第74話 異世界渡り

074 異世界渡りゲート


ガッチリと我が師匠の波動を捕らえて、スキルを発動する。


異世界に渡るとき、人はギフトを得るという。

それに従い、このような『異世界渡りゲート』を取得したようだ。

ただ、大きな魔力を必要とするのは間違いない。


異世界の扉が降りてきて、俺の体が消されていく。

この出発を見守る者はいない。

たった一人の旅立ちである。


そして、影野の姿は虚空に消えた。


・・・・・・・


気づくと目の前にオーガがいた。

瞬時に砕身掌を放たない。知り合いのようだ。


ここは、非常に深い森林内部のようだ。

「ああ、気を失ったようだな」さすがに、何気につかれている。

森林内部には、濃密な森の空気と魔素が漂っている。

寝ているところを襲われれば死ぬ。


強力な魔獣が多い場所なのは、魔素の濃度でもわかる。

所謂、魔獣の天国的な場所である。

「すまんな、見守ってくれていたのか」

オーガは頷く。

「ああ!」奥の方を指さす。

奥の方といってもどちらが奥なのかはよくわからない。


人型魔獣のオーガは、狂暴で凶悪だ。

しかし、このオーガは違う。

眼が赤くないのだ。


そこし進むと、人家があった。

強力な守護結界が張られている。

どうやらそこが目的地のようだ。

嘗て、魔神の片腕として、数か国を滅ぼした魔王(とよばれた)第2代掌門がそこにいるはずだ。

そう、彼こそはオーガキングなのだ。

え?人間じゃない?そんなことはどうでもよい。

勿論、嘘だ。迎えに来た魔獣こそオーガキングである。


師匠は、所謂、人間だ。かなり、その範疇から外れているとしても。

「おお、来たか、お前の波動を感じ取ったので、迎えをやったのだが」

彼の名は、アルテュール、人間?である。

かれこれ、数百年生きているという。

人間にそんなことが可能なのか?


結論からいうと、その結果が今目の前にいる。

「師匠、二度と会うことはないと心に決めておりました」

「そうか、少し、鍛えすぎたようだな。悪かった、お前の才能がそうさせたのだ、許せ」

こうして、俺たちは抱き合った。


数年の間、一緒に厳しくも激しい訓練を行ってきた戦友のようなものである。

主に、影野が何度も死にかかった訳だが。


「師匠は、若返りましたか」

「ああ、そうだな」

師匠の顔がまず若い。

奇妙なことが起こるのが、ここの常識である。やはり、知らされていない何かがここにある事を確信する。


師匠の横には、オーガキング、オークキング、ゴブリンキングの三頭が並んでいる。

これらの魔獣は、祖師たる魔神が、テイムしたらしい。

彼らの場合は、魔獣なので長命なのは、理解できるのだが、あんたはほんとに人間か?


今の師匠は下手をしたら自分よりも若いぞ!

「儂も、年だ、この若い体になれるのに、時間がかかるのだ」

「・・・」すでに、人間ではないような発言だった。


「それより、どうした。お前はとにかく脱走ばかり試みておったから二度と来ないと思っていたが、しかも、場所を変えたし」

死の訓練から脱出するため、必死で逃げたのだが、簡単に逮捕されてしまった。


「はい、人外の師匠に相談があってまいりました」

「そうか、ならば家に入って、はなそうではないか」


こうして、普通のログハウスに案内される。

「エリ、お客様だ、お茶を頼む」

そこには、非常に美しい娘?がいた。

「エリーズ様、御無沙汰しております」

「ああ、あなたはカゲノですね、かれこれ15年215日ぶりですね」

「お世話になります」

「ええ、ここはお客がきませんから、歓迎します」


こんな魔境に踏み込む人間はほぼ絶無といっていいだろう。

恐らくたどり着く前に、食い殺されるに違いない。


そして、その女性エリーズは、15年前と何も変わっていない。

なんという不変性。ここでは、常識は通用しない。大事なことなので2度いう。


「そうなのだ、暇で仕方がない」

「弟子づくりは諦めたので?」

「ああ、第30代掌門を決めたので御終いとした」

「そうですか」

「お前は、27代目だから、自分の跡継ぎには、28代目を継がせるとよい」

???31代目なのでは、と思いながらも、別世界に住んでいるのでわかりようもないので何も言わなかった。


「それで?」

紅茶が運ばれてきた。

「はい、別世界の勇者が日本におりまして手こずっております。なんらかの手段はないものかと」

「なるほど、情けは味方、仇は敵なりか、やられた30倍返しが我ら鉄掌党の理念だからな」

「3倍ではなかったですか」

「年を追うごとに、恨みも深くなるという物よ」

どうもうまく伝わっていない。

「では、状況を説明せよ。」

「は!」

こうして俺は、勇者永田とのいきさつを事細かに説明した。

エリーズ様が、アルテュール師匠に何か伝える。


「何種類かの回答が存在するようだ」と師匠。

「何種類もですか、あのバケモノを倒す手段が!」

流石は、魔神の右腕といわれるだけある。

相手が勇者でも何も思うところもないらしい。


「お前の日本には、勇者システムは存在しない、それにお前は、まだ魔王でもないため、倒すことは可能だ」


「勇者システム!」

「気にするな、そんなワードは忘れよ、あまり良いことではない」

「どういう意味でしょうか」

「まあ、お前の世界には知らぬが花ということわざがあるというではないか、知れば戻れなくなるかもしれん、あの男のようにな」

「祖師様ですか」

「ああ、その祖師様だ、あの男の場合は、好きで行ったところもあるが」

「どこへ?」

「それよ、好奇心、猫を殺すというやつよ」


あんた地球人なのかよ、と思わないでもない影野だった。


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