第51話 金熊
051 金熊
意識を失った金熊が意識を取り戻す。
体力が、回復してきたのであろう。
魔獣の特徴は、とにかく狂暴ということである。
真っ赤に燃えるような瞳がその象徴である。
知性が制限されているのか、意思疎通ができない。
会えば必ず死闘を展開しなければならないのである。
そこが、動物との決定的な差となる。
馴れることが無いのだ。
しかし、世界には、不可能を可能にするもの達がいる。
それがテイマーと呼ばれる職業の者たちである。
コミュニケーション不可能な魔物も彼らとはだけは、疎通できるようなのだ。
彼らは、魔物を馴致し、己が目的のために魔物を行使することができるという稀有な人々である。
金熊、今は、魔石を除かれて、金色に光ることを辞めている。
今はただの大きな白熊である。
眼を開く。
そこには、真っ赤な光は存在しなかった。
第1段階はクリアしたようだ。
白霊の魔石は、なんらかの作用で、魔獣を馴致する作用があるならばと、高純度魔石を錬成し、心臓の魔石と入れ替えたのである。
通常の魔物であれば、その際に死ぬであろう荒業をこの元金熊は類まれな生命力で乗り切った。奇跡の個体であった。
幸いにして、魔石の錬成時に、発せられた魔力は、影野のものであったため、その魔石がもつ影野が、金熊と同調した。
熊は、ほとんど記憶を喪失し、赤子くらいまで退行していた。
そして、自分の魔石の発する波動と同じ波動を発する、影野を母親だと思い込むことになる。
巨大な姿だが、幼児退行して、影野に甘え始める。
「どうやら成功したようだな」影野はそういうが、本当にそれが成功したかどうかは、甚だ疑問だった。
先ず魔石の大きさが純度を追求した分、小さくなったので、出力不足であった。
簡単にいうと、完全に幼児退行を果たしたということである。
250年のサバイバルの中で培った強さを失ったということだ。
小熊のような巨大熊が、影野にじゃれついていた。
「よ~し、よ~し」かつての〇〇五郎さんのように、熊をあやす影野。
「魔獣の熊はね、本当は人懐こいんですね」嘘である。
魔獣の熊が人になつくことはなく、人を殺傷するしかしない。
その後、しっかりと捕食するのである。そして、人間の味を覚えた個体は、人間を餌だと考えるようになるのである。
しかし、魔石を入れ替えられた熊は、本当に懐いていた。
自分の死を助けてくれた恩人であると考えていたのかもしれない。
それとも、母親と勘違いしているのかもしれない。
全盛期の力は、抜き取られた魔石にしか残っていない。
割と大きな魔石である。
影野、魔獣のテイムがうまくいかなかったことを悟る。
全然、力が落ちてしまったからだ。
理由は明白で、魔石を交換したからである。白霊の調合魔石と金熊の魔石は大きさが違った。
魔石をよく見ると、青い魔石の中に、赤い層が混じりこんでいる。
鑑定をかけてよく見ていく、どうやら、赤い層が魔獣の憎悪の部分の様だった。
影野は、錬成技を駆使して、その赤い部分をはぎ取っていく。
彼は、錬金術すら、自分の技術として使うことができた。
得意分野に限定はされるが。
赤い部分をはぎ取った魔石は半分程度の大きさになってしまう。
逆に赤い玉ができてしまう。
青い玉をもっていると、じゃれついてくる熊が、それに噛みついた。
「いかん!」
しかし、もともとは自分の魔石である。
遠慮なく飲み込んでしまう。
彼ら魔獣は、魔石を遠慮なく飲み込む。
自分の力を増すことを知っているからである。
本能的行為である。
倒した魔獣の魔石を必ず飲み込むということだ。
影野がそのような本能をしるはずもない。
巨大熊の魔力レベルが急激に上昇する。
そうなることを知っているから、魔石を食べるのである。
魔晶石の場合はそのようなことはない。
その魔晶石の発する魔力を体内に蓄積しようとするのである。
所謂、これが魔獣の本能でもある。
出力が上がり、金色の光を発光するようになる。
これが金熊の正体である。
「駄目だぞ、そんなことでは目立つ。むしろ己の力を隠し、必要な時にこそ全力を出すのだ」
熊を撫でながら、諭してやる。
熊は、巨大な舌で俺を舐めてくる。
そういう意味ではテイムは成功したのであろう。
まあ、赤い玉を食わせればきっともとに戻ってしまうのだろうが。
赤い玉はアイテムボックスの奥底に封じたのであった。
こうして俺は、テイム?した熊に寄りかかり、眠った。
また一つ、異世界で行うべき事をクリアしたのである。
だが、テイムした熊とはお別れだ。
金熊はこの周辺では相当に有名なはずだった。主に悪名という意味で。
それを連れ歩けるわけもない。
朝起きると、熊はいなかった。
きっと餌でも食べに行ったに違いない。
魔力がかなり減った分を補おうとする本能が食欲に転換されるのだろう。
俺は、金熊の集めたコレクションから、金貨や武器などを選んでいた。
これらは、熊に必要なものではない。
さすがに、金貨である、いつまでもさびないのだ。
そして、錆びていない武器や鎧。
これは名のあるものに違いなく、売ればそれなりの金になるに違いない。
後は、冒険者証。これは、ギルドにもって帰れば謝礼が出る。
戦死報告となるである。
「まま」
その時洞窟の入り口から声がかかる。
ママ?
さすがに、探してしまう。
しかし、俺以外いない。しかも、一体あんた誰、ほぼ全裸の少女が朝の光を受けて立っていた。そういう意味では、すべてが見えていない。アニメ番組のように肝心なところに光を入れないでほしいものだな。
場違いな考え口にしないだけの分別はあった影野だった。
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