第56話 取引

056 取引


王国ギルド本部。

上杉は召喚され、事情聴取されている。

彼らの戦った金熊との流れを何度もきかれる羽目になった。

そして、金熊は最後に断崖絶壁から身を投げたのである。


師父「面倒だから、うえすぎに一任する」

上杉「そんな、あまりにも酷いです」

師父「雪豹の皮が一枚、二枚、・・・一枚足りない!」

上杉「わかりました、万難を排し、私が説明してきましょう」

師父「さすがは、一番弟子じゃな」


こうして、上杉は偽話を完全に本当のこととして語り続けたのである。

そして、金色の死神はでは死亡したことになった。


誰も死んだとは言っていない。

身を投げただけなのだ。全盛期の金熊ならば、200m落下しても生きて居そうなのだがな。


恐らく、もう金熊はでてこまい。

なぜなら、熊は人型に成りすましていたからだ。

だが殺人鬼ならば現れるかもしれない。しかも、さらに手に負えないくらい強くなって。


「是非とも、S級冒険者に昇格させてもらいたい」北部ギルド長は熱心に進めてくる。

「師父は、それは必要ないと仰せです」

「何故ですか」

「それは言えません」

異世界転移者がいつまでも冒険者をやっている、うま味がないからですとも言いづらい。

「それよりも、王城で何か褒賞などはいただけないのでしょうか」

「それは、非常に難しい」

「雪豹の皮を王家に献上するとか何とか」

「まだ、あるのですか」

「勿論です」

「打診してみましょう、騎士爵程度ならいただけるもしれない。騎士爵は、王が授ける決まりとなっています」

「それは大変師父が喜ぶでしょう」攻防は続く。

「では、残りの白熊はこちらに卸していただきたい」

「わかりました」

こうして、上杉はようやく取引をまとめ上げたのである。


それから数か月が過ぎた。

さすがに王城にそんなに簡単にいけるはずもない。

その間に、白熊、雪豹の皮、謝礼等の配当があった。

白熊は一頭500万円(金貨50枚)豹の皮は一枚1000万円(金貨100枚)

謝礼、6億円。謝礼が非常大きな理由は、多くの冒険者の犠牲があったからである。


その数200名以上。優秀な冒険者でなければ、白熊(当時はまだ白かった)討伐には行けない。当然財産も、多くもっていたのである

白熊は50体以上、雪豹は20体である。

締めて10億5千万円となった。

影野、SOG隊員5名6人で等分されることになる。


隊員は一人当たり1億5千万円を手にいれ、残り部分は師父たる影野(3億円)が取ることになった。

「どうだ、異世界はいいところだろう」

良い訳がない。そのような大金を得ても使うところがない。

精々、女を買いにいく、酒を飲むくらいが関の山だ。


「里心がでたか」

それだけの金があれば、日本でよいくらしができるのだから当たり前だろう。


「だが、用心しろよ、この金は雑所得、君らは公務員だ、確定申告せねばならない」

自分は10億円という闇の手当をもらって、優雅に暮らそうとした男には見えない発言だ。


だが、この言葉は、彼らを心配しての言葉でもある。

このうちの誰かが、密告でもしてみろ、直ちに、税務調査の対象になってしまう。

下手をすれば、不申告加算税・重加算税まで載せられる可能性すらあるのだ。


上杉、武田は、師父が明らかに皆を信用していないということを悟る。


・・・・・

そんなこんなで、ついに、王城へと出頭する日がやってきた。

季節は春、すでにアブダクト事件から一年以上が経過していた。


冬の間は、訓練は行われていない。

雪が深いためだ。

それは、影野自ら、王城に忍び込んで確認していた。

そして、アブダクティッドの存在も確認したいたのである。


この春から彼らは、とある街の近くにあるダンジョンで最終訓練を行う予定になっていた。


その訓練開始までに、この騎士叙爵の式典を準備してもらっていたのである。


きっと影野らを紹介した北部ギルド長の首が飛ぶだろう。

物理的に飛ぶかもしれない。

しかし、この機を逃しては交渉などできるはずもない。


だが、交渉自体は、上杉に一任されている。

いかに大変かということを体験してもらうためである。


そもそも、交渉にすらならないのではないか。

日本の論理が通じるような相手が、この中世ヨーロッパ風の封建世界であるとは思えない。


そして、今この現代ですら、日本の論理は世界に通用してはいないのだ。

東洋の小さな島国の黄色い小さな〇人がなにか言っているくらいにしかとらえてくれないのではなかったか。あるいは、文句を言わずに金を出しておけとか。


着飾ったユウコは非常に美しかった。

それこそ、貴婦人のように見えた。

それ以外の男達は、非常に鍛え抜かれた体型と風貌をしていた。

正に歴戦の戦士の風格がしている。まさに歴戦を経てきたからだ。


影野はどこかから取り出した、非常に高価そうな西洋鎧姿である。

他の日本人は、上品な偽貴族のような格好である。

金だけは一杯あったので、服装をあつらえたのである。




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