第64話 参事官
064 参事官
しかし、君ね、そんなこといっても。棺桶は怖いんだよ。
焼け死んだりするんだから。
そういえば、それくらいで死んだりしない人だったな。
心臓を破壊されて生きてたから、さすがに人外だな。
ああ、そういえば人間じゃなかったね。そう結論する男だった。
彼女なら、多少燃えても大丈夫だな。
いやいや、しかし、棺桶がないんだよ。
俺の分しかない。
「彼らの棺桶はどこに隠しているのかしら」
「うん、そうだね」
「勿論、知っていますわよね」
「うん、そうだね」
隠し事はできない
しかし、俺は帰るとは言っていない。
帰るとヤバいからな。
怖い男が手ぐすね引いて待っているに違いない。
え、金を使うなら地球と言ってたって。
記憶にないな。捕まるかもしれないから、やはりこちらで生きていこう。
・・・・・・
「報告は以上です」上杉が、直属の上官ではない参事官に説明していた。
「なぜ、奴を連れてこなかったのだ」
「はい、影野3佐は、推定無罪なので、捕まる危険性を考慮して、とどまりました。それに、我等を優先的に逃がしてくださったのです、事態は非常に緊迫していました、民間人の安全が最優先だと考えられたのだと思います、立派な自衛官だと思います」
「上杉、貴様の言いようは、洗脳が疑われるな」
「そのようなことはありません、影野3佐は素行に確かに問題ありでしょうが、逮捕されるようなことはしていないと思われます。」
「馬鹿者、米軍の基地から大量の武器が盗み出されたのだ、奴が犯人の可能性は極めて大である」
「そのような事件をきいたことはありませんが」
「そのようなこと、公にできるわけがない。また、米軍基地反対派を勢いづけるのだぞ」
「・・・・」
「もう一度行って奴を連れてこい」
「我々では、とても勝てません」
「ならば、罪は問わないから、帰れと嘘をいっておびき出せばよい」
「私にはできません」
「貴様、それでも日本国の軍人か」
「私がやりましょう」そういって声を挙げたのは、北畠だった。
「北畠、師父の恩を忘れたか」
「上杉隊長、影野3佐は言っていました、証拠がないから無罪なのだと、大丈夫です。
無罪であれば証拠は何も出ません、何の問題がありましょうか」
「しかし」
「隊長こそ、師父を信じるべきであると本官は考えます」と北畠は言い負かしたのである。
「よし、では北畠3尉頼むぞ、証拠はかならず出る」と参事官。
「わかりました、その代わり、我々の所得税の方を何とかしていただけますか」
「よかろう、その条件で、調整しよう」
そもそも、金貨のほとんどは、影野のアイテムボックスに入ったままである。
棺桶の耐荷重値は低い。というより、オーバーした時にどのような現象が発生するかは、よくわかっていないのだ。危険すぎるのだ。
彼らは、泣く泣く、金貨の大部分をあきらめるしかなかった。
金貨1枚20gとしても、1000枚もあれば、20Kgにも達する。
だから自分の分け前、100枚程度しかもってきていない。それでも、1000万円になるのだが。
「参事官、影野3佐は功労者です、減刑をお願いします」と上杉はさらに食らいつく。
彼は、そのような善人なのだ。
「上杉3佐、相手は無罪を主張しているのだ、減刑嘆願などおかしいのではないか。証拠が出てから言ってやるがよい」
参事官は、上杉に皮肉な視線を向けた。
「しかし、参事官、影野3佐は相当な達人です、あまり刺激するのはいかがなのでしょうか」今度は、武田だった。この二人は、親影野派だった。
「大丈夫だ、我々なら奴を抑え込める、前回もそうだった」
参事官の周囲に、数人が控えていた。
彼らが、勇者チームのメンバーなのは、間違いないようだった。
盾となる戦士、優秀な魔法使い、治癒魔法を使う神官、斥候役の盗賊といったところか。
異世界で冒険者チームの経験を積んだ彼らには、なんとなくだがわかった。
そして、彼らが勇者をさらに強固なものにするのだ。
たった一人で、彼らを倒すことは不可能に見えた。
かなり人外の境地に近づいた上杉はそう考えた。
「まあ、君らは、異世界帰りの戦士として、優遇させてもらうから心配するな」
それは、参事官の派閥に入れということでもあった。
今や、彼の派閥は豊富な活動資金を得て、陸上自衛隊のなかでも有力な派閥となっていた。
今回の件でも、また10億円が振り込まれるのだ。
そのことを知れば、影野は激怒するだろうが。
上手く立ち回れば、陸将の地位と、防衛施設庁への天下り。そうすれば自ずと金が懐に入ってくるというものだ。裏の裏を生き延びた参事官もこうした思考が染みついてしまっていたのだった。
彼は、未来の自分の姿を想像して、悦に入っていた。
何とか、影野の持つ金貨も吐き出させてやらねばな。まあ、今回も司法取引を使って金貨で贖罪させてやるのが一番かもしれん。何といっても、使い勝手の良い駒なのだ。異世界への決死隊。なかなか、できる者はいない。
もし、逆らえば、かつての罪で逮捕すればよいのだ。
そう考えれば、あとくされが無くて最高の駒だな。
なあ、影野よ。
参事官は心の中で呟いた。
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