第37話 修行2
037 修行2
「内功の修練は、この方法を反復して行い増強していくのだ」
この方法とは、各人が、円座になり、自らが魔力を相手に流すのだ。それを加速して我慢の限界をめざすのだ。弾き飛ばす限界まで行うのだ。故に、レベルが違うと円座は別れることになる。あくまでも近いレベルの人間と行うことが重要になる。
「だが、あくまでも内功は内功であり、外功はまたべつなのだ」
そう、功夫には、内なる部分を鍛える内功と、外側を鍛える外功が存在する。
外功は直接の攻撃力に直結する部分でもある。
恐るべき祖師は、どちらも極限まで鍛えることを要求したという。
「この、袋を強打して鍛えるのだ。」そうして、サンドバックのようなものが出現する。
布袋のサンドバックのようにしか見えない。
「言っておくが、強打して鍛えるのだ」
袋の中には、砂ではなく、鉄球、ベアリングの玉が詰まっている。
つるせば、サンドバックに見えるが、とてつもなく硬いのだ。
次々とサンドバックが現れ、木につるされ、土に埋められる。
それらを殴り、蹴れということだ。
本来の修行では、砂から始まるが、それらは省かれた。
鉄を殴るのとほぼ同様である。
それを素手で殴る蹴るのだ。
苦鳴が響き、素肌が破れ、血がにじむ。
「もっとだ、もっと!」鬼が叫ぶ。
あっという間に、袋は血まみれになる。
「しかし、お前たちは運がいい」
何が運がいいんだ!
「ハハハ!この修行後は速やかに、治さねばならぬ。私の治癒魔法でもとに戻るのだ」
つまり、また痛みを堪えて叩かねばならないという無間地獄。
たとえどのように体を鍛えたSOG隊員とて、その皮膚は、空手などで鍛えていない限り、この修行は、痛みの地獄である。
それを延々と、血を流しては、治され、叩き続けるのであった。
だが、『運がいい』発言のそこには、別の意味がある。
治癒魔法をかけない場合は、血管中に、血栓が発生し、それが、脳内などを巡り死亡事故などを多発させるのである。
それゆえに、2代目以降の掌門は病死したものが多いのである。
あまりに、死亡事故が多発するため、事例を研究した弟子がその発生メカニズムを発見し血栓を治癒する必要が言われるようになったのである。
それ以降、不慮の事故は激減したという。
そのような事情を、今の弟子たちは知らないが。
地獄のような訓練。
SOG隊員である彼等だからこそ、耐えることができたに違いない。
彼らは、限界を超えて戦うことを可能ならしめるような猛者である。
地獄の外功練習のうちに、その痛い部分に内功を運用することで、痛みを減殺させることを自然と覚えていく。これが、この恐るべき拳法の運用でもあるのだ。
人によっては、頑丈身体功、略して頑身功と呼ぶものが身に付いていく。
まさに、鋼鉄のような身体となる。
その後に習う組み手などは、適当な名前こそついているが、それほど重要ではない。
そもそも、彼らと組み手をできる人間が彼ら以外にもういないのだから。
「さて、だいぶん形になってきたようだから、次の訓練に入る」
すでに、山籠もりは2か月目に入っていた。
通常の人間ならば、数年はかかったのは間違いない。
彼らは、普通の人間ではなかったからである。
そこには、何本もの杭がうち込まれていた。
森を力任せに切り開いた場所である。
「内功、外功は形になったが、拳法はそれだけにあらず、軽功が必要である」
所謂、軽身功である。素早い動きをするために必要となる、身体強化系の功夫である。
影野は、杭の一本に飛び上がる。
そして、次々と飛び跳ねる、杭は片足の半分を置く程度の太さしかない。
そのうえで、華麗に舞い、掌打を繰り出している。
中国系の武侠ドラマでは、ワイヤーアクションで空を飛んでいるあれである。
勿論、ここには、ワイヤーは存在しない。それが差であった。
だが、ここまで内外の功夫を錬成してきた彼らには、なんとなくできるようになっていた。
恐るべき異世界ファンタジー。不可能を可能にする世界なのであった。
それから、さらに3か月訓練は続いた。
最後の方には、皆が、ある程度の形でできるようになっていたのだから、異世界とは恐ろしい場所なのだ。
彼らは、その修行により、各段に強力な戦士、というか暗殺者に近い存在になっていた。
「皆よくぞここまでついてきたな」2代目の真似がすっかり板についた影野。
「師父、有難き幸せでございます」弟子は皆、伏して聞いている。
師父というのは、読んで字のごとく、師匠であり、父である。
拝師という制度であり、父の様に敬うということでもある。
「そろそろ、奥義の一手を授けてやろう」
「有難き幸せにございます」
今この状態で彼らが戦った場合、どうなるのか?
残念ながら、影野は全員を瞬殺できる。
SOG隊員は、拳法の修行しかしていない。
拳法では互角でも、剣法では歯が立たないのである。
そういう意味では、剣術スキルをえた武田は、不満であった。
あの光る刃の技術を学べていないからである。
影野から言わせれば、この短期間で、そんなことができるはずもないだろうだ。
物には順序がある、基礎を飛ばして建物を作ることはできない。
そんなことをすれば、建物はすぐに崩れるのだから。
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