第69話 事情聴取第2回目

069 事情聴取第2回目


面子は全く同じだったが、北畠容疑者は、憔悴した顔で囚人服を着せられている。

両手、両足に手錠を掛けられている。

拳法の達人であることが、明かであるため致し方のない拘束である。

両脇に屈強な兵士が立っている。


「本来は、この事情聴取は必要のないものであるが、参事官から是非ともということであったので、開催された。すでに、映像が北畠容疑者から出ており、物証としては、何ら問題はない」


「警務官、映像では、武器はどうなっているのですか」参事官が積極攻勢にでる。

「武器窃盗の映像は映っていないのだ」

「おかしいと思いませんか」

「何がだ」

「仮に、北畠が盗んだとして、それをどのように持ちに逃げしたのかです」

「それは、君たちが、言うところの異世界スキルでどうにでもできるだろう」

警務官Aは、そのようなことに興味をもっていないようだ。


「アイテムボックスというスキルは・・・・・・・」参事官が雄弁に語り始める。

・・・

・・・

・・・



「なるほど、さすがに武器を取り戻す必要があるので、北畠3尉から取り出してくれないかね」と警務官。

「いや、だから、北畠にはそのようなスキルは存在しないのです」と参事官。

「そんなことは、我々が知るわけがない、本人が隠匿しているかもしれないではないか」


「ですから、私のスキル鑑定で、北畠はそのスキルはもっていないのです」


「異議あり、参事が嘘を言っている可能性が高いと思われます」と影野が異議をさしはさむ。


「陸将補、アイテムボックススキルは、珍しいスキルなのです、誰もがもつものではありません、奴しかいないのです」参事はそういって影野を指さす。


「スキルの存在証明を行っていただきたい」と警務官B。

陸将補とは警務官Aのことである。


「鑑定!」ここで、参事官は、鑑定スキルを発動する。

北畠の数値が明らかになる。

なるほど、半透明の画面がでて、色々と記載されている。

勿論、そこにはスキル欄があった。

しかし、異世界でのギフトスキルのほかに、戦闘に関するスキルしかなかった。


「異議あり、それが真実であるという根拠をしめしていただきたい」と影野が醒めた口調でいう。


「鑑定!」参事官は、無視して、影野に鑑定を掛ける。

しかし、そこには、アイテムボックスのスキルは存在しなかった。

「何故ない」と参事官は呆然とする。

その半透明の画面には、スキルが存在しなかった。


「隠ぺいのスキルも持っているのか!」

「何を言っているのかわかりません、参事は私にすべてを押し付けようとしているとしか思えません。言い掛かりとしか思えません。」


「師父は、アイテムボックスから武器を授けてくださいましたよね」北畠が声を挙げる。

「ほら見ろ、北畠がそういっている、スキルを隠ぺいしているのです」と参事官。


「北畠3尉と参事は共謀して私を陥れようとしています」と影野。

「そもそも、スキルを隠ぺいなどできるなら、北畠3尉も隠ぺいしている可能性もあるということではないのかね」警務官A(陸将補)。


「だから、影野が」

「君の言っていることは一貫性が欠けているのではないかね、永田参事官」

「私の言っていることを信じられないのですか、私は、なのですよ」と永田参事官。

「私には、君のその特権意識が透けて見えるところが問題なのだと思うがね」警務官A。


風向きが一気に悪くなる。


そもそも、勇者は国(世界)の英雄である。あらゆる人間がこびへつらうのが当たり前なのだ。

そもそもが特権階級なのだ。国を世界を救ったのであるから当たり前なのだ。

その調子で、この衰退する日本を救ってほしいものなのだが。


影野には、隠ぺいスキルが当然あった。

永田参事官(元勇者)にも当然あった。


「貴様、どこまで私を愚弄するきか!」ついに参事官がオーラを放射しながら、立ち上がる。

「威圧的口調はおやめください」警務官B。


勇者とその仲間が、影野を取り囲もうとする。しかし、彼の弟子たちも立ちふさがる。

さすがに、起請文の所為もあるだろうが、長い間、なんだかんだと暮らした師父である。

結果としては、人間の範疇を越えるところまで、彼らを引き上げてくれたのだ。


「邪魔をするつもりか」

「参事官、おやめなさい」

「黙れ!」さすがに特権階級の男である。もはや我慢ならないようだ。

一触即発の雰囲気が漂う。


「貴様をぶちのめしても、を開けてやる」

それは、言外にぶち殺してもという意味である。

殴りつけたくらいでは、アイテムボックスは開かない。


上杉、武田、毛利、浅井が、彼ら(勇者チーム)を押しのけようとしている。


「偉そうなことを言っているが、魔素を長い間、吸収していないあんたらが俺たちに勝てるとでも思っているのか」今度は影野が挑発する。


「勇者はこの魔素の薄い地球でも、力を維持できる。そして、皆にその力を授けている」

参事官は、勝ち誇ったように、宣言する。


なるほど、勇者はやはり規格外の存在ということらしい。

つまり、いまでも十分に戦えるということらしい。


案外、魔素不足で普通の人間に戻っているのではないかと期待したが、期待外れだったようだ。魔素が薄くても、広く吸収する技術があれば問題ないのだろう。

全くだ。



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