第68話 事情聴取

068 事情聴取


会議室には、検察官役になる警務官が並び、縦のラインに参事官のチームが並ぶ。

その反対側の列には、SOG隊員(証言者)が並んでいる。


影野は中央に席を設けられている。

所謂、被告である。


「では、事情聴取を始める。」

警務官たちは、異世界での話を聞き、それを被告、証言者が証言していく。

そもそも、異世界では、最小限度の武力行使を行ったが、証言からは、殺人などは行われていない。前回とは大きく異なる。SOG隊員の前では、狡猾に動いた男がいたからだが。


「重大な違反行為は、認められない」


「我々が、言っているのは、その出発前の事件についてなのだが」参事官が、警務官に言う。

「現状では、証拠がないとのことだったではないのか」

「犯人は、影野しかいないのです」

「どういうことですか」


「数メートルもある柵を飛び越える人間は、彼しかいないということです」

確かに、人間の力では、無理がある。

「異世界での戦闘詳報を読まれたでしょうが、かの地では、異常な力を発揮しているのです、そのようなことを出来る人間とは、彼だけなのです」

「なるほど、それで関係のない異世界の話を聞いたわけですね」

警務官Bは、連絡係の男だった。


「その映像が決定的な証拠なのです」

フードを被った姿しか映っていないのだが。

米軍基地で映された防犯カメラの映像である。


「確かに、映像の人間の背格好は、影野三佐と同じくらいですね」

映像からは、身長や体形は読み取れる。逆にいうとそれ以外は不明なのだ。


「背格好が似ているだけで、犯人にされても困るのですが」

「その通りですね」

「それに、こんなことができる人間を私は知っています」と影野が口を開く。

「ほう、あなた以外にもこのようなことができる人間がいると?」と警務官A。


「そうです、他にもいるんですよ、その者たちも、容疑者として逮捕すべきではないでしょうか」


「逮捕はしていませんが」

「まあ、人権侵害行為はたくさんあったように思いますが?」

「さて、その者たちはとは誰のことなのでしょうか」皆、自分の都合の悪い部分はスルーしていく。


「あなた方以外の全員ができるでしょう」

警務官とその警備の者以外の顔色が驚愕に染まる。

「そうなのですか」

「試してみてください。SOG隊員は、尋常ならざる能力をもっています。彼らも容疑者です。そして、参事は、私の推測通りならでしょうから、彼とその仲間も簡単にやってのけるではないでしょうか、彼らもです」


「ほう!」

「そもそも、私の聞いたところでは、自衛官の眼に、マイクロカメラを仕込んで、現場を撮影するという人体実験を行っているとも聞いています。私はここで、敢えて、彼らの身体検査をすべきであると申し上げたい」と影野は言い放った。


「なんだと!」参事は顔色を変える。

これは、軍事機密の実験でもあった。それを影野に転用したのである。


「参事官、なにか問題でもあるのですか」

「影野、貴様軍事機密を漏洩するつもりか」

「参事、私は何もそのような事実は聞いておりませんが、噂を申し上げた迄です。特殊作戦軍のような部隊に実装されているのかもしれないと、推測を申し上げたのです」


「このことについては、警務でも承知しておりません。しかし、この場にいる全員が柵を飛び越えられるという証言には、一定の正当性を認めます。全員の身体検査、アリバイの調査を行いますので、本日は休会とします、後日召喚状を再度送りますので、出席をよろしくお願いします」


「貴様あ~」参事が顔を朱に染めて睨んでいる。

「参事の行為は脅迫なのでは?」

「参事官、慎むように」警務官Bが冷たく言う。


何かが、くるっている。

参事官は思ったであろう。

この事情聴取では、こちらに有利に動くように手を打っていたにも関わらず。

何故か、自分まで調査対象にされてしまった。


奴は一体どのように、マイクロカメラを外したのだ!

外科手術を行わなければ、取り出すことはできないはずだったのに。

何故、ないのだ。

イライラが募る。


・・・・・・・・・・


だが、衝撃の情報がさらに彼を襲うことになる。

北畠3尉、米軍基地窃盗事件で逮捕。


「なんだと!」参事官は、自分の部屋で叫んだ。


北畠3尉の眼球から、マイクロカメラが発見され、その映像を解析したところ、米軍基地に侵入したところが映っていた。


本人は否定しているが、映像が決定的証拠となる。


「そんなはずがあるか!あいつは、異世界に行くまでは普通の人間だったのだ、あの能力は、異世界到着後から得たもののはず」


まさに、そうだった。

しかも、彼は当日、訓練中であり山中で一人彷徨さまよい歩いていたのである。

だが、逆に、誰も彼を確認していないことがあだになったのである。


参事官は、直ちに警務官に電話を掛ける。

現在取調べ中で、出られないとのことだった。

何ということだ。


明らかに、おかしいだろ。

あいつは、アイテムボックスをもってないんだぞ。

盗んでも、もって帰ることができないではないか。


参事官は何とかして、第2回の事情聴取を開催させるべく、上に働きかける。


「絶対に、奴のアイテムボックスを開けてやる」


アイテムボックスの習性で、持ち主が死ぬと、入っているものが一斉に吐き出されるという現象が発生することは知られている。

最終手段は、影野を抹殺して、アイテムボックスを開けてやる。


そんな物騒な考えを持ちながら、参事官は、たばこを灰皿に押しつぶした。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る