第59話 謁見の広間

059 謁見の広間


このような茶番が行われているころ、別の場所でも事件は発生していた。


練兵場の騒ぎは、王宮の奥深くまで届くことはない。


「それで、私だけなぜこのような場所に?」ユウコだった。

「儂の側室にしてやろう、喜んでよいぞ、贅沢し放題だ」


そこは、王の寝所である。

決して軽々しく手をだしてよいはずはないのだが、権力に飲まれた男にはそのことに気づくことはない。


「遠慮しておきます、早く返してくださいませんか」ユウコは慌てるそぶりのかけらもない。

「まあ、そういうな、儂の相手をしてくれたら返してやろう。それに、お前がいうことを聞かねば、奴らの命はないかもしれんぞ」


「冗談は、顔だけにしておいてください」

「・・・・・」王は自分が何を言われたのか、理解するまでかなりの時間を要した。

王は、皮肉などいうものは言われることがない。誰でも命が欲しいのだ。


「下郎の分際で!貴様、儂を愚弄するか」

「下郎を手籠めにしようとするのは、下種と呼んでよろしいのでしょうか、それともクズとお呼びすれば」


王の拳は固く握られて、女の顔を襲う。

遠慮のないパンチである。

だが、バシリという音ともに、それは止まった。

ユウコは、そのような遅い拳が何をしようとしているのかすら、わからなかった。


人形になったとはいえ、そもそも体形による性能が制限される程度なので、基本的に同程度の性能が存在する。つまり、金色の死神は、一時弱体化したが、今はそれも命名により復活していた。

「さあ、茶番は終わりにしましょう。先ほどの広間に戻るのです、旦那様が呼んでいます」

「何を、」

「そもそも、クソ弱い人間のしかも能無しの金〇では、良い子孫はつくれない。私は、自分よりも強いものにしかのです」


「絶対殺してやる」王は蒼白の顔から真っ赤になった。

「やってみればよい、山脈の頂上で待っておりますわ」それは、忌まわしい冒険者たちの墓場。

「なんだと!」


その時のユウコの眼は真っ赤に光っていた。

グシャリとリンゴがつぶれるような音がした。

「GYAAAAA~~~」

人間の叫びとも思えない声を王は絞りだした。

自分の右こぶしが、粉々に潰されたのである。


すぐに、扉が開き、兵士が飛び込んでくる。

「砕心掌」それは、掌を心臓の場所に置くだけでよい。

声もなく、倒れる二人の兵士。

即死である。


気を失った王を担ぎ、広間に向かう女。

その姿には、優雅さすら感じられた。



広間では、高校生と自衛隊員が円陣を組んでいる。

それを王国の兵士たちが、槍を構えて抑え込もうとしている。


そこに王を担いだ女がやってくる。

王は王座に座らされる。そして、張り飛ばされる。

周囲の人間は声を失った。

王族への無礼は・・・。


だが、今のこの状況にそんなことを適用できるのか。


影野が王座に近づいていく。

「私に近寄るな」

影野を阻止しようとした兵士が電撃ではじけ飛ぶ。あまりにもエネルギーを吸収しすぎた結果である。

膨大な魔力も自分のものにしなければ、只の危ないバッテリーと同じ。いつ破裂してもおかしくない状態である。


「さあ、これからは、日本国外務省外交官の私が交渉を引き継ごう。早く、宰相を呼び給え」


意識を取り戻した王は、激痛に顔をゆがめる。

右こぶしが完全粉砕骨折状態なのだから仕方ない。

つぶれたトマトの様だと表現した方が近いかもしれない。


「王は、けがをなされておられるようだ、早く宰相をここへ、これから急いで外交交渉をまとめる必要があるのだ」


「早く、こいつらを殺せ、殺せ」王は喚いた。

「その証言は、我々日本国に宣戦布告するということですか」

「貴様、只の冒険者のくせに何を言っている」

「私は、誘拐された子どもたちを救出にきただけです。彼らの住んでいた日本の外務大臣の権限をゆだねられらたものです。冒険者は仮の姿ですので」

外務省の身分証明書を取り出して見せる。


「まず初めに、人質の先生を救出したい、場所はどこか?」

宰相らしき人間が現れたので問いかける。

「王を離せ、すぐに治療しなければ、玉体が」

「黙れ、人質の解放が先だ」


「なんだと、この下郎が」

「じゃかましいわ、この〇〇ポ野郎!」忌まわしい言葉使いであるが、

影野は、人の気の流れで其れがわかるのだ。

不全の実態は、気の流れの異常となって現れる。


「お前ら人の国の人間をさらっておいて、タダで済むと思っているのか!」

「GYAAAAA~~~」さらに王叫ぶが。左手が潰される。

それはユウコ、死神の仕業だ。

「早くしないと、頭がこんなになっても知らんぞ」

それは、恐ろしい交渉術。


ユウコにとってはとてもたやすいことだ。

先ず、眼が笑っていない。マジなのだ。

ユウコにとって、人間などどうでもよい、影野がいうから付き合っているだけだ。

そして、今や死神は、例の拳法などを習っていたりするのでさらに最悪の魔獣?に至ろうとしているのであった。


え?赤い部分を削り取ったはず?

勿論それは、魔獣の凶性を取り去っただけ、本来このように、野性的なのは、野生なので仕方がないところである。基本的に闘争本能を備えているということだ。


「早く、人質ども連れてこい宰相」

王の額には大粒の脂汗が浮いている。





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