第55話 査定

055 査定


なかなか、話が進まない。

全てを、戦うことだけに集中してきたせいか、人間と話していることすら面倒になってくる。


まずは、白熊を何頭か出してみる。

それで倉庫は、半分が埋まったのである。

狭いのである。

北部ギルドは、もともと大きくない。

昔は大きかったのだが・・・。


雪豹の毛皮、これは村人がなめしてくれているので何枚かを出す。

これで、クールビューティー氏が固まる。


冒険者証の話は、ギルド長が直接聞くことになるが、王国ギルド本部に出頭せよとの話に発展してしまう。

結局、査定もなかなか進まず、シャドウ氏は疲れて、退出。

そもそも、あまりやる気のない人間なのだ。


「弟子よ、儂は、熊子ゆうこに服でも買ってやろうと思う。頼んだぞ」

「はい、師父調整しておきます」上杉は真面目なのだ。

クールビューティー氏は初めて、上杉がシャドウなる冒険者の弟子であることを知った。


「上杉、豹の毛皮一枚もやれば、落ちるぞ」

影野が、上杉に耳打ちする。

「私には、嫁も子もおります」

「ははは、旅の恥は搔き捨てというではないか」

「御冗談を」


ギルドをでた男と熊。

「一体、何人殺したんだよ」

「あなた、そのことについては、正当防衛を主張しますわ」

名付けの際、エネルギーを吸い取られたときに、影野の知識も飲み込んだようで変な言葉を覚えたようである。

「あなたって、」

の方がよくて」初めの部分だけアニメ声だった。

「いや、いまのままで問題ない」


問題は、熊子の出自になった。

何故、峠で行き倒れたのか、どこの国の人間なのか。

上杉も知らない。おそらく、あれは金熊だろうとは考えていた。

「彼女はあまりの恐怖のために記憶をなくしているのです。因みに保護した時には、けがをしており、所持品はもっていませんでした。きっと魔獣に襲われたときに失ったのだろうと推測されます」上杉も師匠からの薫陶のお蔭で平気でうそをつくことができるようになったのだろう。


ギルドとしても、へそを曲げられて、売らないといわれるとまずいので、それでよしとした。

それだけ、雪熊と雪豹は貴重な代物だった。

ギルドの勢力を大きく盛り返す程度のインパクトはあるはずだった。


そして、金熊の段に話が進む。

冒険者証は、明らかに、かなり以前のものであり、名前からは、かつて、金熊討伐に向かったもの達が多いことがわかったのである。

当然、金熊の去就が重大事なのである。


「激闘でした、しかし、師父ああ、冒険者シャドウ様の一撃が金熊を捕らえました。」

「金熊の死体はあるのかね」

「残念ながら、金熊は、最後の力を振り絞り、谷に身を投げたのです」

必死に作り話を考えながら、上杉が熱く語る。

本当は、討ち取った熊に何かするために、解散させられて、自分の知らないところで何かが行なわれた。とも言えない。

その後、なぜかユウコという女が現れたのである。とも言えない。

どう考えても、アレしかない。金熊はアレに違いない。とも言えない。


だが、命を賭けた戦い事態は嘘でも何でもないので非常に真実味があった。

それに、金熊を殺さねば、熊の居場所から冒険者証などの遺物をもってこれるはずもない。

この戦いはすでに半世紀にもわたり続けられた死闘なのである。

この四半世紀は行われることが無かったが。


「これで、ようやく行路安全が確保される」ギルド長は感涙に咽び泣いている。

「それで、現実の話ですが、謝礼はでるのでしょうか」と守銭奴の弟子の上杉が問う。

「勿論だ、ギルドに保管されているものの20%が謝礼として払われる。それに、家族からもお礼がくるかのしれない」

行方不明の場合、ギルドの金庫に保管されているものは、そのまま保管されてしまう。

数年たち、帰る見込みのないものには、現金20%を差し引いた部分を遺族に引き渡す。

所謂、失踪宣告の制度のようなものである。

多くのものが、20%の遺留財産を預けられていた。

家族のないものは、100%が預けられたままであり、それはすべて謝礼として受け取れるという。


「これで、金にうるさい師父もおちついてくれるに違いない」上杉も一安心した。


「それにしても、死神を倒し、他の白熊の5頭も倒すとはすごいな」とギルド長。

「ああ、まだ師父のボックスの中には、熊がまだまだ入っていますよ」

彼らは、峠を越えて、反対側斜面でも熊狩りを行ったのである。


「絶対うちにおろしてくれるように頼んでくれ」

「師父にそういっておきますよ」

あんたら、査定遅いから師父が出て行ってしまったんでしょうが。


上杉もなれぬ交渉をさせられて、フラストレーションがたまっていた。


その時、クールビューティー氏と目があった。


『旅の恥は搔き捨てというではないか』


そのころ、服を買っているはずの男女?はギルドの練習場に居た。

「あなた、私、あの剣法というものを教えてほしいのですけれど」

一体、熊がどうしてこのような気取ったしゃべり方をするのだろうか。


「キン〇マばかりいっていたあの少女がな」

「昔のことは忘れてしまいましたわ」


ユウコから尋常ならざる闘気が立ち昇る。

さすがに、元金熊である。

「覚えてどうする」

「勿論、あなたのお役に立つために使いますわ」

ただでさえ、前科2百犯(主に殺人、ユウコ曰く正当防衛)くらいの超大者にこのような殺人技を教えてよいものなのか?

タラリと脂汗が伝う。


「まあ、旅の恥は搔き捨てというからな」あっけなく影野は決めた。

そもそも、この世界では異物の自分なのだ。

あまり、深く考えるのはやめよう。

そう彼は、思考を放棄したのだった。



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