第58話 手合わせ

058 手合わせ


まずは、剣術のスキルもち武田が参上する。

彼らの中には、明らかに動揺が広がっていく。

仮面越しでもよくわかる。


明らかに、日本人の顔だからだ。

よくも悪くも、武田は日本人顔である。

中国人などでは、似ているかもしれないが、ここはヨーロッパ風の世界、白人種、金髪、赤毛、茶色毛が普通なのだ。黒目黒髪は珍しいのだ。


「征け、戦士たちよ」

彼らの上官が命じる。

仮面の数名が前に出る。

抜剣する。それは、練習用の剣ではなかった。

そして、こちらには、刃をつぶした剣が・・・。


彼らはすでに抹殺体制に入っていたのである。

「ちょっとまて、それは真剣だろう」さすがの武田も抗議の声を挙げる。

「手合わせを所望したのはそちらだ、この国では、手合わせは真剣にて行うのが流儀」

と隊長が何事もなく言い放つ。

此方の剣の刃を潰すしておくのも流儀なのであろう。


しかも、三人も出てきている。

1対3が流儀なのだろう。

何とも卑怯な国である。


「頑張れ~!武田~!」

それは日本語だった。動揺がさらに広がる。日本語を使う人間がいたのだから。

「ちょっと、師父こんなのありませんよ!」

「大丈夫、この国の流儀らしいから従わねばならんぞ」抗議の異議を申し立てる武田に、無責任な発言。

彼の無責任は今に始まったことではない。


ついに、三人の仮面兵士が武田に襲いかかる。

なかなかの動きである。

これなら、暗殺程度の仕事はできるかもしれない。

武田は素早く躱す。

白熊はこの程度ではないのだから当たり前である。


武田が、合気道を駆使して、相手を投げて関節を極める。

しかし、別の二人が襲い掛かる。


「死んでくれ!」泣きながら仮面が襲い掛かる。

彼らも嫌々従わさせられているのであろう。

だからといって、死んでやる訳にもいかない。

武田は逃げ回る。


「囲め」近衛隊が、俺たちを大規模に囲む。

逃げられないようにするためである。

「我が国の秘密を探る者を生かして返す訳にはいかんぞ」

そう、すでに決定はなされていたのだ。

たとえ優秀な冒険者といえども、怪しげな奴は処分しなければならない。

情報が洩れれば、奇襲作戦がうまくいかないではないか。


「征け!勇者よ」

そしてその声に反応して一人の少年が前に出る。

「私がお相手しよう」影野は、前にでる。

「他の奴らも皆消せ!」

とんでもない奴らだな。


「日本に連れ帰ろう、剣を置け」

「できません、先生が人質に、それにギアスが」

「ならば、私が貴様の剣を叩き折る」

「逃げてください、殺してしまう」


勇者の装備はほかの召喚者とは明らかに格が違う。

国宝級の武装をしているのであろう。

煌めく宝剣が抜かれる。怪しく煌めく宝剣。

「早く!」

「いざ!」


電撃の突き!剣尖だけが残像のように残る、刺突。

最初の一撃でオーバーキル。

10人を突き刺すことができるはずの動き。

しかし、手ごたえは全くない。

相手も残像をのこして躱していたのである。


「勇者剣法!」

流れるような斬撃が舞のように襲い来る、見ている者たちにため息をつかせるような美しい動き、その一つ一つが、人間を両断していくはずの剣戟。

だが、相手も同じように舞いがら躱していく。


勇者補正で圧倒的アドバンテージをもっているはずなのに、相手はたやすく併せてくる。


「全員で掛かれ!」

隊長は勇者が簡単に処理するとおもっていたのだが、それがかなわなかった。

全員による攻勢を命じたのである。


しかし、影野はそれを待っていたのである。

この練兵場に、すべて高校生たちがでてくるのを。


黒洞九星大法ブラックバーストナインスターズ!」

影野は勇者の手首をつかむ。

「なんだ!」勇者を信じられない感覚が襲う。何かが急速に吸い取られるような感覚で瞬く間に、意識を失う。


影野は意識を失った勇者の首飾りをつかむ。黒い稲妻が発生するが、それを引きちぎる。

彼にとっては、そのようなギアスなどその程度の力しか持たないのである。

影野は、縮地法を駆使して残像を残しながら、戦士たちを倒していく。


恐るべき黒洞ヘイドン九星大法、これは、最も忌むべき技術である。

(黒洞(ヘイドン)とはブラックホールのこと)

多くの達人たちが、修行により、功夫を積み重ねていくのだが、この技は、強制的にそれを吸い取るという非常に悪質な技なのであった。


所謂、邪法の類である。

この術は、功夫でも魔力でも同様に吸い取る悪質な技である。

そして、勇者たちは、まんまとその手に掛かったのである。


「己!冒険者ごときが!」

ついに、近衛隊長が抜剣して怒鳴る。


隊長が、影野に突進して切りかかる。

だが、その剣に、影野の手が撃ち合わされると、パキ~ンと折れ飛んだ。

両側から力を込められて、折られてたのである。


「破剣式」まさに、達人以上の技を振るう影野。

彼こそが鉄掌党第27代掌門である。


さすがに、映像に撮られているとわかっているのに、殺人技の砕心掌を使いまくるのはためらわれたのである。


それからは一方的だった。

恐るべき九星大法により、有りったけの魔力を吸い尽くされるのだ。

次々とグニャリと倒される近衛兵たち。


その真の恐ろしさを彼らはのちに知ることになる。





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