第72話 スキル『異世界転移』

072 スキル『異世界転移ゲート


ちぎれた腕をつかんだまま、緊急回避的に異世界転移を行った俺は、芝生の上に転がっていた。

意識が失われるまでに、腕をつなぎ、治癒魔術を掛ける。

そして、意識を失った。


気づくと、見知らぬ天井だった。

「あなた!」それはかつて、逢瀬を重ねた女冒険者クララだった。


異世界転移した先は、ビーコンの示す座標。

以前から、再三にわたり信号が送られてきた場所だった。

「すまん、迷惑をかけたようだ」

「何故とは聞きません、きっと何かと闘われていのでしょう」

すっかり女らしくなったクララ。


「雰囲気が変わったな」

当然であろう、彼女はこの男の子を産んだのだから。

「もう息子に父親の姿を見せることはできないと思っていました」

起き上がると、赤子を抱えたメイドが近づいてくる。

「これが、俺の子か」

すやすやと眠る赤子は、大変美しい子供だった。


「苦労を掛けたな」

「いえ、そんなことはありません。」クララが抱き付いてきた。

万感の思いがあるのだろう。

その柔らかさとぬくもりで、自分が人間であったことを想いださせてくれた。


ビーコンの発信元は、この子どもだった。

子供を抱かせてもらいながら、影野は思った。

ここで幸せに過ごせばいいのではないかと。


そうかもしれない。

インベントリには、使いきれないほどの金貨が詰まっていた。

夫婦で幸せに過ごせるくらいの金だ。

きっと一万組は大丈夫だ。


だが、それはできない。

何故なら、彼は、大魔導師だからである。(本当は作者の都合)

必ず、報復しなければ死んでいった上杉達に顔向けできないではないか!(上杉達は逮捕せれており死んでいない、ビル倒壊に巻き込まれ、負傷後逮捕された。周囲の人間はほぼ死亡。)


しかし、傷を治し養生する時間は必要だ。


「シャドウ様、再びの降臨、お喜び申し上げます」グレンリベット商会会長が早速現れる。

「再臨か、予定は無かったが、まさか息子に会えるとは思っていなかった」

「クララ様とご子息は我らが全力をもってサポートいたしますのでご心配には及びません」


「名前はどうしたのだ」

「はい、レオンと名付けました」

「そうか、いい響きだ」


「クララ、私は、異世界渡りの術を手に入れた、レオンが大きくなれば剣法の手ほどきをしよう」

「ありがとうございます」

まさか、あの地獄の訓練を子供に施すつもりなのか!正気か!


「さすが、シャドウ様」

「グレンリベット、礼としていくらか支払おう、以前のように文無しでもなくなった。金貨1万枚を置いていこう」


「そのような気遣いご無用です、それより例のものを譲っていただく方が何かとありがたいかと」

「そうか、それでよいなら譲ってやろう」

「ありがとうございます。王族などから煩うございまして、困っておりました。」

「そうか、100丁くらいならタダで譲ってやろう」

「いえいえ、そのようなわけにはいきません、ただでさえ、御子息の養育をさせていただいているのに」普通は、養育費を請求されるところだが、逆のことを言われる。

「私の息子がそんなに優れた人物になるとは限らんぞ」

「間違いなく、おなり遊ばします」

グレンリベットは信じているようだった。

まあ、世話を見てくれるなら、任せる方が楽でよいのだがな。


金貨は、日本でそれなりに、ばら撒いてきたが、まだかなりあった。

それに、SOG隊員たちの分もあった。


始めは、金貨を押しつぶして、金塊として売り払ったのだが、製造メーカーがないと、なかなか売りにくかった。結局10%引きで販売し、今度は金貨の状態でコイン商に持ちこんだのだが、今度はそこで、「この美しい金貨は一体どこからやってきたのですか!」とコイン商は絶句した。

「それは言えんし、知らんのだ」

かなり怪しい説明だったのだが、コイン商はその美しい造形に魅入られてしまったようだった。希少メダルとして買ってくれたのだ。

そうして、何種類かを希少メダルとして買い取ってもらったが、かなり金の重さよりも高かった。コイン商曰く、「素晴らしいデザインです!はあ」とため息をついて見惚れている。金貨の製造技術が無駄に高いのである。


勿論、売った人間は、『支配の魔眼』で操った人間にさせたわけであるが。

自分で売れば、足が付く。当然の警戒である。


ということで、かなり残っているのだ、さらに、今は金価格が上がっているので、交渉レートは金1g=5000円だが、実際の価格は、10000円近いのだ。

あまりにも多くの金貨を受け取り過ぎた弊害が出ていた。


しかし、グレンリベットのまさかの金貨受け取り拒否に遭遇してしまった。

1万枚といえば、かなりの金額になるのだが。


「それよりも、シャドウ様、シャドウ様が苦戦されるということは、かなりの強敵なのでしょう、なんらかの魔道具を購入されてはどうでしょうか、魔法封じと、魔法爆弾とか」


「なるほど、そういう考えもあるな、頼めるのか」

「シャドウ様のためならば喜んで」

「俺も、少し考えてみる」

「まずは、体をいたわってください」

「すまん」


「何をおっしゃいますか、ここは、シャドウ様の家と同じと思い、何なりとお申し付けください」


そして、子供と一緒に寝ていたのだが、気づいたら、横には、クララとメイドの娘が寝ていた。

「いかん、一体どうなっているんだ!」


確か、病気療養のために休んでいたのだが、俺は何をしていたのだろうか?

記憶が混乱しているようだった。


シャドウには、自動迎撃システムが搭載されており、自動で迎撃を行ったのかもしれない。さすが、『大魔導師』である。



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