第35話 弟子

035 弟子


「まずは祖師様に拝礼を」

祖師とは、この剣法の開祖で魔神と呼ばれた者である。

祖師の大きな肖像画が現れる、西洋人の顔つきの若い男だった。

「これは、外国人?」

「嫌、俺が聞いた話では、異世界召喚された日本人らしい」

「これが?」

「無礼であるぞ、始祖様と契約しなければ、剣法を教えることはかなわない」

所謂、契約魔法、起請文と呼ばれるものである。

全ての弟子が、祖師の為に活動することを誓約させられている。


しかし、今はそれは形式的なものとなっている。

祖師はもういないからである。

厳密にいうと、この世界にはいないからである。


「祖師様は、勿論なくなられているのですよね」

「嫌、俺が聞いた話では、祖師様は、星になられたのであるとされていた」

所謂、死んで星になった的なたとえ話であろうか。


「伝えられている話では、祖師様は、正体不明の飛行物体に吸い込まれて、その飛行物体は、はるか高みに飛び去ったのである、とされている」

「それは、まさに、アブダクトされたのでは?」

「そうかもしれない、そもそも、魔神と呼ばれていたころから、祖師様の御年おんとしは、数百年は経ていたというから、簡単に死ぬような玉ではなかったようだ」


「祖師には、妻が何人かいたらしいが、同じように年の取らない女がいたようだ。話を総合すると、どうやらそれが宇宙人で、その船に連れ去られたのではないかと私は推測している」


「祖師様じゃないのですか」

「ああ、そうだった。つまり祖師様は、星になられたのだ」

幾分雑になった説明を終える影野。

宇宙人に連れ去られた男が編み出した剣法。

そんなものを習ってもよいのだろうか?


「さあ、弟子たちよ、私が第27代目の掌門であるから、お前たちは28代目弟子ということになる。私の事を師父と呼ぶのだ、そして拝跪して九拝せよ!」

影野はいやいやながら、第27代目掌門にされた。

彼に教えたのは、第2代掌門である。


代々の掌門たちがことごとく死に絶えたのである。

だが、祖師直伝の弟子、第2代掌門は長命であった。

そして、今もなお、弟子を探して直伝しているに違いない。


彼なら、惑星の住人があと一人になったところで、その人間を弟子にするに違いない。

逆らっても無駄である。逃げることも、抵抗することすら不可能。

なぜなら、その極致の生物を倒せる者は存在しないからである。


この異世界でSOG隊員たちは、第28代弟子となった。

師父とは、義理の父と同じという意味である。

この際、年齢などは関係なく、父親相当の扱いを要求される。

かなり理不尽でも、承知しなければならないのだ。


「さあ、では始めよう、我等が祖師様の剣法はすべて、功夫を鍛えることから始まるのだ」


「九九式北斗神功は無敵、さあ、弟子たちよ、唱えよ、たたえよ」

影野は、体にしみこむまでさせられていたので、同じように文句を唱える。


「確か、九宮八卦掌法といわれておりましたが」

「心配はいらん、九宮八卦掌法の基本は、九九式北斗神功により成り立っている」

「刀法不敗流金鵄鳥王魔刃剣法では?」

「心配はいらん、刀法不敗流金鵄鳥王魔刃剣法の基本は、九九式北斗神功により成り立っている」

「では槍法も?」

「無論、この神功をえることこそ、最強へと至る唯一の道である」

いかにも、嘘臭いはなしではあった。心配せずにはいられなかった。


「しかし、とにかく中二病っぽい名称がてんこ盛りですね」

「左様、祖師さまのご趣味だと伝わっている。ゆえに、時として、名称を変更しても問題ないとされている、自らが技を会得したのちは、中二的な名称に変更しても問題ないということだ」


「では、神功の訓練を開始しようではないか」

「いきなりですか」

「そうだ、実践あるのみ、だが、第10代掌門までの時代は、方法が確立されておらず、修行が原因で死亡してしまったのだが、今ならば大丈夫だ」

「え?」

いきなりのブッコみであった。


「この神功はとても強いが、キチンと修行しキチンと治さねば、簡単に命をおとすのだ」

軽くいってくれる。

弟子たちの背筋に冷や汗が流れる。

「今は、修行法が確立しているので大丈夫だ」

「・・・」本当ですか?とは聞けなかったのである。


この神功は内功と外功を鍛える、恐るべき錬気功である。

特に、特殊な訓練法で得た攻撃力は、恐るべき殺傷力を得る。

その戦闘力を、刀術、拳法、鎗術、身体強化につなげるのである。


「実戦の世界、日本では、なかなかに難しいものであった。功力をためることが非常に難しかったからだが、この世界ではたやすい。なぜかわかるか?」

勿論、わかるはずもない。

「それは、奇跡の力、功力を魔力で代替できるからだ」

「魔力!」


祖師たる中二病罹患者は、それを魔力のない世界で完成させたが、異世界で魔力による代替も可能であることを発見する。

その後は、恐るべき殺人者の集団が、量産されてしまうという、悲劇の歴史が生まれたのである。


「弟子よ、我が手を取れ」影野が掌を出す。

弟子の上杉が手を取る。

「吻」魔力が、上杉の手を電撃のように流れた。

「あ!」

「これが魔力だ」

大なり小なり、多くの人間が魔力を持つこの世界。魔素が濃いのだ。

溜まっていくのだ。その魔力を駆使すれば、相当なことをやってのけることが可能なのである。そして、それを攻撃力に最大限に変換することを可能にしたのが、99式北斗神功であった。



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