第54話 季節外れの来訪者

054 季節外れの来訪者


王都は、外壁により幾重にも防御されている。

その理由は、外国からの攻撃を防ぐためもあるのだが、異世界特有の理由も存在する。

スタンピードである。魔物が突如として大発生して襲い来るのだ。

理由は不明である。


(しかし、俺にはその理由がわかる。)

(それは、作者の勝手な都合である。)

(その方が何かとドラマを産むからだ。)


そのため、防御は何にもまして重要となるのだ。

王都北部ギルド。王都は広いので、冒険者ギルドは東西南北に存在する。

門も東西南北に配置されている。


北部ギルドは、冬の期間が開店休業になる性質があった。

王都の北には、山脈が存在し、交通が不可能になるのだから当然客が来ない。

そして、山脈は雪が深いので狩りにでる者たちも少ない。


だが、驚くべき一報がもたらされる。

北門に、A級冒険者チーム『ベアハンター』がやってきたのだという。

真冬に山脈を越えることは不可能なのだ。

何故、そんなところに冒険者がやってきたのだろうか。

これは、まさに不吉な何かが起こりつつあるのでないか。

ギルド長などは、スタンピードを想い起こしていた。


全身を白熊の毛皮のコートで包まれた彼らは、次の日にギルドを訪れた。

買い取りを要求しているらしい。

白熊の毛皮を全員で来ていること自体異常なことだった。

熊は非常に危険な魔獣である。

しかし、白熊はもっと危険な魔獣であった。

そもそも、雪の中でしか戦えないので、圧倒的に冒険者側が不利になる。


「よく情報を取っておけ」ギルド長は、買い取り担当に声をかけておく。

ギルドでは、美しい娘が採用される傾向が強い、彼女らもえりすぐりの美女であった。

「白熊を買い取ってほしいのだが、どうだ」上杉が対応する。

これらは、弟子の仕事なのだ。

「ようこそ、冒険者様、白熊はどちらに」

そういえば、規格の人間が収納ボックスに収めていた。

「ああ、そうだな、収納ボックスに入っている」

「では、倉庫の方でお願いします、ところでどのように山脈を越えられたのですか」

「普通に歩いてきたが」

「・・・そうなんですね」

「そういえば、山脈越えの入り口の村はどうでしたか」

「ああ、その村では歓迎されたな、この季節には冒険者が来ないといっていた。魔獣に苦しんでいたぞ、ぜひとも定期的に冒険者を派遣してほしいらしい」


「それよりも、このユウコに冒険者証を発効してほしいのだが」

上杉よりも若い男が話に割り込んでくる。

「どうされたのですか」

「ああ、峠で行き倒れていたところを私が助けたのだ」と影野。

この季節に峠で行き倒れれば、春ごろに凍った死体が見つかるだけなのですが?

「そうなのですか」

「そうなのだ」

「それでは、担当をお呼びしますのでしばらくお待ちください」

「師父、ボックスは師父がもっているのですよ、後でされてはどうですか」と上杉。

「ああ、そういえばそうかもしれん」と影野。


こうして、上杉とシャドウとユウコは倉庫に向かう。

「ところで、ここらでは、白熊は高く売れるのか?」

シャドウは突っ込みを入れる。

「はい、ただ、売りに来られる方はほぼいませんが」

「そうなのか、結構な数の白熊をみたのだが」

倒せる冒険者がいないんだよ!

「そうなのですね」と受付嬢はいなす。

「高く売れそうで、何よりだ」

「精一杯頑張らせていただきます」

それより、そのコートを売ってくれませんか。

クールビューティーの心中にはこのような思念が渦巻いていた。


「ところで、白熊以外に、雪豹の毛皮があるのだが、売れるか」もちろん売れるだろうが、高く買い取ってもらいたいのでそのような質問をしたのである。

「ええ?」

そんな珍しいものを持っているならなぜ先に言わないの!

「勿論、買い取り対象です」

私が買い取りたいのですが・・・。

声にならない闘争は続く。


雪豹は、山脈のまたも雪のある場所にしか存在しない。

雪のない場所では、普通のヒョウ柄に戻るのだ。

雪上種のみがモノトーン柄になり、非常に希少な存在となる。

普通のヒョウ柄でも結構な価値はあるが、雪豹は狩れる人間が非常に限られる。

やっぱり、山脈の雪上戦をこなさないと無理なのである。

しかも、雪豹は大変素早く、勝てないとみるとさっさと逃げてしまうのだ。


「ところでな、」

先ほどからこの若い男が次々と腰を折りにくる。

面倒な奴!

「何でしょうか」クールビューティー氏は、少し頭にきながらも冷静に返す。

「死んだ冒険者証を多数発見したのだが、謝礼はでるのだろうか」

「なんですって!」


今まで多くの冒険者が山脈方面に派遣された過去があった。

しかし、ある指定魔獣討伐の冒険者たちは決して帰ることはなかったという。

それは、彼女が生まれる以前から頻繁に行われていた行事である。

彼女が大きくなるころには、無謀な計画として封印されてしまったため、彼女が依頼をだしたものを見たことが無い。だが、かつて無謀な作戦として悪名が残った。


指定魔獣とは、金熊であることは疑いなかった。

決してキン〇マではない。

指定魔獣 白熊の上位種、別名『金色の死神』である。


多くの冒険者が長い歴史の中で、返り討ちに会ってきたのである。

有名、無名の散って逝った戦士たちに敬礼!

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