第19話 運命の帰還
019 運命の帰還
某県某氏、航空自衛隊基地
「時空振動波検知!」
「非常態勢に移行、航空機の発着を緊急停止!」
この基地の管制塔の一角に見知らぬ人間たちがやってきて、なんらかのレーダーを張り、常に待機するようになった。それから数か月の日々が過ぎていた。
彼らが何者なのか?管制の隊員はほとんど忘れかけていた。
確か政府の組織に関係する何者かだったような?
滑走路に突如、棺桶型の光る物体が出現し始める。
緊急警報が騒がしく平和な基地に鳴り響く。
消火班の車両が突撃していく。
棺桶型の何かからは、火が出ていたのである。
普通の人間には、発光する四角い物体に見えるが、関係者には、光る棺桶が帰ってきたという感慨があった。
彼等もまた、この転移装置を棺桶と呼び習わしていた。
「何だあれは!」
棺桶から、スペースノイドが引っ張りだされる。
未知との遭遇をまさかこの基地で行うことになるとは!
航空自衛隊の隊員はそう考えたであろう。
あれは、宇宙からの船なのだろうか?
それとも、大気圏突入用カプセルなのか?
燃える棺桶から次々と人型のスペースノイドが引っ張りだされる。
彼らは、地球の重力のせいか立ち上がることすら難しいようだ。
勿論それは、〇スポを飾るような宇宙人来日ではなかった。
簡易棺桶に載せる前に、NASAのスペースノイドスーツ(宇宙服)を着用させられた高校生たちである。
やはり簡易棺桶は焼損していた。
それがなければほぼ全員が焼死していたであろう。
宇宙服が勝ったのである。
さすがはNASA!日本製では燃え尽きたかもしれない。
伊達に月に言ってはいないのだ。
一部には、本当はスタジオで写真を撮ったのだという噂が今でもあるわけだが。
最後の棺桶から宇宙服の人間が、桶の蓋を吹き飛ばして立ち上がった。
「やっぱりか!」頭のヘルメットを外しながら男は、罵った。
救助の航空自衛隊の隊員は今度こそ、本物の宇宙怪獣が現れたに違いないと思っただろう。
内からは、人間の力では到底開くことができない物だったからである。
基地内の部屋。
「影野3佐よく戻った」
「は!」
基地司令に一応敬礼で答礼する。
この男は、一応自衛隊にも属していた。まあ、陸上自衛隊なので関係がないといえばないかもしれないがな。
「SACTの者がもうすぐ迎えに来る、楽にして待っていてくれ」
「ありがとうございます」
「全く、人騒がせな」こうして司令と副官はやれやれといった風に消えていった。
ここは、隔離室である。
基地内には箝口令が敷かれることになる。
これは、極秘扱いなのだから。
米国の衛星に撮影されていないといいな。
SACTの車両が何台かきて、俺たちは隔離状態で搬送される。
一応、新たな病原菌などを持ち込まないための防疫措置である。
1週間、防衛医大付属病院で隔離、精密検査を受けることになる。
ガラスの向こう側に、初めて?見る参事が現れた。
何回かあったことがあるのだが、挨拶すらかわしていないせいか、見覚えがないのだった。
鍛え抜かれた鋼のような自衛官。
電話でしか声を聴いていない上司。
「無事でなによりだ。影野君」
「参事、任務達成です。約束」
「ああ、その部屋をでてからその話をしよう」
「よろしくお願いします」
命を賭けたトレジャーハンターなのだから、それに見合う報酬を得るのは当然なのだ。
俺は、その金で何をしようかと、隔離病棟の病室で思いを馳せていた。
都内某所
内閣府情報調査室特殊誘拐対策班の所在するビル。
昨日、ようやく、釈放されたのである。
そして、昨夜のうちにに辞職願を書いて、懐に忍ばせている。
「一身上の都合により辞職します」と。
その日は、このビルに初めて参事官とそのお供達が来ていた。
そして、それ以外にも
「初めまして、警察庁刑事局の安西と申します」と名刺を出される。
「同じく、冴羽と申します」と名刺を渡される。
「参事なぜ警察庁の方が?」
「まあ、座り給え」
その声に促されて全員が着席する。
嫌な予感がいや増すばかりだ。
まあ、アブダクトは犯罪だから当たり前かもしれないと何とか、表情を良くしようと足掻く。
「君は非常に優秀な職員ということはわかっている。しかし、今日、警察庁の方が来られたのは、ある嫌疑が君にかけられているのだ」参事官は重々しく語り始める。
「嫌疑ですか」俺は冷や汗を止めることができなかった。しかし、証拠などないのだから、すべては俺の報告を信じるしかないことも事実。
そして俺の報告では、何事もなく、帰還を成功させたという結論に至っている。
「ああ、君もわかっているだろうが、君は、向こうで殺人を行った」
「いえ、そのようなことはけして」冷や汗が流れる。
「子供たちが証言しているよ」
「それは交戦規定に基づいた防衛行動です、正当防衛に当たります」
「しかし、外交官の君が、簡単に攻撃してはいかんだろう」
「参事はご存じないでしょうが、ああいう中世世界では、簡単に人が殺されます。私も殺されかかったのです」
「子供たちの証言では、そうはなっていなかったがね」
「殺されようとしていたのは、私です。彼等とは考え方が食い違うのは仕方ないでしょう。それに彼らは、向こう側から精神的に干渉され、精神支配を受けかかっていました」
「そうかね?」
「はい」
だが、目の前の彼らの顔はすべてを俺の意見を否定しているのは間違いなかった。
嘘つきの言うことなど信用するはずがないだろう!彼らの顔はそう語っている。
何故、俺の報告が疑われているんだ!
ますます、嫌な予感が膨張していくのだった。
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