第65話 捜索

065 捜索


「さあ、早く参りましょう」

さっさと、SOG隊員の棺桶を鹵獲した熊子はそういった。

勿論、帰るわけがない。

逮捕される危険があるのだ。


「ユウコ、あわてなくても、迎えがくる。その時までまつのだ、それに、君は日本でどうやっていきるのだ、魔素はないぞ」

「そんなことよりも、安全に子供を産みたいのです」

「何を言っているのですか?」影野はめまいを覚えた。

「あなた、私、妊娠したみたいなの」ユウコは笑顔を作るが、眼の奥底は笑っていない。

まさに、氷の微笑だ。


じゃあ、洞穴で産めばと言えなかった。

きっと殺される。

「しかし、日本では、医療保険とかマイナンバーとか、色々必要なのだが」

「何とかしてくださいね」

「ええと、それは私の役目なんでしょうか」

「勿論、あなたの子供なんですもの」

いや、さすがに熊の子供とか生まれたら、ヤバいんじゃね。

獣〇とかでできたとか言えない。

無理やり、されたとか言えない。


「大丈夫、人間の姿でうまれるはずです」

「はずって・・・」

「ああ、早く産みたいわあなたの子供、とっても強いと思いますの」

きっとあんたに似て強いとは思うがな・・・。


その時、俺は時空転移の振動を感知した。

何回も異世界転移を繰り返した副作用か、それを感じることができるようになった。


「北畠だな」

「さすが、あなた」熊子は美しい顔でそういった。

降下地点は、あの場所である。

同じ座標だから仕方ない。

同じ座標。そう同じ座標。

俺が帰る場合も、同じ座標。

例の航空自衛隊の基地になる。

何故なら、そのようにセットされているからだ。

そして、俺が設定したのだから。



・・・・・・・・・・


北畠はまたも帰ってきた。

あの場所だった。

そういえば、あの時も、棺桶を隠したな。

しかし、それはなかった。

きっと誰かが、珍しい遺物として見つけてもって行ったのかもしれない。

もっと、キチンと隠さないといけない。

北畠は念入りに隠ぺいした。


街に向かって歩き始める。

もはや、迷いも恐怖もない。

この森に彼の敵はもういない。

影野の地獄の扱きが、彼を変えたとも考えられる。

しかし、そんなことよりも、彼らの金貨を取り戻す必要がある。

影野は無理でも、我々の金貨だけは持って帰るのだ。


そのための、装置として、アイテムバッグが必要になる。

そのためにも、彼らの稼ぎを取り戻す必要がある。

先ずは、奴を探さねば。


ライン王国に向かうしかないか。

それとも、先に冒険者ギルドで情報を得るか。

まあ、アイテムバッグの情報も欲しいしな。


森を抜け、平原を越えて、街が見えてくる。

さあ、ここらだ。そう考えていた。北畠。


「弟子よ、息災か」そこには、影野と謎の女ユウコが立っていた。

「師父」北畠は平伏する。

彼は、演技を心込めて演じる才能があるようだった。

今まさに、どのようにして、騙してやろうかと考えていた相手が目の前に現れたのに、殊勝な態度を瞬時にとることができるのだった。


「師父、お迎えに参りました」

「そうか、儂は帰るつもりはないと言っていたのだが」

「はい、しかし、師父の生きる場所は、やはり日本ではないでしょうか」

「まあ、お前の考えは分かっている。金貨だな」

「何をおっしゃいますか師父」

「北畠、ここに、アイテムバック(魔道具)がある。ここに、お前たちの分の金貨は入っている、それをもって帰るがよい」

何とも、捜索する手間もなく、さらには、一番の関心事もこれで解決だった。

影野は、バック(見た目は普通の布の入れ物)を抛る。

北畠はバックに手を入れると、金貨の枚数が頭の中に現れる。

将に、これが欲しかった。


「気が済んだであろう。儂は帰ることはない。参事にはそう告げよ」

「師父、しかし、私は師父をお連れすることを命じられました」

「北畠、皆にも言うたが、儂が帰れば、お前たちまで不幸に見舞われるのだ。儂は気が進まんな」

「我らは、師父の弟子です。一緒に苦労するのは当たり前でございます」

今の彼の演技は、入神の域である。

本当は、捕まるのは、影野だけなので何の心配もしていない。


「少し考えさせてくれ」

「師父が心変わりしていただけるまで待ちましょう」

本当は、すぐにでも帰りたいのだが、帰る術は、影野にしか制御できないのである。

これは必要な時間だ。


考えるのに飽きれば、自分だけを日本に返してくれるか、それとも一緒に帰るか、どちらかになるだろう。

そんな内心は噯気おくびにも出さずに答えを導き出す北畠。


北畠は、冒険者として街に入る。

そして、ギルドの酒場に向かう。

彼らの習性として情報を収集してしまうのだ。


その時、ふと思い出したのである。

自分の『支配の魔眼』について、今もまだ封じられているのか。

エールを注文するときに、使ってみるが、まだ封じられているようだった。

上手く発動することはなかった。


「ところで、近ごろライン王国はどうなってるんだ」

「あ~?あんちゃん森にでも籠ってたのか、ライン王国は滅びたじゃね~か」

別の冒険者は、あきれたように笑った。

「どういうことだ」

「どういうことも何も、」

「これをやろう」大銀貨を渡す。

「ああ、ありがてえ、じゃあ、森に籠っていた兄さんの為に話をさせていただこう」


北畠はそこで驚愕の事実を聞くことになる。

ライン王国はドナウ公国の奇襲攻撃に屈したという。

そもそも、ドナウに侵攻するために、なんらかの準備をしていたラインの情報はドナウに筒抜けであった。

「なんでも、一瞬で、ライン王国自慢の防壁が爆発崩壊したらしい。それも、4重の壁が悉くだぜ、なんでも、ドナウは、すごい魔術師を雇ったらしいな」


どうも見ても、胡散臭い話だ、しかしないだろう。

恐らく、大型の爆弾をさく裂させたのに違いない。

米国基地から奪われた爆弾に違いない。




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