に見つめられては、断ることもできなかったのだ。


影野のレベルや能力からすると、この世界で彼の『支配の魔眼』に対抗できる人間は、100人もいないであろう。つまり、彼が目を合わせれば、民自党総裁にすら簡単になりおおせるということである。ということは、内閣総理大臣にすらなれるということだ。


そして、その100人のうちの一人が、永田参事官である。

「脱獄しただと!ありえん、まさか、刑務所全部を破壊したのか」

「いえ、破壊されていません」

「なら、どうやって。そもそも、誰もあの階層には入れないようにしていただろうが」

何重ものチェックが入るのだ。

決してたどり着けるわけがない。

最期の方は、武装した自衛官が見張りについていたのだ。

「それが、わかりません」

「何、寝言を言っているんだ、監視カメラの映像が有るだろうが!」

「それが、何も映っていないのです」

「馬鹿か貴様!幽霊になって消えたというつもりか」

「なるほど、その線もありますね」

「死にたいか!」永田は受話器を叩きつけた。


「奴がやってきたと考えるべきか」

勿論それ以外に、考えられなない。

上手く、あのトラップが発動すれば始末できるはずだが、まだ発動していないのか。

「そうだ、隊員たちの家族どもと連絡をとるのではないか」


先ほどたたきつけた受話器を取りながら「上野か、すぐに来てくれ」

と副官を呼ぶ。


何とか、彼らの家族を抑えれば、まだ叩けるはずだ。

「警視庁につないでくれ、至急だ!」使えるものはすべて使わねば。

影野資金のお蔭で、かなり力をつけた人脈を使わねばそのための資金投入なのだから。


幸か不幸か、SOG隊員の家族は、東京都に住んでいるものが多い。


しかし、それよりも早く、動く者がいただけである。

家族がいたのは、上杉、武田だけであり、後は皆、親や兄弟がいるだけだった。

流石に、親兄弟にも危害は及ばないと考えられた。

それに、彼らはまだ本人たちがテロリストの仲間として逮捕されていることすら知らない。


永田は、対策本部を立ち上げ、情報収集を行っていた。

しかし、脱獄の映像は全く意味不明だった。

本当に何も映っていなかったのである。

だが、鍵が開いた形跡はあった。

エレベータの稼働も確認されている。

しかし、警備の兵は、何も覚えていないのである。

フロアの映像にも何も映っていない。

「こんなバカなことがあってたまるか」

兵士はおそらく、強力な暗示によって通してしまったのだろうが、なぜロックが外れる。

エレベータの暗証番号は?


そんなスキルが存在するのか!異世界に。

永田の背中に冷や汗が流れる。


そう存在するのだ、それが異世界産かどうかは不明だが、それは確かに存在していたのである。


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