第60話 計算書

060 計算書


ガリガリに痩せた教師二人。人質として隔離されていた2人はあまり良い待遇を受けて居なかったようだ。

「先生!」性質の良い生徒たちが抱き付きに行くが、彼女らは、ひどい有様だった。

男性は暴力を受け、女性は性暴力を受けたことは、見たらわかるレベルである。


そして、生徒たちは、7名が死亡していた。

過酷な訓練だったようだ。

しかし、召喚された瞬間から、隷属の首輪(ギアス)を掛けられており逆らうことが許されなかったそうだ。



「誘拐数32人に対して、3億2千万円の賠償、死亡者7人に対して賠償金1人当たり1億円で7億円プラス諸経費10億円で22億2千万円が要求金額です。

すべて金貨あるいは金塊でいただきたい。ちなみに金1グラムで、5000円とさせていただきます。金塊444Kgとなります。 

後、残虐な仕打ちをされていたので、合計で500Kgの金塊を要求します、さらに全員の解放も条件とさせていただきます」


「そんな馬鹿な!」

「馬鹿は貴様だ、〇〇ポ野郎、この状況を理解していないのか、王の両手は砕けているんだぞ、出血が多いと出血性ショックで死ぬんだぞ」


「早く、払いやがれ!」

誘拐等犯罪に対する損害賠償等の請求権として、金塊500Kg請求します。外務大臣〇〇 〇〇と書かれている。500Kgの部分だけ影野が書いた請求書である。

計算書のその他の部分に追加分56Kg虐待による追加請求分と書かれている。


「支出証拠書類になるからきちんと受け取ってね。金塊を貰ったら、領収書を交付するから」

「さあ、早く金塊をもってこんか!」


「早くするんだ、腕が痛い、早く治療してくれ」

「ああ、でも完全に砕けてるけど治るのかな?」影野冷たく言い放つ。

食いちぎられたわけでもないので、あることはあるのだが、完全に別の何かになっているのだった。


金塊500Kgは即金(この場合は本当に金だが)で払われた。

全員が帰ることに異議は出なかった。

まあ、そりゃそうだろうよ。


そして、練兵場。

巨大な魔法陣が描かれて、その中に簡易棺桶が配置されている。

しかし、ここで問題が発生する。

金塊である。

500Kgの金塊を誰がもって帰るのか。

もともとが、影野のアイテムボックスをあてにしている部分が大きいのだ。

そして、簡易棺桶は人数分用意されている。

7人死亡しているため、SOG隊員がそのうち5つを使用する。

残りは、2つだ。一人60Kgとして金塊は120Kgしか載せられない。

重すぎれば、事故の原因になるかもしれないのである。

かといって、隊員たちの棺桶ははるか彼方の森に隠されている。

取りに戻る選択肢はない。


彼らは直ちにこの場所を離れなければならない。

なぜなら、国王が殲滅命令をもうすぐ出すだろうからだ。

金塊を受け取って、人質を解放せぬなどさすがにこの国ような下種な行為は日本国にはできない。

今、宮廷医たちが必死に治癒魔法をかけていることだろう。


「師父必ず迎えに来ます、それまで金塊をかってに使っちゃだめですよ」

「上杉、もう儂の事は忘れるのだ、儂が帰ればになるのだ、儂は、大丈夫だ、この国如きにやられはせん」

「そのことは、そう思います」

「ならば、」

「それはそれ、これはこれ、必ず日本に帰っていただきます」

「証拠などない、だといっておる」

「であればなおさら、帰還に問題はありませんね」

「ええい、貴様というやつは」あくまでも、上杉はそんな人間だった。


しかし、そうでない人間も勿論いる。

筆頭は北畠である。

この世界から、おさらばすれば、もう、あの男に遠慮することはない。

あることないことを言っておいてやる、必ず有罪になるように。

一番先に助けられ、技も教えてもらったというのに、人間とはいかにも恩知らずな生き物であった。

まあ、北畠にしたところで、このような技を得たいと思っていたかどうかは別問題なのだが。


無くなった手首(今は謎の義手をつけている)が疼く。


「いいですか、みなさん(小僧ども)、私が助けたことを良く覚えておいてください(おけ)、私ですよ(だぞ)、そのことを政府によくよく伝えてくださいね(おけよ)」

影野は高校生たちに訴えかける。


「早く出発してくれよ、俺らは早く帰りたいんだよ、おっさん」と高校生。

人間とは、よくよく、恩知らずな生き物であった。


「まあ、上杉こういう訳だ、迎えに来るなよ」

上杉は無言で敬礼する。

影野は答礼する。


全員が簡易棺桶マーク7に搭乗する。

今回の極大電力の発生源は影野だ。あまりにも理不尽に魔力を吸い込んだため吐き出さないと、爆発する可能が高かった。不安定なバッテリー状態であった。


影野が魔術式に魔力供給を開始する。

彼の姿は徐々に光り始める。

その光が強く、ドンドン強くなっていく。

やがて、それは七色の光に変化していく。


魔法陣が光の柱として立ち昇る。

「極大雷撃(ジゴスパーク)」


バン!という爆発を発して、棺桶が消える。

そして、あまりの魔力負荷により、俺は意識を失った。




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