第41話 剣法2
041 剣法2
「では、師匠に認められない場合、刀が来ないということでしょうか」
「まさにその通り」
「それでは、先ほどの話と食い違い、決して剣法を学ぶことはできないのではありませんか」
武田は案外頭がいいのだろう。
そう、この剣法は、刀がないと使えない。しかし、師匠が認めないと刀はない。
つまり、刀がないと認められることもないということに気づいたのである。
「それは心配ない」
ドヤ顔の影野。彼もかつて2代目と同じような問答を繰り返したのである。
彼と武田の違いは、彼は習いたくなかった。武田は習いたいくらいの差しかない。
答えは簡単だ。練習用の刀が存在し、それは師匠に認められなくてもすぐにやってくるのである。
危険な真剣は、信用できる弟子にしか渡さないという。セキュリティー機能も兼ねているのである。
練習刀でも魔刃を使えば十分人を殺せるが、威力は相当低いのである。
威力の問題、そこには、いくつかの技術的秘密が存在するのだが、ここでは語られることはない。
「では、儀式を行い、練習刀を呼び出すぞ」
「「はい」」
「どうしたのだ、皆の者、返事がないぞ」
あくまでも全員を弟子にしようとしているらしい。
そうしてついに、5人が平伏する。
もうこうなると、弟子にならずにはいられないのだ。
彼らは、いつの間にか、うんと言わされていた。
まるで、何とか商法の会場のようなものだ、契約するまではかえしてもらえないのだ。
「アクティベート、我らが始祖たる連合艦隊司令長官よ!大いなる闇の力を我が身に授けよ、偉大なる大神八咫烏よ御照覧あれ!我らに、神威を授けたまえ!来たれ!魔刃よ!」
明らかに、不穏な呪文の後に、その片手に、日本刀らしきものが出現する。
この呪文を考えた奴は完全に中二病に罹患し、後戻りできない状態の人間だったことがわかる。そもそも連合艦隊司令長官って何?
自衛隊ならば、連合艦隊司令長官の存在を勿論知っているだろう。
しかし、誰のことなのだろうか。数々の名前が浮かんでいくのだが、その名前はすべて間違いである。彼らの知る司令長官の名前ではなかったのである。
だが、影野すら自分の間違いに気づいていない。
アクティベート八咫烏、パスワード魔刃で練習刀は異次元からやってくる。
様々な雑音は様々な病状の人間が付け足した結果なのである。
そもそも、彼は司令長官とは、山本五十六の事なのだろうと考えていた。
それは間違いである。
「では、始めよう」
全員が恥ずかしい呪文を唱えると、何と刀が出現したのである。
そこからは、簡単だった。
型を覚えるだけで済んだのである。
魔刃は、いままでさんざん鍛えた功夫を刃に纏わせるだけで済む。
つまり、刀さえあれば、このレベルまで鍛えられた人間にとってはたやすいものなのである。
だが、この魔刃、本当の日本刀でやってもできることはない。
これは、製造過程の原料が違うためである。
祖師は、本当の刀鍛冶を行ったことがある。
だから、彼の作る刀を日本刀と呼んだことはない。
原料により、日本刀ではないことを知っていたからである。
故に、自らの刀を九十九刀と呼んでいたのであった。
1か月が過ぎるころには、皆それぞれが様になっていた。
特に、剣の達人スキルの武田は恐るべき剣豪となっていた。
練習用刀でも、簡単に鉄の棒を両断していた。
「見事だ、武田よ、お前には、祖師様の剣、九十九刀の使用を認める。それと上杉、北畠も認めよう」いよいよ、練習刀ともおさらばという訳だ。
「私はどうなるのでしょう?」認められなかった浅井であった。
「ふむ、九十九刀は無理だが、無銘なら問題ない」
九十九刀には、登録番号と名称、銘などがある。そして、それ以外にも、無銘、おそらくなんらかの事情により無銘となったのであろうものが存在し、格納されている。
無銘は、案外自由に使用可能なのである。
無銘ゆえ作者とうは不明。おそらく祖師の弟子たちの作品ではないかと考えられている。
武田の手に、青く輝く刀が現れる。
それは、18番『浄土ヶ浜』という魔刃を纏うと青い光が乗る。
銘は、作、鈴木大和守重當である。
「なんだと!18番!」影野が絶叫する番だった。
そもそも、99振りしかないはずなので、数が少ないほど格が高いとされている。
そのように設定されているのである。
影野は、32番『白良浜』である。まさか剣の腕で負けているとでもいうのか!
因みに上杉は108番、北畠はあろうことか13番『地獄門』だった。
勿論、そのようなことはなかった。
システム上の問題であるのだ。
登録時に、腕により割り振りが決定されるのだが、その割り振り時に残っている剣の中で決定されるのである。影野が剣を手にしたとき、32番が開いていたのである。
その後、時間が経過し、使用者が死亡した時に、空きができる。
18番の持ち主が何らかの原因で死亡したのである。それに今あらたな持ち主が現れたということである。
だが、そのシステム上の問題は、誰も知らなかった。
このシステムは、アブダクターにより製作されたためである。
勿論、祖師でさえそのような運用がなされていることは知らない。
あるいは知らなかったであろう。
そもそも、祖師はそのようなことを気にする人間?でもなかった。
影野は人知れず打ちのめされていた。
馬鹿な、馬鹿な、弟子よりも俺が弱いだと!
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