第52話 熊子(ゆうこ)

052 熊子(ゆうこ)


全裸の少女が入ってくる。

はて、一体何の罠だろう。

これは、美人局か何かなのだろう。

きっと、青少年健全育成条例違反で訴えられたくなければ、金を払えとかいう、賊がいるに違いない。

「まま、えさ」

まさか、俺を食べるつもりなのか?


勿論そんなことはない。

これはおそらく、人化だ。永く生きた魔獣などが知性を持つと、人化したりするという。

なんとなくだが、テイムした魔獣とはつながりが存在するらしいがそれを感じる。

「お前は、金熊か」

「キンクマ?」コテッと首を傾ける少女。

「キン〇マないよ」


いやいや、そういう会話は欲していないのだが。


どうやら、今まで全く気にしていなかったが、金熊は雌だったようだ。

しかし、困ったな、テイム実験は成功したが、この状況をどのように解決すればよいのだろうか。


「金熊よ」

「キン〇マ」


こいつわざとやっているのか。

とにかく、眼のやり場に困る。そうだ、インナー類は、アイテムボックスに入っている。

ようやく、冷静さを取り戻し、着れそうな衣服、主に戦闘系だがを出して着せる。


「さて、金熊よ」何とか全裸金熊から救出された俺は熊を見据える。

「キン〇マ」


だから違うといっているだろうが!

お前ちょっと美人だからといって俺を舐めているのか!


「キン〇マ」

「ええい、それは貴様の名前ではない!」

可愛い口から出てはいけないフレーズが連発されて、俺は激しく動揺した。


そうだな、熊の子で熊子。

そのままだな、では、熊子でユウコにしよう。

「お前の名前は、ユウコだ」

その時、強烈な光が発生する。


しまった!


異世界の常識では、名付けとは、自分の力の一部を授けることと同義である。

故に、簡単に行うことではない。(人間は除く)

そして、魔獣はネームドモンスターへと昇格する。

かなり危険な行為と言わざるを得ないのだ。


急激な脱力現象。

俺の力が、ユウコに吸い込まれていく。

伊達に長命な魔獣ではなかった。

怖ろしいほどのエネルギーを吸い取られていく。


謀ったな!熊子。


俺は、意識を失った。


・・・・・・・・


心地よい寝床で目が醒める。

目の前には、美女の豊満な谷間が存在し、けだるい心地よさが体に残っている。


美女が目を覚まし、こちらを見つめてくる。

???


なんだこの展開は、誰だこの人?

???


見慣れぬ天井は、明らかに洞窟のそれだった。

何が起こった!

「とてもよかったわ」

うん?

こいつは何を言っている。


全ての記憶が無かった。

「ユウコ!」

「何、あなた」美女がしなだれかかってくる。


そこには、キン〇マといっていた少女の面影はなく、完全に成体の美女が存在していた。

魔力を吸われて、記憶を失った俺には、一体何が起こったのだろう。


俺も彼女も全裸だった。

冷や汗が流れる。

不味い、何をされた俺。・・・・


まさか、まさか、

立ち上がる俺、しかし、その不吉な予感は、当たっているようにしか思えなかった。

何だか、後が残っている。


「ユウコ!」

「はいはい、あなたどうしたの」

何故に、人語を発しているのだ。

それは、勿論、影野とのテイムのパスがつながっているからだ。

そして、魔力が、分割されて、熊ユウコに流れていたからだ。

さらに、それで何かを勉強した熊が何かを行ったのに違い無かった。


だが、そのような過去の事を考えても仕方がない。

さあ、帰るとするか。

都合の悪いことはすべて忘れる。

影野の精神構造は、合理的だ。


「ところで、ユウコ。お前はどうする」

「勿論、御一緒しますよ」らしい。

「この、素晴らしい洞窟はどうするのだ」

この洞窟には魔晶石がいたるところに生えており、魔物にとっては垂涎の場所である。

「いい魔晶石は、あなたがもって行ってくれるかしら」

かくして、俺は、魔晶石の採掘にいそしむことになる。

金髪の美女熊子はそれを眺めていた。いや、あんた手伝いなさいよ。


彼女の人化は完全でなく、白熊耳と尻尾が生えている。

後は、金髪碧眼の美女であった。

名前は『熊子(ユウコ)』だったが。


一日かけて、洞窟内の清掃を行う。

魔晶石は金になる、人間である以上、金は必要だ。

熊には要らなくても。

その夜、当然のように求められ、相手をさせられる。

どうも、子孫繁栄の宿敵にされた模様。

容赦ない攻撃を何とか、頑身功で跳ね返す。

さすが、我が息子よ。誇ってよいぞ。


そんなこんなで、村に3日後に帰還する。

身長180越えの金髪美人は村で異彩を放つ。

「師父!彼女はなんでしょうか」

「うむ、熊をテイムしていたら、熊の餌にされかかっていた人間がいたので連れて帰ってきた」

「本当なのですか」

「無論だ」

山を降りるのころには、尻尾と耳は隠れるようになった。


上杉よ、人が良いにもほどがあるぞ。

そんな馬鹿な話を簡単に真に受けるな。


しかし、村人も含めて、魔獣の人化について知らなかったのである。

さすがに、そのような経験をしたこともないので仕方がないのか。


山の頂に巣くう、金熊です。とは言いにくかった。

熊子曰く、自ら人間を襲ったことはないとのことだった。襲ってきたので、降りかかる火の粉は払わなければならなかったそうだ。


いや、俺は襲われたわけだが。

それに、関係のない人間など何人死のうが俺の知ったことではない。



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