第73話 探知
073 探知
近くの小高い山の頂上で、結跏趺坐の姿勢で瞑想を行う。
雑念を払い、魔力探知の糸を異世界へと飛ばす。
周囲の魔物はすべて死に絶えたはずなので、襲われることはない。
何度も、異世界を渡る経験をした俺は、ついに『異世界渡り』のスキルを得ることに成功した。
今ここで行っているのは、日本を探しているわけではない。
日本では、すでに基点が存在するので簡単に帰ることができる。
だが、今帰ったところで、あの例外的化け物を倒す手段はないのが現実だった。
そして、方策を考えたとき、あることを思い出した。
北畠の手首である。
超強度を誇りながらも、生物のような組成。
今も、普通の手首の真似をしながら、存在しているはずだ。
あれは一体何だったのだろうか。
その疑似生物は、俺が初めて飛ばされた異世界で手に入れたものであることに気づいたのである。
「手首の一つも失うことが有るだろう、これをもっていけ」2代目掌門がもたせてくれたものだった。当時は、奇妙な塊をくれる師匠に、そんな物も存在するのだと、
当時は、深く考えなかったものだったが、それは本当に異世界の産物だったのか?
明らかに異質であった。
どちらかというと、高度な文明によって生みだされたような代物ではないかと今更ながらに思ったのである。
そして、祖師なる人物はのちアブダクトされ失踪。伝承では、星に成ったとされている。何言ってんのと当時は考えていたのだ。
これは、別宇宙の技術ではなかろうか?
そう考えると様々な奇妙な伝説、伝承の類がうまく説明できるのである。
こうした結論に達したのである。
今回の化け物勇者の対抗策が、きっとほかにも存在するに違いない。
というか、彼等こそ、その対抗策なのではと思ってしまうほどだ。
そして、探索の糸を異次元へ伸ばしているのである。
目標は、2代目掌門、あの男ならまだ生きているに違いない。
そして、オーラの波長はばっちりと認識している。
九宮八卦掌の門人は皆、その世界の人々から魔王派とか邪派とよばれているが、本当は、鉄掌門(あるいは鉄掌党)というのが、流派の名称である。
我等鉄掌門の功夫(オーラ、魔力の質、波長など様々な呼ばれ方はする)は特異である。
簡単に言うと、皆、似て来るのだ。
故に、自分のオーラに似た人間を探しているのである。
しかし、この途方もない探知は簡単に結果を出すことは並大抵ではないことは明らかだった。
夕陽が落ち始める。
さあ、帰らねばな。
流石に、夜通し探したくはない。
・・・・・・
「おかえりなさい、あなた」
「おかえりなさいませ、旦那様」クララとメイドが迎えてくれる。
「御主人様がおいでになっております」
「そうか、すまんな」
その館は、クララと異世界転生者の血を引く子どものために用意された屋敷である。
「シャドウ様、今日は、珍しいものを購入することができましたのでお持ちしました」
「いつも、何くれとなくすまんな」
「何をおっしゃいますか」
「此れです」そうして、指輪を取り出す。
鑑定すると、『大地の指輪』とでた。
大地から、魔力を吸収することができる力を備えているようだ。
「これを使えば、御自分の魔力の力を増強してもっと探せるのではないでしょうか」
「ふむ、このような逸品、かなり高かったであろう」
「シャドウ様のためならば、安いものです。お気になさらず」
「では、私はこれで」
「一緒に、食っていかんのか」
「こんばんは寄合がございますので、失礼します」
「本当にすまんな」
こうして、大地の指輪が残された。
明日は、この指輪にも手伝ってもらおう。
・・・・・・・・
「術式起動」大地の指輪の起動術式を起動させる。
やはり、異世界は魔素に満ちている、すぐに大きなエネルギーが体内に注入されてくる。
特に地脈からはものすごい量が注入されるという恐るべき指輪だった。
探知の糸を異次元へと侵入させ、探り始める。
昨日とはくらべものにならない、遠くまで感じることができるようになっていた。
指輪の礼として、金貨1万枚を置いてきたのは正解だった。
これは逸品である。
その他の礼として、グレンリベット商会の護衛達に、拳銃の発砲姿勢や戦術を教えたりしていた。特に銃弾は多めに卸しておく。
彼は、拳銃を特定の王族・貴族に販売して利益を上げているという。
しかし、戦術は、やはり本格的訓練をした者とそうでない者では雲泥の差がある。
CQB(銃による近接戦闘)の訓練を徹底的に行う。
そして、自分の持つCQC(物理的近接戦闘)の技術(彼の場合は所謂、拳法)もついでに叩き込む。
そうこうするうちに、10数日が経過していた、そうしてついに発見する。
2代目掌門のトラックである。
やっぱりまだ生きているようだ。
「ついに発見した。明日旅立つ」
「ああ、あなた、又帰ってきてくれるの」クララが縋りついてくる。
「旦那様、私も旦那様の子を授かりますように」と反対側にメイドが縋りついてくる。
「また、来る。心配するな」
だが、メイドが孕んだことは間違いない。
信号(ビーコン)を感じるからだ。
「強い子を産んでくれ」
「え?」
「俺の子だ」
「はい」
それにしても、それ以外にも、次々と女を送りこんでくるのは正直辟易したがな。
俺は、勇者ではなく優秀な種馬になったのか。シャドウインパクト号とか名前を付けられてそうだ。
素知らぬ顔で、若い女を送り込んでくるグレンリベットに文句を言いたかったが、世話になっているのでやめておいたのだ。
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