第42話 冒険者

042 冒険者


奇妙な恰好の男達が、街にやってきては、また出ていく。

なんでも、武芸者らしく、この近くの森で修行しているらしい。

男達がまたも街に戻ってきた。

疲れ切った顔と姿、彼らの特徴の緑の服はボロボロで汚れ切っていた。

一人だけ、こぎれいな男も混じっている。


とにかく異臭がするので、川で洗ってくるように言われる始末だった。

彼らの水浴びをたまたま見た人間がいるとすれば、彼らは全身の筋肉が異常に発達隆起している姿を見たであろう。


血のにじむようなという表現があるが、実際、彼らは血を流して訓練を受けてきた。

今や、九宮八卦掌に関わる九九式北斗神功という内功、そして四十二章教を源流にもつといわれる頑丈心身功(頑身功)という外功を手中に収め、東方不敗金鵄烏王魔刃剣すら手に入れた彼らは何を思うのか。


浅井、北畠以外の隊員、上杉、武田、毛利はすでに完全に影野を師父として尊敬するようになっていた。

だからといって、任務が忘れ去られたということはない。彼らは、特殊部隊なのだから当然である。


だが、無理に捕まえるという考えは遠く過去のことになっていたであろう。

そして、抹殺するという選択肢は自らの身を破滅に追いやることになる。

起請文という黒魔術は、恐るべき威力をもっていることを、身をもって体験した北畠には、無謀としか言いようがない。


少し捕足すると、彼らは超一流の技を身に付けたことは事実なのだが、流派には、まだいくつもの秘技、奥義は存在し、影野を倒すことは不可能だった。魔神とまで呼ばれた始祖なる人物は、いろいろと世界の常識を破壊する技を編み出し続けたのである。それらのいくつかは、人間にも使用可能だったのだが、それらが伝承されていた。


当初の目的アブダクティッドの奪還を無事に行い、上杉達が日本に連れ帰り、影野の助命嘆願を行うというシナリオになっていた。


そういう意味で、この街からそれほど遠くないライン王国に向かうことになっている。

アブダクティッドは、おそらくそこにいることは、当初の聞き込みで当たりをつけている。

そして、数か月後の今、ライン王国に強力な部隊が出現したという風聞がこの街にも届いてきていた。

おそらく、厳しい訓練を受けさせられたのであろう。


「君たちの情熱を感じた、私はアブダクティッド救出を完遂し、君らの交渉に期待するところ大である」影野が言う。

「は!師父の為に粉骨砕身し、努力します」全員が敬礼した。

彼らは、この世界でも浮かないような冒険者姿に変わっていた。


影野のインベントリから冒険者セットが取り出されて皆が着替えをすました結果である。

彼らの鋼の肉体には、九十九刀がつられている、そして胸には、コルトM1911がホルスターでつられている

背中には、AK47自動小銃。

スナイパー浅井は、マクミラン TAC-50を背中に背負っている。

相当重いはずだが、頑身功の訓練を耐え抜いた彼には、この程度はなんの問題もないならなかった。


代わりに、バックパックは影野の『』にしまわれていた。


』は、一流の証である。

実は、フォレストベアは相当ランクの高い魔物である。

彼らの冒険者チームは『ベアハンター』という名で登録をしていた。

修行で、フォレストベアを複数殺害したものをギルドに卸していた。

しかも、ベアには、外傷がないという、実に奇妙なものだった。


だが、解体職人が捌いていくとその理由がはっきりとした、心臓が破壊されていたのであった。これが『砕心掌』という武技の威力なのである。

彼らは、すぐに一流冒険者としてランクアップした。

それからも訓練の一環で、多くの魔物を刈りつくした。

自身のレベルアップのためである。レベルアップすれば基礎数値が成長するために異世界では是非とも必要な手順なのである。


こうして、即席にして、超ハイペースで超強力な冒険者チームが創生された。

彼らは、この名声を利用して隣の国ライン王国に入国するのだ。


名のある冒険者は何かと優遇される。

多くの魔物を討伐してくれるからだ。この世界では常に魔物が脅威の一つであり、この討伐にコストがかかるのである。

故に、勝手に魔物を狩って資源にしてくれる冒険者は国にとってはありがたいのである。

魔物が繁殖すると、自軍を投入せざるを得ず、そのためには、国費が費やされるからだ。



国境の砦。

「我々は、A級冒険者チーム『ベアハンター』だ。身分証(冒険者証)をだす上杉。

彼は、このチームのリーダーである。

「ようこそ、ライン王国に」守衛の衛士が笑顔で答える。

普通はこんなことにはならない。


しかし、名声は噂になり道を開く。

アブダクティッドが発生して9か月が経過していた。

高校生たちはどれほど生きているだろうか。


遅いと言うなかれ。

そもそも、追撃部隊が来なかったら、影野は救出すら放棄したであろうから。

そして、アブダクティッドの事件多く(ほぼほとんど)は、そのまま放置されるのだから、そういう意味では彼らは持っているのだ。国会議員の息子が同級生にいたという運を。


ありがとう世襲議員たちよ。日本では、国会議員という職は、世襲制を採用しているのだから。

同級生たちは、ついでに帰還できるという、僥倖ぎょうこうに浴するのだから。

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