第16話 引き渡しと帰還と

016 引き渡しと帰還と


結局、勇者チーム4名と太白瑠葵ともう一人の友達は、現実逃避の為に、居残る判断を下した。その他の人間は全うな判断を下した。そもそも巻き込まれた人間なので、召喚側も手放すことに異存はなかったのだ。


今後、帰ることはかなわないと知っていてその判断を行う彼らは確かに、勇気ある者だった。

だが、俺は思う。勇気ある者を勇者と呼ぶ。しかし、それは蛮勇であろう。そして、勇者と英雄は違うということだ。勇者とは、誰でもなれる。しかし、英雄は勇気だけではなることはできない。そして、勇者とは時に使い捨てられる存在であるということを知ることになるということを。彼らに幸あれかしと。


300キロの金塊が、アイテムボックスに飲み込まれる。

役人たちの表情が、面白い。あああ~という顔だ。


アイテムボックスからその代わり、簡易棺桶が出される。

「この地方で、雷の落ちやすい場所はないか」

「雷?」

「電気がないと作動しないんだがな」

「雷魔法では?」

「威力が足りない、少なくとも落雷級のエネルギーが必要なんだが」

それは、相当のエネルギーだが、俺がこちらに来た時の十分の一程度だ。

来た時に、半焼けの棺桶5号からのデータフィードバックがなされている。


帰りの地点は、はっきりしているため、省電力で帰還できるはずなのだ。

ゆえに、簡易棺桶でも帰れる予定だ。


「そういう地域があります」と役人。

「では、そこへ皆を連れていくので、旅の準備を」

それはとある湖の近くらしいが、非常に雷が起こる場所だという。

しかし、そこに行きつくまでには、危険な場所を通る必要があるらしい。

勿論、護衛の兵士たちをつけてもらうことにする。


勇者チームはつけてくれないそうだ。

連れ帰られるのを恐れているのかもしれない。勿論、そのような場合には、そのような考えを吹き込むつもりだった。


こちらにも、警戒感はある、人質の奪回と賠償金の奪回、任務はまだ終わらない。

アイテムボックスは、スキル所持者を殺せば、中身がばらまかれることになる。

つまり、俺を殺せば、金塊は奪回できるわけだ。


国同士の約束事を守る国であってほしいものだ。

俺は一人でも、全権大使なのだ。俺との約束は国と国との約束である。

しかし、彼らはその意味を理解しているのだろうか。

この世界でも、国同士との約束を平気で破る国はある。

案外近くにな。


雷を求める旅はすでに暗雲が漂っているように思えた。


それこそ、2週間の旅を行うために、高校生をしごくことになる。

戦士向きの者はまだましだったが、戦闘向きのスキルが付与されなかったもの達は、只の子供だった。


仕方がないので、俺が個人的に持ってきた、銃を貸与してやるしかなかった。

1週間の訓練で何とか、射撃は覚えた。

だが、ここで問題が起こる。

銃を売ってくれ問題である。


勿論、売ることに異論などないのだが、売る相手が問題である。

どうも嫌な予感しかしないのだ。彼らの言動と行動を見ているとな。

こういう勘はよく当たる。


丁重にお断り申し上げる。本当は、お得意様価格、つまりぼったくり価格で売りたいところだが、そこは自重する。その銃を自分に向けられてはかなわないからだ。


だらだらとした高校生たちとその護衛集団、そして俺。

護衛集団は、隙あらば俺を抹殺して、国家の金を奪還しようとしているように思われる。だが、彼らに俺を殺害することはできない。そのことは、先日の立ち回りで示したのだが、この世界の者たちはおよそ理解することがないようなのだ。


高校生たちは、喜び半分、寂しさ半分というところか。

残ることにした覇気のある子どもたちが城壁から見送ってくれる。

俺は、ある一人だけ連れ帰れれば問題ない。ほかの子供は余禄にしか過ぎない。


街から出れば、いよいよ、魔獣も人殺しも出る郊外である。

さすがに、テントなどは、野外訓練を受けているせいかすぐに立てることができる。

見張りを兵士に任せて俺は自分のテントに入る。


俺のテントには、知らない臭いがついていた。

嫌な予感がピリピリする。

俺は、素早くテントに自分の代わりのシュラフを作り、自分に見せかけてそこからでる。


世闇に包まれる森。もともt、鬱蒼としているが、陽が落ちると真っ暗である。


そして、周囲に、魔獣が何頭か現れた。

熊の魔獣が突進する。場所は俺のテントだった。

明らかに確信をもって俺のテントを襲っている。


熊に恨まれることをした覚えはないがな。

熊は、俺のテントを破壊し、暴れまわる。

護衛の兵士たちは、それを見ているだけだ。


「被害を出すな、防御!」隊長は、俺以外の人間を守るつもりなのだろう。

熊は、目的のものを奪取したのか、森の闇に入っていく。やっぱり何かが俺のテントの中に仕込まれていたのだろう。


熊が森へと逃走する際、それを取り合う様子が見えた。

普通の場合なら、人間を襲うところだが、目的のものはよほど魅力的なのだろう。

彼らは、それだけを目的にしていたようだった。


「確認せよ」隊長が指示をする。

「何を確認するつもりだ」

まさにぎょっとした顔で隊長は、言葉を失った。


明らかに言葉の選び方が間違っているだろう。

普通は、「奴は生きているか、無事か」なんて言ってほしい。

確認せよって、死体以外にないよね!この場合さあ。



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