第62話 違法販売業者
062 違法販売業者
王城を守る壁、その壁から飛び降りる男がいた。
有に10mを越えるそれを簡単に飛び降りたのだが、何事もなく着地する男。
「待たせたな」
そこには、自称男の妻が待っていた。
逮捕から実に3日後の事である。
何故男が来たのがわかったのか?
「今、来ましたの」妙な上流階級のしゃべり方だった。
「すまん、すぐにここを離れないと、少し危険だ」
そう、男は、宝物のお礼に、爆弾を用意していたのだ。
今も、タイマーが少なくなっていく。
爆風でなぎたおされるくらいの距離にはいるのである。
「では、参りましょう」
「ああ」
彼らは後ろを見ることなく歩き始める。
城は今大変な騒ぎが起こっていた。異世界からきた侵略者が暴れているらしい。
続々と兵士たちが、城門をくぐる。
侵略者を何として倒さねばならない。
近衛兵たちは、奮戦したが、敵せず倒されていったのだ。
炎の柱が城から立ち昇る。
巨大な黒煙が城を包む。
少しして、爆発音と衝撃波が届く。
GOOOOON~~~。
ライン王国王城は、半壊した。
数多くの貴族たちが、爆発とその後の崩壊に巻き込まれて大変な事態に陥っていた。
残念なことに、王も爆発の規模が大きく、死んだらしい。
状況は市民に知らされることはなかったが、他国のスパイはその驚愕の実態をつかみ始めていた。
事の発端は、違法に異世界召喚を行ったことによるためではないかという噂が広まっていた。
ライン王国は、ひそかに異世界召喚した召喚者たちを訓練していた。
そして、その召喚者軍をもって、隣のドナウ公国に宣戦布告する準備をおこなっていた。
その戦争準備の兆候は各国の情報機関はつかんでいた。
だが、王城を半壊させる魔術は大変な威力をもっていた。
きっとその召喚者が、反乱を起こして自爆したのではないか、などという噂が流れたのである。
そして、そのドナウ公国のある貴族の館に、二人の冒険者が現れた。
S級冒険者シャドウとA級冒険者ミセス・シャドウ。
ライン王国の貴重な情報をもたらすとの触れ込みだった。
この貴族は、ドナウ公国諜報部を仕切っている存在である。
「それで、情報を売っていただけることですが、どのようなものでしょうか」
貴族は自ら、面談に来ていた。
彼も本気でライン王国の情報を欲していた。
特に、王城爆破の経緯などを。
「何を聞きたいか聞いてくれ、知っていることはすべて教える、その代わり、こちらも手伝ってほしいことが有る」
「それは、どういうことか」
「今、宝物を数多くもっているが、金にしたい、あんたが代わりに売りさばいてほしい」
「貴様、伯爵様になんという口の利き方を」護衛の兵士が声を荒げる。
伯爵はそれを手で制する。
「盗品か」
「いや、そういう訳ではない、お礼としていただいたのだが、宝物故に、売り先を探すのが面倒なのだ、あんたが買ってくれてもいい」
「見せてもらえるか」
「話を買ってくれるのではなかったのか」
「品物を見せるくらいどうということはないだろう」
「まあ、そうだな」
ドサドサと無神経に、テーブルに宝物が取り出される。
例えば、王冠。かなりの貴重品の様だ。
「なるほど、しかし、これを売るのは難しいのでないか」
「そうか、じゃあ、分解して素材ごとに売るか」
その王冠には、ライン王国の象徴が刻まれており、見る者が見れば、ライン王国の王冠であることはわかる。
「どれくらいある。」
「この部屋いっぱいくらいか」
かなり広い応接室であった。
「興味深い情報を売ってくれそうだな」
「勿論だ、俺は、一流の情報網をもっているからな」
「30%引きで良ければ、売る段取りはつけてやる」
「あんた、なかなか、いい人だな、もっと割引を要求されるとおもったが」
「我々は永年、ラインに苦渋を飲まされてきた、溜飲を下げる材料は嬉しいものなのだ」
「素晴らしい、ついでに言うと、今がチャンスだぞ」
「?」
「少なくとも城の近衛隊は全滅した」
「!」
「売る段取りは数週間かかる、滞在していってくれ、その間に貴重な情報を聞かせてもらおう。他の人間を同席させてもよいか」
「ああ、口調がこれでよいならな」
「わかった。君は我が家の賓客としてもてなさせてもらう」
「有難く、頂戴させていただく」
・・・・・・・・・
「この方は、某貴族の・・・・様だ」
「それで、軍人の様だな」
「うむ、さすがにわかるのか」
「そうだ、今、お礼の品を捌いていてもらっているのだが、もちろんあんた等も、俺の上前を撥ねているだろう」
「我々ではない、手配しているもの達だ、彼らにも手数料は必要だ」と貴族。
「それはそうだな、その手数料分くらいで、魔法の道具を買わないか」
「何故今頃」と貴族。先に言っておいてほしかったという問いだ。
「軍務省の人間だからな、実は、お礼以外にも、俺は、珍しいものを多数持っているのだ」
「魔法の道具?」
「簡単にいうと武器だ。ライン王国殲滅に利用できるぞ」
「我々はそこまで考えていない」
「そうなのか、俺はてっきり、攻勢に出るのかと思っていた」
「王城が破壊されていても、そう簡単にはいかんさ、何重にも壁があっただろう」
「壁が邪魔なのか?」
「それは邪魔だろう、あの国の壁は相当厄介だぞ」
何重にも囲まれた壁、それを破るためには、相当の出血を覚悟せねばならない。
「まあ、そうなのかもな」男はニヤリと微笑みを浮かべた。
飛び切り、黒い笑みだった。
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