第71話 決戦

071 決戦


某ビルの屋上。

二人の男。

片方は、元勇者。そして、もう一方は、あまり魔法を使用しない自称『大魔導師』。


勇者は、完全武装状態である。

素晴らしい鎧は、太陽の光を反射している。

細工の細かさ、魔法仕上げによる風格。まさに、異世界では国宝である。

級ではなく、間違いなく国宝になる逸品である。


一方、魔導師は、スーツ姿に、一本の日本刀を構えている。

金色の光が刃を光らせている。これぞ魔刃である。

魔導師の動きは、変幻自在、一瞬で懐に飛び込み魔刃を振るう。

全てを切断する一撃である。

対する勇者は大剣で迎え撃つ。

勇者は重武装であるが、重量軽減の魔力の効果でほぼ重量を感じることはない。

火花が飛び散る。こちらも、すべてを断ち切る勇者の剣が、切れずにつばぜり合いを行っている。


しかし魔刃も鋼鉄をも断ち切る。

魔導師の動きは、勇者の動体視力をもってすらもなかなかとらえることができない。

一体どのような修行をすればこうなる。

勇者は焦りを感じる。


離れた間合いから魔導師は『飛刃』を放つ。剣で打ち払い、盾で防ぐ。

しかし、その瞬間こそ、魔導師の狙い、視線が切れた瞬間に接近してくる。

『七星連斬』一瞬で七回も斬撃を繰り出す業である。

勇者の籠手と脚甲が切断される。

この魔導師の業は、本来はこれで頭手首足首を切り飛ばす絶技である。

流石に、勇者装備であった。

勇者の盾攻撃と剣による強襲。

魔導師はまたもそれを躱し、飛び退る。


防戦一方に追い込まれる勇者。

しかし、勇者装備は簡単に死ぬことはない。

切り飛ばされた部分が戻ってきて癒着を始める。

「全く、勇者は、非常識も甚だしい」魔道師は吐き捨てる。

「貴様!」さすがの勇者もここまで劣勢を体験したことが無かった。

とんでもない強さだ。


「死ね!勇者」魔導師がさらに『飛刃』を放つ。幾筋の光が飛来する。迎え撃つ勇者だが、先ほどとは違い、『飛刃』の動きが変化する。

「くっ!」迎撃が一歩遅れる。

『北斗七星陣』魔導師の動きがぶれる。

『飛刃』をさらに放ちながら近づいてくる。

魔導師がまたも、勇者と接近して、一太刀を浴びせる。

何とか受ける。しかしもう完全に動きを見失っていた。

「そこか」真後ろに剣を振る勇者。

しかし、そこに魔導師は存在しない。

直感の閃きが勇者を突き動かす。


『死門』自分の影から魔刃が生えてくる。勇者の動体視力が、魔刃の切っ先を発見した。

魔刃が光っていために発見できたのである。

頭を逸らす。魔刃が先ほどまで頭があった場所を突き上げる。

勇者の兜がはね上げられる。

顎が激しく出血するが、それどころではなかった。

勇者の剣は猛烈に、魔導師を薙ぐ。

魔導師は、九十九刀で其れを受けるが、さすがに勇者の剣、九十九刀が折れてクルクルと折れた刃先が舞っている。


再度飛び退る魔導師、今の『北斗七星陣』からの『死門』は今まで破られたことのない必殺の業であった。しかも、九十九刀までおられてしまった。


激しい、動揺が魔導師を襲う。わけではなかった。

「さすがに、非常識の塊だな」魔導師は刀を捨てた。


「どうした、諦めたか」勇者は自分の心の激しい動揺を抑えて勝ち誇る。

「いや、どうやって殺そうか考えているところだ」


『北斗七星陣』またもそれを発動する。この技は、鬼門遁甲を利用した歩法で相手に、悟られなくなるという絶技である。

無手からの『砕身掌』。

グアンとすごい音が立つ。

勇者はまともに掌を食らったがまたも、鎧が守った。

『死門』。先ほどと全く同じ技。相手の影から出現するという奇想天外な技である。

「舐めるな」自分の影に勇者の剣を振り下ろす勇者。

バシ!その剣は、両手に挟まれていた。

『真剣白刃取り』魔導師の膝が、勇者を高く蹴り上げる。


『龍掌破』恐るべき掌力が龍のごとく駆け上がる。

空中に蹴り上げられた勇者は、その龍掌破に打ち砕かれた、かに見えた。

だが、勇者の鎧がその身をもって勇者を守った。


屋上のコンクリにたたきつけられた勇者は血まみれながらも立ち上がった。

「影野~~~!ぶち殺してやる」魔王のような赤い目をして、鬼人の形相の勇者が吠えた。


流石の影野も、ここまでの業を繰り出しても仕留めることが不可能な勇者の非現実的な力を知る。


先ほどの一撃でかなりの消耗感を覚えた影野。


勇者の鎧が復旧作業を開始していた。

砕けた鎧の破片が集まり始めている。


「りゃりゃりゃ」勇者が鬼の形相で剣と盾で猛攻を開始する。

軽やかなステップで躱していくが、さすがに、疲労感が強い。


油断したわけではなかったが、勇者の盾フックが決まり弾き飛ばされる。

コンクリートの壁にぶち当たり、ボロボロと破片が舞い散る。

頑身功で防御していなければバラバラになるほどには、威力がある。


勇者は、剣を持つ拳で殴りつけようと闘気を纏う。

勇者は、闘気を纏う闘気術を使うようだ。

コンクリの壁に何発も穴を穿つ。


何とか躱すが、盾が魔導師を直撃して宙に浮かす。

勇者が剣を突き上げる。

しかし、魔導師はその刃先を叩いて、逸らす。

そして、腕を捕まえる。

『黒洞九星大法』

「な!」勇者は異変を感じた。急速に己が力を吸い取られている。

盾を抛り投げて、つかんでいる腕を外しにかかるが鋼鉄に食い込まれているように全く動かない。

化け物め!躊躇なく、短剣で自分の腕を切り離す勇者。

「ぐ!!」


自らの腕を切り飛ばし距離をとった勇者。

「お返ししましょう」腕を抛る魔導師。

腕を接続する勇者、すぐに治っていく。まさに人外の化け物である。


「では、今日はここまでとしましょう」

「逃がすと思うか?」

「いいえ」


しかし、魔導師は空中へと飛び出す。

何もない空中、如何な魔導師をいえども、それは無理だった。かに思えた。

しかし、足場がそこにあり、ジャンプしていく。

「待て!」勇者が空中へと飛び出して、パネルを踏む。


爆発が起こる。

『魔術地雷』だった。


「くそう!」勇者は某ビルの屋上で吠えた。

吹き飛ばされて、ビルに戻された勇者、通常の人間ならその爆発で即死できる。




「術式展開完了、照準」

「照準完了」

3Km以上離れたビルの屋上で、魔導師は、魔法を展開していた。

魔法陣が次々と展開され、前方に展開されていく。

彼が、両手の間に抱えるように浮かせているのは、劣化ウラン砲弾。

レールガンメガ粒子砲

爆発的な衝撃波と音を発して、劣化ウラン弾が音速を簡単に突破して突進する。


衝撃波で周辺のビルのガラスがはじけ飛ぶ。

マッハ7を軽く超えた劣化ウラン弾は火を噴きながら、勇者を襲う。


それを瞬時に察知した勇者は、「勇者光線波動砲!」を発した。

劣化ウラン弾が大爆発を起こし、勇者光線が直進する。魔道師の腕を直撃し切断する。

「グハ!」

辺り一面が勇者光線によって爆発する。

影野の立っていたビルの後ろのビルが大爆発を起こす。


転移ゲート!」ついに、会得したスキル異世界転移のスキルを発動する。

爆発に巻き込まれる寸前に、影野の肉体はその場から消えた。


魔導師の居場所を確認した勇者はすぐさまとどめを差すべく飛翔魔法を展開しようとしていた。しかし、空中に複数の異物を検知する。


Mk84爆弾が複数落下してくる。逃げた魔導師が攪乱の為に投射したものである。

「勇者光線!」

信管のついていないMk84爆弾なので落下しても問題ないはずだったが、勇者光線が発火させてしまう。

市ヶ谷にあった某ビルの空中で大爆発が起こる。

勇者光線が全てのMk84爆弾を起爆させたのであった。


某ビルはこうして半壊した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る