第22話 異次元からの信号

022 異次元からの信号


悪い病気を拗らせつつ日々が過ぎていく。

俺は、毎日、〇経新聞を読みながらコーヒーを飲み過ごしている。

10億を手に入れたら、株式で倍にしてやろうと思って、毎日ニュースを読んでいる。

そもそも、その10億円がないのだが。


色々な情報をさりげなく集めているが、目の中の装置が邪魔をする可能性があるため、危険なサイトを閲覧することはできない。

偽の免許証や身分証明などが必須であることはわかったが、手に入れる方法は、目の装置を何とかしなくてはならない。まあ、この目の映像は、すぐに飛んでいるわけではないようだが。人間ドックなどのときに取り出されることになるようだ。睡眠薬でぐっすり眠った時に。


そんな平和な日々が続いた数か月後だった。

唐突に、それはやってきた。

何だこれは!それはビーコンのように俺の頭の中に届いたのである。

それは、数分続いたら、突然切れたのである。


「一体、あれは何だったんだ」

新手の魔法か?そうすると未知の魔術である。

自分の存在を発見させるための魔術?魔法?俺は大家でありながら魔法と魔術の違いが判らないのである。そもそも、そのような教育を受けて居ないため、仕方がない。後発の突然変異のようなものであるから当然である。


それからも頻繁に未知の魔法は発動しているのか、ビーコンが発信されてくる。

近ごろは相手もうまくなったのか、時間が長くなっている。


しかし、ピコンピコンとなるだけでそれ以外なんら問題のないものだった。

時間は不定期で、俺が眠っている間にも送られてくることもある。害もないのでそのまま寝ているが。


そして、夢のなかでもビーコンは届いている。

まるで、俺をよんでいるのかのように、それは確実に届いている。

そして、その話は誰にも確証が取れるものではなかった。


位相間特殊電波(オーラ)レーダー(通称:異次元レーダー)でもそのビーコンの魔術波を捕らえ、感知することはできなかったのである。


そんな時、またしても俺の平穏を打ち破る電話が鳴る。

「主任、事件が発生した模様です」

「クソ、またただ働きか!」

「給料は支払われているはずですが」

「・・・まあ、そうだな」彼にとっては、コーヒーを飲み、新聞を読むことが仕事なのである。それ以外は特別な仕事で、ただ働き感を感じるというだけだ。


「装備と人員を回してくれ」

「はい、わかりました」

「で、現場は?」

「広島県です」

「広島?」

「はい、修学旅行中の高校生たちが、アブダクトされた模様です」

「また、高校生なのか」

「定番ですからね」

「俺はおっさんなんだが」

「刑事はおっさんが定番です」

「刑事ではないがな」


内閣府情報調査室特殊誘拐対策班(SACT)スペシャル・アブダクト・カウンターメジャー・チーム、特殊誘拐を解決するために、新たに創設された部署である。

忘れていたら大変なので、再掲する。(作者もすでに忘れていた・・・)


俺は、このSACTの班長である。


「で、今回はなぜ、出動なのですかね」電話の相手先は参事である。

「君の仕事なのだから、出動に理由がいるのかね」

「是非、調査の一環として知っておく必要があるでしょう」

「まだ、根に持っているのかね」

「当たり前でしょう、10億円ですよ。こっちは命を張ってるんですからね」

「給与はでているはずだが?」

「アシからもそういわれましたが、死んだら労災くらいは出るんですかね」

「勿論だ、請求する人間がいればな」


俺には、身寄りがいない。

だから、おそらく請求する人間はいないだろう。

そもそも、異世界で死んだことを実証すること自体に無理がある。

誰も、見ていないからだ。

良くて失踪宣告、下手をすれば仕事中の任務放棄で免職事案にされそうだ。


俺の頭の中にはそのような拗れた考えが浮かんでは消えていく。

決して、参事はそこまでの悪人ではない。


一方、参事官は、現実問題として直面すれば、そのように処理することも実際は考えられるなという程度の悪知恵は持っていた。

そもそも、死亡退職金を振り込んでも、相続人がないのだ。いずれは国庫に入ってしまう。


そういう意味では、俺の考え(一方的思い込み)もあながち間違っていなかったのである。


こうして、別の意味で二人の考えは一致を見ていた。

だが、この意見の一致はのちに大きな不和を引き起こす原因となるのであった。

というか、不和はもう発生していたのである。


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