第76話 特別監獄

076 特別監獄


東京都府中市。


府中刑務所、日本最大の刑務所である。

その広大な面積に多くの囚人たちが収容されている、日本有数の刑務所である。

しかし、知る者こそ少ないが、この刑務所の地下には特別監獄なるものが存在する。


異能犯罪者専用特別地下監獄。

地下100m以上の深さに作られた、特別監獄。

今、その特別監獄に、異能犯罪者が収容されている。

元自衛官で、米軍基地の武器庫から大量の兵器を盗んだ、許し難い国賊。

そして、現在逃亡中の犯罪者の手先となって、同僚の自衛官を殺害した、元自衛官たちであった。


影野が異世界に逃げ去った後、呆然としている彼らは、元勇者永田参事官により逮捕された。

ビル倒壊に巻き込まれ、怪我を負っていた、また話の展開についていけなくなっており逮捕されたのである。


彼らは、テロリストリーダー影野の命令で、武器を盗み、都内で爆破テロを実行しようとした、それを止めようとした自衛官を惨殺し、ビルを吹き飛ばした重罪犯罪人である。

元勇者永田参事官が取り押さえたのである。


そのテロにより、市ヶ谷の防衛省ビルは半壊し、それ以外にも周辺にあったビル3棟を完全破壊し、その結果、数十名の民間人が死亡、千人以上のけが人がでた。

いわゆる『影野テロ事件』と呼ばれるものである。


その首謀者の影野は現在も逃走中であり、その手先として行動した元自衛官は、逮捕され、この特別監獄に収容されたという顛末にされたのである。


そもそも、収容されている人間たちは、影野の支配の魔眼により支配されており、抵抗できなかったのである。それゆえ、勇者の仲間を『砕身掌』で殺すことになってしまった。

北畠も同様である。


彼ら自身が呆然としていた。

何故自分が、『砕身掌』で人を殺したのか?なぜなのか?

その仕組みすら理解していなかった。


だが、ビルを破壊するテロなどとは飛んだ濡れ衣である。

元勇者は、都合の悪いことをすべて逃亡した影野になすりつけた。

そもそも、ビルを破壊したのは、『勇者光線波動砲』である。

影野がばらまいたMk84爆弾には、信管が取り付けられていなかった。

故に、爆弾をさく裂させたのも、『勇者光線波動砲』である。


そして、全てをなすりつけた永田参事官は、影野のテロ行為を防いだ英雄となっていた。


逮捕された彼らは、ぼう然として、地下深くの独房で意気消沈していたというところであった。


「師父!一体何をされたのですか」

上杉は答える者のいない問を何度も心の中でしていた。


北畠に至ってはもっと深刻である、テロリストおよび窃盗犯(米軍基地武器窃盗事件の主犯)としても訴追される。

本当に訴追されるかどうかもわからない。

何故なら、これらの事件は、そのほとんどの部分が公にされていないからである。


下手をすれば、そのまま、抹殺される可能性すらあるのだった。


「完全にやられた、影野の奴、一体俺に何をしやがった!」

北畠は、壁を殴りつけるが、どうしようもなかった。

勿論、北畠は、米軍基地になど行っていないのだから当たり前である。

しかも、自分の眼から窃盗当時の映像が出たという。

何かの悪い夢でも見ている気分にもなるというものである。


だが、その彼ですら、警備兵を惨殺している。

ここにいるすべての人間は、影野のスキルの被害者なのである。


勿論、無罪を主張をしても取り合ってくれるはずもない。

永田参事官は、犯罪者を必要としていた。

彼らが、なんらかの技術で殺人を強要されたことはあきらかだが、だからといって、そうですかと、許してやることはできない。

そんなことをすれば、真の犯罪者、影野を逃した自分の罪を問われることになる。

流石に、それは不味い。

それに、国民の怒りを受け止めてくれる犯罪者がいないと、それを成した自分が攻められる可能性がある。多くの民間人が死傷し、怒りが犯人グループや自衛隊に向けられている。


ビルの屋上で行われた決戦だったが、色々な場所の映像を分析すれば、勇者光線がビルを破壊したことは明らかだった。警察庁の知り合いを動かして、それらの映像をすべて抑えたことはいうまでもない。


もう、影野には、テロリストとして死んでもらうしかない。

そして、もし影野が捕まらず死んでくれないときは、彼らに代わり死んでもらい、国民の怒りを鎮めねばならないのだ。


シナリオはすでに組まれており、後は、影野の居場所を突き止め、殺すだけだ。

しかし、影野の姿は警視庁、全国の警察が全力でさがしているが、その行方は杳としてしれることは無かった。


そもそも、奴には、尾行をつけていたにも関わらず、尾行の成果は全く無かった。

途中で、尾行を辞めていたのである。

「何故、やめたのだ!」

「はい、やめるようにいわれたからであります」

「馬鹿か貴様は!」

「自分でもよくわかりません」


正に、この力が、自分の仲間を死に追いやったものの正体であろう。

何らかの強制力。ギアス!

SOGの隊員たちは、知らぬ間にギアスを仕込まれていたに違いない。

「あのずる賢い狐め!」

永田は自分の執務室で、苦虫を嚙み潰した。

だが、おかしい。私の仲間は、腐っても勇者チームのメンバーなのに、なぜあんなに簡単にやられたのだ?


SOG隊員は、自分たちが、影野を師父と呼び、特訓を受けたことを証言している。

しかし、その程度特訓で、やられるような者ではないはずなのだ。


だが、それは間違いである。

影野は、それに間に合うように、徹底的に鍛え上げた結果と考えるべきところなのだ。

そして、『砕身掌』は最も確実に彼らを殺せる技であることは間違いない。

受ければ即死するため、治癒魔法など間に合わない。

もっと言えば、治癒魔法士を最優先で抹殺する場所どりでギアスを発動させたのである。


影野のシナリオこそ思い通りの結果を生みだした。

しかし、最後は、永田の力量を読み間違えていたであった。

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