第43話 旅程

043 旅程


「弟子たちよ、旅程はこの通りだ。」

国境の街の宿で地図(とても簡易)を開く影野。

指をさす街街、なぜか遠回りである。

直線的に首都に向かうことが可能なのだが、それは大きく迂回した経路。

「師父、早く首都に向かわないと、生徒たちが・・・」

「しかしな、弟子たちの修行もまた非常に重要なのだ。考えてもみよ、名もなき冒険者が王に会えると思うのか」


「それは、交渉すればなんとか」

「馬鹿者、そのようなことができるはずがあるまい。お前日本国首相に、アポを取れるのか?たかが一自衛官が会えるとでも思うのか」


その通り、だから前回はかなり強引な手法であった。

国家元首に会うには、それなりの肩書と理由が必要となるのだ。


勿論、影野の力をもってすれば会える。

王城の門を破壊し、王宮に無理やり侵入して。

後々大きな問題を残すことになるだろうが。


「ですが迂回ルートでもそれは同じではないでしょうか」

「フフフ、お前達も頭を使え、このコースは修行重視のコースだ、魔獣を狩れるだけ刈り倒す。そしてレベルアップして金を稼ぐ。知っての通り、この国の貨幣は金貨だ。金貨は日本でも金貨だ。持ち帰れば、お前達も助かるのではないか」


何故かこの国、世界でも貨幣は金貨だった。

これは、異世界万国共通の普遍的法則なのである。


「しかし、まあ、金はありがたいですが、生徒たちは」

「まあ、聞け、蛮勇的働きは、必ずギルドを通じて王国の知るところとなる。」

「え?」

「良く聴け、ギルドの情報は国に筒抜けだ。知っての通り、冒険者は騎士に匹敵する戦力だ。冒険者は、必要悪なのだ。必要だが、管理しなければ自らに牙をむく獣と一緒なのだ」


又も、影野理論がさく裂する。

被害妄想的ではある。

しかし、被害妄想と言い切る事もできない真理を含んでもいる。


「ゆえに、国は冒険者を管理する。そのための情報をギルドから得ているのだ、そして、不満がたまる前に撒き餌を与えて懐柔するのだ」


「そんな!」

「政治とは昔から全く変わらないものだ、そう異世界とて政治は同じ、庶民いや敢えていうが愚民どもからいかにして絞り取るかということだ」

「・・・」彼らは日本の政治を思い浮かべてしまった。

「逆にいうと、いかにして国民が愚民でいてくれるのかという政策を実行するのかが、政治といってもよいくらいだ」


危険思想の持主だった。

北畠は恐怖を感じた。この男はきっと何かをやろうとしている。

なぜこんな奴が自衛官なのだ。

勿論、特別枠だからだ。


「我々は日本の政治にも興味をもてということなのですね」と何とか上杉が取り持とうとする。

「上杉、儂はそのようなことを言ったか?」

「はい」


影野は首をかしげている。

納得いっていないようだ。


「まあ、そんなことはどうでもよい。故に修行は重要なのだ」

「名声を稼ぐのですね」

「まあ、そういうことにしておく」


影野も自分の口が言い過ぎたことを悟り、口を噤んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・

「いいか、全員、銃はなしだ」もたせておいてそう宣言する影野。

「とにかく、砕心掌の訓練を徹底的に行う。ちなみに魔獣の心臓がどこにあるかはわからん決して油断せぬことだ」

次の街に進む道のりは、わざと森を抜けるような行程が組まれている。

色々な魔獣が現れては消えていく。

時には、野生動物もでる。

しかし、彼らは愚直に砕心掌を放つ。影野はそれを見て、指示を与える。

足の運び、受けの形など。

やはり拳法には、型が他にもあるようだった。

勿論、まだ別の型や秘奥義などがあるが、影野は弟子たちにそれを教えないのだった。


本当の味方かどうかすらわからない者たちに、なぜそれを教えるだろうか?

君は相当なお人よしだな。彼ならそういうだろう。


それでも、砕心掌と頑身功の力は圧倒的なものになっていく。

レベルアップにより、身体の基礎数値も上がりさらに効果を発揮する。

もっとも、砕心掌は、敵の心臓の位置が最も肝になるので、狼型の魔物などには、逆に苦戦することになる。


そんなときは、八卦掌ではじき飛ばし、頑身功の拳と蹴りで叩きつぶす。

頑身功による鉄拳と鉄脚は、まさに鋼鉄のような威力を秘めている。

しかし、そのような場合は、影野は治癒魔法を弟子に掛ける。

この頑身功は、梗塞を引き起こすことが有る。それを警戒しているのだ。


なんだかんだと、弟子に注意を払っているのかもしれない。

次の街に着くころには、大量の魔物の死骸がギルドに持ち込まれる。

それらはすべて、『』に収納されている。


魔獣の素材価格が崩壊するくらいの量を吐き出すアイテムボックス。

ギルドの解体所は、魔獣の死体で埋め尽くされるほどだ。

そして、弟子たちは順調にレベルを上げ戦闘術に磨きがかかってくる。


いよいよ、王都も近づいてくるころ、最後の難所、山脈越えが待っている。

標高3000m級の山々が連なる、山脈の谷部分に沿って抜けていくのだ。

その標高は最高で2000mを越える。


山脈の頂上部分は真っ白である。


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