第30話 追跡
030 追跡
「まあ、そんなに恐れるものでもないぞ、北畠。お前はすでに何十回と殺されるほど隙があったのだ、しかし、生きている。つまり俺が貴様を生かすと決めたことになる。それに、そんな重装備では、遅いのだ、素早く動く必要がある。私の敵を捕捉し、撃滅する必要があるのだ。わかるな」
「まさか、SOGを襲うつもりですか」
「勿論だ、
「しかし、それでは」
「心配するな、お前にやれとは言わん。俺がやるからおとなしくしておるがいい」
さらりと恐ろしいことを簡単に言う男だった。
「しかし、彼らは戦闘のプロ。そのように簡単には」
「ハハハ!だから今こそ狙う必要があるのだ、この世界になじんでからでは各段に面倒になるではないか」
影野はSOGの恐ろしさを知らないが、戦闘の感覚というか、経験値は間違いなく上だった。
それも仕方ない、異世界で生き残る事の難しさを身をもって経験してきたのだ。
敵は、芽が出るまでに完全に叩き潰す。それが第一原則である。
それに、SOGの戦闘員はそもそも優れた兵士なのだ。そんな奴がスキルを使い熟し、レベルを上げればどうなるか全くわからないではないか。
北畠はほかの隊員がうまく逃げてくれることを心の底から願うのであった。
結局荷物の大半を奪われた。
そして、そのお返しにM1911を渡される。
「9mmでは威力が足りん。それに、小銃が使えるならこれだが、無理だな」
それは、AK47である。
そして、日本刀を出してくる。
「戦闘は脇差を使え」
片手で戦闘することが可能である。
直ぐに、あの北畠が離れた場所までやってきた。
「こっちに行ったな」現場の足跡を見る男。
少なくとも3日は過ぎていた。
重い荷物を担いで進む彼らの足跡ははっきりと残っている。
それに、この世界には彼らの靴跡は明らかにほかのものとは異質だ。
見間違うことがない。
だが、追跡行も一日分が終わると、それまでの様子が変わってくる。
何度か戦闘を繰り返したのだろう。
殺された、魔獣の骨が残されている。
倒された後、何者かに食らいつくされたのである。
足跡が薄くなる。
「これを見ろ、北畠」
「あいつらは、何らかのコツをつかんだのだ、さすがに厄介な奴らだな」
進む距離も増えていた。
異世界への慣れとスキルの恩恵、レベルアップ等なんらかの好影響が彼らの進行速度を上げたのだ。
2日目には、森が切れ平原になる。
彼らは、超重量を背負っていても、30Kmは進むことができるのだ。
・・・・・
何らの手がかりも得られず森をさまよう彼等だったが、精鋭中の精鋭である。
既に仲間が一人戦死したが、目的は達成しなければならない。
森を脱出し、街にたどりつく必要があった。
上杉以下4名のSOG達は、何とか森の切れ目迄たどりついた。
これまでの戦闘により、彼らはコツをつかみ始めていた。
そもそも、戦闘に関しては、人類最強種の彼らなのだ、しかも武器もある。
そして、ギフトスキルの効果を知り、使い始めることができるようになる。
フォレストウルフを何度となく退け、ゴブリンや危険なスパイダーをも退けた。
だが、その経験が彼らにある種の油断を産む。
森が終わり、ひと段落というときに、それは現れた。
フォレストベア。熊の魔獣だった。
日本でいえばヒグマに近い種類だろうか、魔獣だが。
狂暴で、強力で尚且つ狡猾。
疾走する熊の速度は、時速60Kmにも達する。
熊は、木の陰を選びながらも高速で獲物に向かって突進する。
浅井曹長が、スキル鷹の目で発見した時はすでにかなり接近していた。
「敵です」
織田2尉が、ギフトスキル火魔法のファランクスを発動させる。
これは恐ろしく高速で火魔法を撃ちだすという魔術である。
バババババ~ン高速の火魔法が連続でさく裂し、熊を火炎に包み込む。
周囲が火炎と煙に包まれる。
今までは、これで十分だった。
だが、煙が風で吹き流されたとき、そこには、真っ黒い大きな熊が立ち上がってこちらを睥睨していた。
殺意の籠った真っ赤な目が、織田を睨みつけていた。
「効いてないだと!」
「散開!
小隊長の上杉が命じる。
「フルバースト!」
織田がファランクスで全力攻撃を仕掛ける。
先ほどよりも、さらに激しい爆発が生じる。
他の隊員は、20式小銃をその爆発の中心へと撃ち込んでいく。
「目標健在!」絶望的な声が発せられる。
何という強靱さ。
強力な魔物は、マジックキャンセラーの能力や威力軽減の効果、高い耐性を持つものもいる。
彼らは当然にそのようなことは知らなかったのである。
魔法は、威力を減殺されたが、小銃弾は当たっているはずだった。
だが、フォレストベアの表皮には、剛毛が存在し、皮自体も固く、さらにその下には脂肪と筋肉が存在するのだった。小銃弾ごときでは致命傷を与えることはできないのだ。
「GAGYAAAAAAA~~~~」雄たけびは、精神の平衡を打ち砕く。
周囲の敵すべてをすくませるような大音量である。
打ち砕かれた精神では、動きが止まり固まってしまう。
熊の突撃が彼を襲う。
織田の首が噛み千切られる。
将に首が宙を舞う。
食らうための攻撃ではなく。息の根を止めるための攻撃。
「あっ!ああああ」上杉は、声が出なかった。
あまりにも悲惨な光景だった。
熊の攻撃の鋭さは、織田の体を通過し、その瞬間に首を嚙み切ったのである。
織田の首から血しぶきが吹き上がる。
そして、ドサリと倒れる。
熊は、急ブレーキをかけて止まり、こちらをジロリと睨む。
次はどいつを殺してやろうか、と目が語っていた。
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