第57話 儀式

057 儀式


彼らは、名誉騎士爵を与えられる予定であった。

名誉とは、普通の騎士ではないという意味だ。


騎士にしてやってもよい。という話が合ったのだが、断ったのである。

彼らには、すでに仕えている国がある。

いや、仕えさせられているといった方が正しいのか。


そして、そんなことはどうでもよかったのである。

彼らは、騎士に叙任されたいわけではないのだ。

王城に入る理由が欲しかっただけなのだ。

交渉に入りたいだけなのだった。


謁見の間。

名誉騎士爵叙任ということで、貴族や文官(法衣貴族)たちが並び、興味半分で立っている。

上座の方には、近衛部隊が林立している。

勿論不逞の輩が出た場合に取り押さえるための騎士たちである。

そして、不逞の輩たちが入場してくる。

武器は完全にチェックされ取り上げられている。

だが、考えても見てほしい。そもそも、熊と素手で戦うもの達に武器がいるのだろうかと。


「陛下御入来!」ゾロゾロと陛下たちが上座方面の扉から現れる。

「この度は、金色の死神を討伐したという汝らを、騎士爵に叙任する」

「おう~~~」どよめきが広間に広がる。

金色の死神はすでに、宿敵が如きものであった。


だがしかし、それはこの場にいたりするのだが・・・。


あくまでもしたことになっているだけなのだ。

そして、今、死神は、新しい殺人技を誰よりも早く覚えている途中であった。


ここでは、雪豹の皮の話は一切出ない。雪豹の皮を献納することにより叙勲が行われることになったのである。

そして、今一番の貴族の間でホットな話題は、雪豹の皮の敷物、飾りをどのようにして手に入れるかである。


「面を上げよ」

片膝をついた状態から解放される。

王の眼は、ユウコに向けられた。

怖ろしく美しいユウコ、日本でいえば、女優かアイドルになれるほど美しい。

勿論、宮廷の貴族の妻や娘も見目麗しいものが何人もいる。

しかし、放射されるオーラが違うのだった。


ある意味、すごみのあるオーラだった。

忘れられないほど際立っているのも仕方がない。

物事を突き詰めた者には独特のオーラが宿る。

そして、ユウコもある意味そういう物体ではあった。


「一つ聞こう、騎士爵以外で何か望むか」

それは、シナリオ通りだった。王が寛容を示すための問である。

勿論、いいえありませんと答えるべきところである。


「恐れながら、一つございます」

影のように後ろに控えていた男が口をはさむ。

そのような科白せりふはシナリオには勿論無かった。


「なんだ」王は蟀谷こめかみをピクピクさせている。

皆が、いいえ何もございません。と答えるシナリオなのだ。


「我ら武辺者は、武術こそが全てでございます。近ごろ王国では、大変に強い兵士たちを召し抱えたと聞き及びました。後学のため一手御指南願いたいと存じます」


「控えよ!」

大臣が声をついに上げる。

だが、王には案外この願いは受け入れやすいものであった。

何故なら、異世界召喚者たちの実力がいかなるものか試したかったのである。

この国の騎士ではすでに、太刀打ちできないほどには仕上がっていたのである。

後は、ダンジョンで調整し、人を殺すことに抵抗がなくなるよう、訓練するだけだ。

そして、この勇者部隊は、敵国で暴れ壊滅的な被害を発生させてくれるであろう。


案外、良い実験をすることができるのではないか。と考えたのである。


「よかろう、ただし、彼らは秘中の秘の部隊、他言は無用ぞ」

「陛下!」大臣が止めに入るが、王はそれを制した。


妙なことを言うようなら、抹殺せよ!王の眼光が、近衛隊長に向く。

近衛隊長が王の意向を素早くくみ取る。


叙勲の儀式は行われず、ベアハンターたちは、練兵場に連れていかれる。

その練兵場にいるのは、限られた貴族だけになる。

秘匿戦力のため、有象無象が入ることは許されない。

そして、現場を知ってしまう、ベアハンターの命も風前の灯であった。

そのことを知っているのは、影野と上杉、武田。


「ヤバいですよ、下手をすると皆殺しにされますよ」

「上杉君、異世界での交渉とは常にこんな感じなんですよ、そこを伝えてくださいね」

「わざとなんですか」

「どうやって、秘匿されている召喚者に会うつもりだったんですか」と影野。

「しかし、王を挑発したらいかんでしょう」と上杉。


「弟子たちの実力を測るよい機会だ」

「え、俺たちなんですか」

「逝ってこい」

字が間違っている。


ゾロゾロと近ごろ召し抱えられた兵士たちが現れる。

仮面をつけさせられている。仮面兵団であった。

しかし、皆例外なく首に何かを捲いている。


なるほど、ギアスを掛けられているらしい。

そもそも、勇者は強大になる。そこで、その支配権を手に入れておく方法が必要なのである。

例えば、きれいなお姉さんをあてがうとか、お兄さんでもいいだろう。

このようにして、相手の弱みを握る方法。

だが、それもいずれは破綻する。

自分で手に入れれば問題ないことにやがて気づくからだ。


そこで、最もメジャーな方法は、誓約を課すのである、盟約の呪いであったり、魔法契約であったりと。

件の起請文もその類である。

彼らは、魔道具により自由を制約されているのであろう。


この時点で、この国は下種な国と判定される。

しかし、前回はここで暴れてしまったので、10億円を不意にしたのである。

上手くやれよ!俺!


影野は、冷酷な笑みを浮かべていた。



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