第66話 決心
066 決心
「師父、大変です」その夜、北畠は師父の部屋の扉をたたく。
「どうした、北畠」
「あのライン王国がほろんだと聞きました」
「そうか、あのような国どうでもよかろう」
「しかし」
「しかしもかかしもない。もう遅い寝なさい」
扉は開くことはなかった。
やはり、こいつがかかわっているに違いない。
北畠は確信した。
我々が帰った後に、何かが起こったのだ。
というか起こしたのだ。
だが、だからといってどうしようもない。
証拠がない。
それに、異世界の他国で行われた犯罪行為をどうやって償わせるのか。
「証拠はないから、推定無罪だ」確か、影野は何度もそういった。
「連れてくれば、証拠は自ずと出る」と参事官は言った。
やはり何としても、こいつを日本に連れ帰らねばならない。
北畠はそう決意を固めた。
宿屋で朝飯を食べる。
影野とユウコが現れる。
「師父、おはようございます。」
「うむ、おはよう」
「ところで、ライン王国の事を何かご存じですか」
「北畠、私を疑っているのか」
勿論だ、100%確実にお前が糸を引いているに違いない。
「いえ、師父が我々を逃がしてくれたあと、どのようになされたのか心配だったので」
「うむ、師をおもってくれておるのか、だが、大丈夫だ、あの後、軽功を使って、逃げ切ったのだ。そのあとにおわれるなと思っておったが、なんとも間がよいことに、ドナウ公国とやらが、奇襲作戦で電撃的にライン王国の首都を陥落せしめたので、儂は逃げ切ることができたのじゃ」
「ドナウ公国は、恐るべき魔法で、防壁を完全に破壊したそうですが」
「そうなのか、儂は、あのような無礼な奴らに興味はなかったのでな、そのようなことは知らぬ」表情一つ変えることのない影野。
「そうですか、ところで、お考えはまとまりましたでしょうか」
「うむ、一夜考えた。弟子たるお前が迎えにきてくれたのだ、儂も帰らずにはいられまい」
「ありがとうございます。もし何かあっても、弁護(上杉と武田が)いたしますので」
「北畠、儂は何もしておらんのでそのようなことは、心配はいらん。だが、そのやさしい心根には礼を言っておこう」影野はやはり表情一つ変えることはない。
「では、さっそく人目のないところで、帰還するとするか」
「はい、師父」北畠は、快哉を叫んだ。心の内で。
・・・・・・
日本国某県の航空自衛隊基地。管制室。
「重力異常感知、転移現象です」
「緊急警報発令!」
基地全体に非常警報が響き渡る。
陸上自衛隊の戦闘員たちが完全武装して、滑走路に飛び出していく。
犯罪者影野が帰ってくるかもしれないからだった。
そして、滑走路に、2つの棺桶が出現する。
全員が銃口を向ける中、棺桶の蓋が開けられる。
「二人とも、手を上げて、地上に伏せろ」
「ちょっと待て、何事だ」
「君らは、重要参考人として、拘禁する」
「私は、北畠です。影野三佐を迎えに行っただけです」
「問答無用だ、罪がないなら、おとなしくしていろ」
彼らは、手錠と足錠を掛けられて、軍用車両に載せられて、管理室に送られる。
異世界からの新たな病原菌などを保菌していないかなどを徹底消毒され、超精密健康診断を受けさせられるためである。
・・・・・・・・
透明のアクリルの壁の向こうに、参事が立っていた。
「よく帰ったね」
「閣下、これはどういうことでしょうか」
「重要参考人なのだよ君は、ゆえに拘束されたのだ」
「これは、ないでしょう」腕と足が手錠で動きを封じられている。
「君の実力は、彼らからの情報で推測している。かなり私に近いものがあるようだからね、用心のためさ」
「閣下、私は、無実なんです、絶対に証拠なんかありません」
「まあ、調べればわかる、おとなしく検査を受けろ。まあ、悪いようにはせん。」
「司法取引ですか」
「まあ、君はかなり向こうで稼いでいるようだね。本当はいけないことなのだ。公務員の副業は認められていないのだ。」
「任務を円滑に運ぶために必要でした」
「そうか、まあ、その程度は目こぼしされるだろうが、本命の武器盗難の方は、そうはいかんからな」参事官の眼が冷たく光る。
「私ではありません。」
「調べれば自ずとわかる、君の眼は正直だからな、その時は、全部の武器を返し、君の儲けた金で贖罪すればいいのではないかな」
「参事、あなたの考えはよくわかりました。いつまでも私から巻き上げようというのですね」
「そうではない、これは君の事を思って言っているのだよ。親心というものだ」
「あなたは、私の父親ではありません」
「まあ、ゆっくり検査を受けなさい」
アクリル壁の向こうの参事は、出ていった。
この程度の壁を破壊することはたやすい。
しかし、いつまでも、俺から集ろうとするのだろうな。
これでは、おちおち金儲けもできない。
儲けた端から、捲き上げられる未来しか見えないからな。
やはり、奴らを消すしかないな。
答えはすでに、日本への帰還のときに決心していたはずである。
これは、自分を納得させるための一人言なのだ。
勿論、声には出さない。
全ての音は盗聴されているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます