第27話 恐るべき敵

027 恐るべき敵


北畠3尉は、5人とは反対の方角に進む。

折角の異世界を楽しもうと考えていた矢先の出来事だった。

彼もまた、転移によるギフトスキルを得ていたのである。


狼が、迫ってくる。

ハアハアという息遣いが聞こえる。

森の暗殺者、フォレストウルフ。日本の森にもう狼はいない。

しかし、ここの森にはてんこ盛りだった。


手首を失い、包帯で止血した手では、20式小銃は使えない。

仕方なく9mmミネベア拳銃を抜く。

装弾数9発である。しかし、彼は気づいていない。

9発発射した後、弾倉の交換が必要であることを。


ここでも、影野なら迷わずM1911拳銃を使っていることになる。

所謂、コルトガバメント系である。弾が大きく反動が大きいが、対魔獣ということであれば、とにかく威力が大事だと考えているからである。装弾数は少ないが・・・。


バンバンバン次々と発射し狼どもを撃ち殺していくが、仲間の屍を踏み越えて襲ってくる。

カチカチと、引き金の音だけになり、すでに弾切れになっていた。

狼が口を広げて、北畠ののどに食らいつかんと跳躍した。


クソ!こんなところで死ぬのか!

北畠の頭の中には、走馬灯のように思い出が蘇る。

恐るべき訓練で鍛えた体は、銃を捨てナイフを引き抜いて自分の腕に噛みついた狼の首筋を切り裂く。

手首のない腕で喉をかばい、そして反撃したのである。


「死んでたまるか!」

大和魂の絶叫が迸る。

しかし、狼は恐れを知らず、周囲を取り囲み、逃げ道を封鎖し、後方からの攻撃を繰り出さんと、北畠の動きを探っている。


後方の一匹がとびかかる。

北畠は、その瞬間にバックハンドブローのようにナイフを振るう。

ギャン!

狼は、切り裂かれてはじかれる。


その時、何かが北畠の中で弾けた!

彼の右目から光が発せられる。

その眼光を見据えた狼たちの眼は真っ赤に光っていたが、その瞬間に、光を失う。

狼たちは戦意を急速に失った。


北畠の金色に光る眼が、辺りを睨め回す。

その光には、強制力がある。

彼は、異世界転移ギフトが今目覚めたのである。

そのスキルを『魔眼』という。

異世界を渡る者には、ギフトスキルが送られる場合がままある。

たとえそれが、初めになかったとしてもなんらかの状況で発現することもあるのだ。

そして、彼は命の危機に瀕してその力を解放することができたのである。


動きを止めた狼たちに、ナイフでとどめを刺す北畠。

血まみれになりながら、やり遂げる。


「ははは!俺はついにヤッタ!やったぞ!」全能感でドーパミンが大量に出ているのだろう。窮地を脱したという安心感があったのだろう。

彼は大声を上げわらい始めた。


「これで、生き残れるかもしれない」北畠は涙が溢れそうになった。

この力があれば、魔獣の攻撃を阻止できる。生き残れるに違いない。

「そうだ、街に行けば、治癒魔法で手首が再生できるかもしれない。何とか街に向かおう」

既に一人の北畠は独りごちた。


確かに、治癒可能な治癒術師はいる、しかし、欠損したものまで回復するとなるとそれほど簡単ではない。高位の術者でなければ難しい。

そう、手首があれば、治すことはより簡単になるのだが。

それは、こちらでも、日本でも同じである。


此方の世界では、簡易な義手が関の山ではある。

しかし、高位の術者とコネがあれば治せないわけではない。

だが、高位の術者ともなれば国家が管理している可能性が極めて高い。

そう、それは威力の高い武器は国が管理するのと同じことなのだ。

言い忘れたが、欠損を治療可能な薬品もこの世界には存在する。

所謂、エリクサーなどと呼ばれるほぼ伝説的なポーションなども存在はする。

ただ、発見されていないだけだが。

あるいは、国家の一部の人間だけがその存在を知っていたり、隠ぺいしたりしている。

これもまた、戦略兵器級の品物なので仕方がないのだった。


北畠は痛む腕に耐えながら、街を探そうと決意する。

魔眼のスキルは人々からは忌み嫌われる場合が多いのだが、彼はそのことを知らない。

嫌われるが、国家の権力者ならば喜んで彼を迎え入れるに違いない。

そう、人を殺せる精神とスキルを持っている彼ならば戦術級の兵器として申し分ないからだ。


だが、残念なことにそれを阻もうとするものがいた。

それは、高木の上に住まいしていたのである。

急速に落下するそれ。

それは、落下の勢いで北畠の右腕を切り飛ばした。


「ガ!」あまりの痛みに声を挙げる北畠。


それは、北畠の後ろにいた。

残った手で肘内を放つ北畠、体が戦闘を覚えているのだ。

だが、それは腕を捻り挙げられる結果になった。


それは、武術の心得を持っていたのだ。

散々に殴り倒され、堅いものを殴らされ、蹴らされた。

頑身功。

前進を鋼鉄のように固くするための修練である。

その強靱な体に、鍛錬で得た功夫を循環させれば、まさに鋼鉄のような人間となるのである。


「お前は!」

「馬鹿者!私は、仮にも3佐だ、貴様は3尉だろう」

所謂、少佐と少尉の事であり、全く位が違う。

佐官は防衛大学出がほとんどだった、この男の場合はまさに仮に3佐だったのだが。

そして、北畠は、隊員募集に応じた下士官である。

厳しい訓練に耐えて、やっとのことで少尉にまで昇進したのである。




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