第33話 聞き込み

033 聞き込み


影野は今日も今日とて、冒険者ギルドに出向いている。

このような、世界では、冒険者証が身分証明の代わりになるのだ。

それに、このような田舎町でも情報はギルドに集まる。


冒険者ギルドは全国組織である。

それに、情報をきちんと収集できなければ、損をすることが往々にして起こる。

命に係わる場合も多々あるからだ。


ライン王国で、不可思議な現象が観測されたらしい。

王城が青白く発光したという。

まさに、そういう情報こそが必要な情報である。


大規模魔法による発光現象。

隠しきれていなかったのであろう。

アブダクティッドはおそらくライン王国に居る。


しかし、俺は考える。

そもそも、捕まるようなことをして、日本を出発したのだ。

彼らを連れて帰るメリットはないのではないか。


逮捕されるデメリットは極大である。

連れ帰っても金はくれんだろうしな。


だが、奴(参事)だけには、眼にもの見せてくれんという負けじ魂だけがうずいているのだ。

しかし、この選択もデメリットのみである。

敵はおそらく勇者パーティーなのだ。

勇者はとにかく、反則級の強さだ、いかに優れたオレサマでも簡単に倒すことができないのだ。しかも相手は、その強さを補強するメンバーもいる。

戦闘経験もかなり積んでいるはずだ。

何せ、異世界から帰ってきたもの達なのだから。


答え、このままこの異世界で漂泊するのが正解だ。

帰れなければ、奴らはおそらく来ない。

SOGが派遣されたことでもそれはわかる。

誰が好き好んで異世界に行くか。

折角苦労して、ジャパンに帰ったというのにだ。


・・・・・・・・


大けがを負った武田がようやく戦線に復帰した。

剣の達人になった武田。彼は昔から剣道を習っていたそうだ。


「どうしても、あの熊を倒した剣法を授けてください」

どうも、熊討伐の話を聞いたらしい。


「すまんが、君らは自分たちだけで帰ってくれないか」

「それはできん。影野三佐を連れ帰るのが我々の任務だ」

「上杉君、俺を連れ帰っても誰も幸せにはならんのだ、あきらめてくれ」

「それはできない」

「それに、本来の任務の誘拐高校生の奪還はどうするのですか」

「武田君、俺は帰って捕まるかもしれないのに、何故、高校生の心配をせにゃならんのだ」

「やはり、犯罪を犯したのですね」

「推定無罪だ」

「我々もできるだけ口添えはします。高校生を連れ帰れば多少減刑を期待できるかのしれない」


彼らは、気性は荒いが、仲間には心を開いてくれるようだ。

ここ数日で、ある意味で俺の事を信頼しているようなのだ。


だが、敢えて言う。

「人を信じるな、最も危険な存在は人間であると」


「それにな、向こうには、強大な敵が存在する。俺は奴を倒せるという自信ができるまでは帰りたくないのだ」

「それが犯罪行為なのでは?」

「正当防衛を主張する。奴は参事は、元勇者に違いない。そんな奴が俺を殺しに来るのだ、危険極まりないのだ」


「では、我々が、高校生たちと先に帰還し、できるだけの援護をしておきますので、そのあとに」

「嫌だ」

「もう一度、迎えに来ますよ」

本当に心根が正しい人間なのだろう。上杉は笑顔を見せる。


「そうか、そこまで君たちが言うなら、君たちに先にかえってもらう、ただし、迎えは不要だ。私が戻れば、君らはになるだろう」

「そんなことはありません」

「嫌、俺にはわかる、元の世界で占いの術も習ったのだ。俺の帰還はである」


俺は、このようないい人間に苦労を掛けさせたくなかった。

ひどい人間なら、遠慮はしないのだがな。


「そうと決まれば、ライン王国に向かいましょう」

「そうなんだが、それは簡単ではない」

「何故ですか?」

「はっきり言って君たちでは足手まといなのだ」

「なんだと!」その時全員が、叫んだ。


彼らは武力だけには自信があったのだ。


「まずその自信はどこから来るのかね」

「何!」


彼らは決定的に勘違いしている。

強さとは何なのかということを。


「表にでろ!」浅井が怒鳴った。

「ああ、ちょうどよい、ギルドの訓練場に行く。そこで君たちに勘違いを正してやろう」

影野は、薄く笑った。


全員が真っ赤な顔をして怒っているようだった。

だが、助けられたこともあるので、言葉は控えたのだろう。

しかし、戦場では、彼らは最凶の兵士であろうと、この異世界では違うのだ。

兵士の強さと戦士の強さは違うのだ。


「見せてもらおうか、SOGとやらの実力を」

影野は、薄笑いでそう呟いたのである。


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