第20話 真相

020 真相


「まあ、口ではなんとでもいえるからね」参事の口ぶりからは嘘をついてもばれているぞという感じがヒシヒシと伝わってくる。

勿論、証拠は高校生の証言だけ。何とでも言い逃れできる、はず。

それに、本当に正当防衛なのだから。


「高校生の証言だけで、何とでも言い逃れできると思っているのかね」まさに思っていることをズバリと言ってくる。

「いえ、そんなことは思っておりません。本当に正当防衛だったのです」

「過剰防衛なのではないですか」初めて警察庁の人間が口をはさむ。


「本当のことを言った方が楽になるのではないかね」と参事。まるで取調べの刑事みたいなことを言う。

「まさか、俺を逮捕するために?」

「まあ、必要があればね」

「子供たちのために命を張って助けに行った俺をそんなことで!」

「そんなことで、というほど軽くはないよ、君」


「私は、無実です」

「嫌、実はこれは言いたくなかったんだがね」にやりと参事は笑う。


「君の瞳には、撮影装置が内蔵されているんだよ」

「え!」

「極小の撮影装置なんだがね」にやりがニタリとなっている。

「まさか」

「そう、そのまさかさ、君の行動の逐一が記録されているということだ」

「!!」

「だから、君が違法に銃を販売していたことまで、我々は知っている。その他にも色々あったけどプライバシーだからね」

「だから、やたらに長い検査期間だったのか」

「君はやはり頭がいい」


部屋の温度がまるで氷つくように下がっていく。

俺の怒りのボルテージは急速に上がっているが。

「君、我々を殺そうっていうのかい」

「・・・」その視線は殺してやると宣言してた。

室温は物理的に急速に下がっている。

「罪を犯すつもりかね」

「・・・」

「冷却呪文程度で私たちを倒すことはできないがね」

その時俺は、目の前の男の正体を悟った。

「なるほど、あんたも異世界帰りという訳か」

「私は上司だよ、言葉遣いには気を付けた方がよい」


「それで、俺を逮捕するつもりなのか」

「そこでだ、司法取引が必要かと思ってね。それで、彼らに来てもらったという訳なんだよ」


その時、警察庁の人間は半分凍死の世界に旅立ちつつあった。

「殺せば、取引できなくなるぞ」

参事とその取り巻きは、どうやらなんともないようだ。

なるほど、彼らは異世界の勇者パーティーだったのか。

それで、腑に落ちる。勇者は単体でも相当に危険な存在だが、それを支えるパーティーが存在する場合はもっと厄介になる。


「君の犯した罪は許されないが、君のような優秀な調査員もまたいないということは事実だ」参事は話をかぶせてくる。


「あの話はどうなる」俺が気にしていたのは、それである。

「ああ、残念ながら、あれを認めることはできない。君は、辞表を出すつもりだろうが、あれがなければ、出さないだろう。我々は君のような優秀な人員を手放したくないのだ」

それは、金をあきらめてこれからも働き続けろということを意味する。


視線で人を殺せるならば、参事はこの時死んでいたに違いない。いや、7度以上死んでいたに違いない。

怖しいほどに冷たい視線が参事、勇者だった男すらひるませる。

それほどの憎悪が燃えていた。


「君の仕事は滅多にないし、楽なものだろう」少し怯んだ参事が話を逸らすように言う。

確かに、発足以来まだ一件しか案件がない。


「参事は忙しいので?」

「ああ、人を簡単に殺すようなものを相手に交渉するのだよ、なかなか大変だ」

「そうですか」


こうして、俺は辞表を出すことができず、10億円の話も立ち消えになっていたのである。

銃の違法販売と過剰防衛等の犯罪を許容するが、例の案件は却下、今後も公務員(駒)として働き続けることになったということであった。


異世界の勇者パーティーは物理的に、魔法の大家ですら超え難い難物であった。

勇者の特徴とは、常識が通じないということである。

魔法はすべてはじく、剣技はダイヤすら切り裂くなど、正直、意味不明の強さを持っていることである。下手に喧嘩をしてよい存在ではない。

陣容を見ても、俺に勝ち目はなさそうだった。


そして、帰りの自動車でも、参事はそのようなことを、仲間と検察庁の職員に自慢していたのであった。

「それにしても、あの視線は、参事官も怯んでましたね」女事務官。

「奴の監視は徹底的にしないといけないぞ」参事。

「わかっていますよ、それが我々の仕事なんですから」と元パーティーの女魔導師が言った。


だが、10億円を支払わないという事件が、歯車を大きく動かすことになる第一歩であったことは間違いない。

彼らは、好き好んで、やらずもがななことをやってのけた。

そして、それは当然この後大きな反響を及ぼすことになる。


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