第23話 現場

023 現場


広島県安芸市。

安芸の宮島で有名な観光地である。

高校生たちは、広島市内で原爆ドームを見学し、その後に宮島を観光するために、国道を走行中に運転手が心筋梗塞で意識を失い、電柱をなぎ倒しながら走行するという事故が発生、その直後、謎の発光現象が発生しバス後部が突如消失する。


バスの前部は衝突により大破、運転席部分のみが引きちぎられるような形で、事故現場に残される。


運転手、バスガイドがバス前部で死亡するという、痛ましい事故であった。


だがその後この事故は異常事故であることがはっきりとしてくる。

バス後部の車体、それに乗車中の生徒たち、同行の教諭2人を含む計37名が失踪する事態へと発展する。


現場には、食いちぎられたようなバスの前部だけが残されていた。

広島県警は、特殊事案であることを警察庁に連絡。

そして、その事件はSACTに回されることが決定する。


しかし、なぜ回ってきたのか?

そう、SACTを動かすことには、多額の金が必要になる。

つまり、今回も何らかの裏があるのは間違いなかった。

今までにもこのような事件は何回も確実に起こっていた。

ダイブせぬまでも、現場調査は何度か行っていた。


報告書上は、アブダクトであると結論づけられた案件は何件も存在した。

しかし、実際に、異世界への出動はただの1回である。

俺たちに、仲間がいるのかどうかは知らないが、いたとしたら、俺たちは、ただ飯ぐらいと呼ばれるに違いない。


俺たちが出動しない理由。まあ、出動は俺しか出動しないのだが、とても金がかかるからである。

膨大な器具を大量に使用して、膨大なエネルギーを使う。

日本にそれほどの余裕はないのである。

そこまでの資源を浪費して、行えることは、誘拐者の奪還だけ。

一人に対して1億円の死亡保険金を払った方が安くつくだろう。

払う相手がいればの話だが。


それでも、動くということは、なんらかの裏の意図があるに違いない。

例えば、民自党の幹部の息子が拉致されたとか、次期選挙に勝利すためのプロパガンダなどの。


前回の出動は、幹部の孫が誘拐されていたわけだが。

そして、10億円は支払われなかったのだが。(彼に支払われなかっただけ)


彼、影野はその10億円にかなり執着していたのである。

参事官はそのことについて、あまり注意を払っていなかったが、そこにこそ注意を払うべきだったのである。


こういう男は、粘着質で絶対にチャンスがあれば報復しようとするものである。

まあ、参事官自身もそのような世界で生き残ってきたので、経験は充分あったのであろうが、少し甘く見ていたのかもしれない。やはり、日本に戻ったために甘く考えていたのであろう。


魔術術式解析プログラム、通称アナライザーに現場で撮影したデータを流し込み、解析を開始する。この解析に使われるコンピュータはいわゆるスーパーなコンピュータである。

世界でも指折りの計算力を持つコンピュータでも解析までには、相当な時間かかるはず。


それと同時に、勇者候補の選定作業を同時に行っていく。

勇者候補は、成績優秀、運動能力抜群の所謂、テンプレートな生徒を絞り込む作業である。


勇者候補の両親、兄弟姉妹などの人間から、所謂オーラの波長の測定を行う。

そのデータから本人のオーラ波長の類推作業を行い、位相間特殊電波(オーラ)レーダー(通称:異次元レーダー)で彼ら(アブダクティッド)の発する微弱な電波を捕らえるのである。

そして、このオーラの確定作業にも、スーパーなコンピュータの力が必要だ。


あくまでも、類推しているだけなので、本当にそれかどうかはわからないのだが。

つまり、何十種類かの似たような波長を探し出すしかないのである。


異次元レーダーで居場所を確定。

スーパーなコンピュータによる異世界侵入術式構築プログラム(コンストラクター)で術式構築の演算処理を行う。


術式構築完了。

次に用意するものは、棺桶マーク7と大電流。


このように、日本のリソースを食いまくるような行為が公然となされていく。

そして、おそらく日本人救出の美名のもとに命令が下されるのだが、きっと本当の救出理由は、自分の愛人が生んだ息子を助けてほしい、などというくだらない日本のためとも言えない理由なのであろう。(これはあくまでも推測である。)


棺桶マーク7パイロット。

パイロットはダイバーと呼ばれるが、これは異世界に潜るという意味からきているが、棺桶に乗るため、技術要員からは、ダイ(死)バー、つまり死人になるための特攻隊員と皮肉られている。


魔術式が完成する。今回は前回の失敗を踏まえ術式の改変と省エネルギーが図られている。いまのままでは焼け死ぬからだ。これは、魔導師たる俺の仕事である。


超大電力魔力変換装置(マギトランサー)が据えられ、巨大な電力を魔力に変換する。

巨大電力は、新潟県の某所で発生する電力をこのマギトランサーに注入し、巨大電力から魔力を得て、術式を稼働させるのである。


マギトランサーが発するうなりのような音が、発電所に息づいている。


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