第17話 雷は落ちる場所を選ばない

017 大同小異


ぎょっとした隊長。

そして、冷めた表情の俺。


「熊は何を探しに来ていたのかな」

「何のことだ」

しかし、俺にはそれが何かすぐにわかった。


はちみつの臭い、俺たちの世界とは違うが、はちみつである。

特殊な花から作り出される、はちみつはほとんど臭いがしない。そして、それは熊の大好物なのだ。それを俺のテントになすりつけてくれた仲間!がいたのである。


「国と国の決め事なんだが、一応俺は、外交官の地位ももっているんだが・・・」

「何のことだ」

「此れは敵対的行為と考えてよいのかな?」

「ふん、我々の方が数が多いんだぞ」

「知ってる、初めからそういうことをもくろんでいるんだな」

「なら、結果もわかってるんじゃ」と隊長の言葉。

それを遮る俺。

「そのうえで、付いてきてるんだぞ。その意味するところは?」

「はったりだ」

「そうか?」


「抜剣」兵士たちが剣を抜く。

「因みに、請求書は王城に届ければ、金になるのか」

「ふん、雷の場所はわからずじまいだったな」


「その所は、クリアできている。電波がいつも乱れている方向があるからな。その方向、こっちだろ」と方角を指し示す。

隊長の顔色が変わる。

「顔色、良くないんじゃね」

「クソ!」

「おい小僧ども、離れてろ」

少年少女たちが後ずさりする。

剣士たちはそれには、かまわない。

人質にするつもりはないようだ。

「貴様は、端から気に食わなかった」

「ああ。それは俺もだよ」この国の人間は居丈高でどうもいけ好かない。


ジリジリと包囲が縮まる。

彼らには、俺のガバメントが目に入らないようだ。


「7発撃てば終わる」

「そうだが、7人死ぬぞ」

「撃ってみろ」

バンバン、2発発射する。完全に眉間に撃ち込まれるはずだった弾丸は空中で停止して、落下した。

「はは、やっぱり、魔導師さまから借りた魔道具が弾を止めた」

「ふうん、なるほど馬鹿じゃなかったのね」

「掛かれ」

周囲の兵が殺到する。

残り5発を連射する。

兵士5人が後ろに崩れ落ちる。

隊長以外は、守られていなかったのだ。


「はは、これを見ろ」隊長は、ランプのような魔道具を掲げる。

いやいや、5人死んでますけど。


残りの兵士は青ざめている。自分たちも守られているという説明を受けていたからである。

ランプのような魔道具の明かりが消える。

どうやら、魔石切れのようだ。

この世界の道具は、魔石により動くものが多い。エネルギーの魔石がなくなると、電池切れの装置と何ら変わらない。


「早く殺せ!」

その時、銃声がして、ランプが砕け散る。

「な!」

「あのね、7発は弾倉に入れておくんだけど、あんた等みたいな敵がいる時は、銃身にももう一発入れておくんだよ」

「え」

その声と弾倉が落ちるのは同時、そして、すぐさま別の弾倉を叩き込む。

「残念だけど、ここでお別れだ」

ガバメントの速射音が森に轟いた。


「きゃあああ」高校生女子が死体を見て悲鳴を上げる。

これじゃあ、俺が悪人みたいではないか。

死体を収納ボックスに入れる。

残念ながら死体の届け賃は貰えそうにない。


女子高生の半狂乱を何とか納めて、朝を迎える。

高校生たちの眼が、極悪人をみるような目つきになっていた。

いやいや、君たちのために、したんだけども。


まあそれも仕方ない、この世界の男女はとにかく美しい。

性格はともかく、所謂、金髪青眼(勿論それ以外の色もあるが、概して美男美女)の美しい造形の顔の兵士たちが死んだんだからな。

しかも、それほど美しくもない日本人に殺されてな。


まあ、帰るというなら、城に帰ってもらっても問題ない。

俺は、一人の少年さえ連れ帰れば、10億円だ。

こいつだけは、縛ってでも連れて帰るがな。


そこから、目的地まではそれほど遠くなかった。

森は、回り道だった。俺を抹殺するための舞台だったのだろう。

まあ、これも仕方ない。



空に雷光が走り回る土地であった。

ゴロゴロと落雷の音が響きわたる。

こんな場所どっかで見たような?

俺は、ふとそんなことを考えながら、簡易棺桶を広げていく。

ほんとにこれで帰れるのかな。

何人か燃え尽きるかも。絶対あいつだけは無事に帰ってほしい。

10億円だから。俺の願いは神に届くのか、そればかりはやってみないと分からない。


やっとこのめんどくさい仕事ともおさらばだ、初仕事だがな。

10億円、普通に暮らせば一生、働かなくていい。


だが、この時の俺は、この世界が極悪であるばかり考えていたのだが、あることを失念していた。

それは、この世界の極悪さという物はこの世界の限定的な特許ではないということを。


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